子宮筋腫は子宮にできる“こぶ”のことで、良性の腫瘍です。30歳以上の女性の2~3割にみられ、珍しいものではありませんが、過多月経(月経の出血量が増えること)、貧血、月経時の痛み、不妊症などの原因となります。
今回は、子宮筋腫の検査方法、治療の選択肢、手術を実施すべきタイミングなどについて、大阪中央病院副院長・婦人科部長の松本 貴先生に伺いました。
子宮筋腫の検査としてはエコー検査や内診があります。手術を考えている患者さんの場合には、MRI検査を行って詳しい症状と筋腫との関連を調べることが多いです。お腹の中をはっきりと見ることができる検査方法で、手術の方針を検討するために有用です。
MRI検査を行う際、注意すべきことは特にありませんが、狭い装置に入るため閉所恐怖症の患者さんには軽い抗不安薬を服用していただいてから実施することがあります。どうしても実施できない場合には、圧迫感が少ないオープン型MRIを導入している施設に紹介することもあります。
子宮筋腫は、大きくなるとお腹の上から固いものが触れるようになります。しかし、便秘や宿便、太ったのかもしれないなどと思ってしまい気付かない患者さんも多いようです。月経の出血量が多い(過多月経)、お腹が張った感じがして苦しい(腹部膨満感)、尿が近い(頻尿)といった症状があれば、病院で検査を受けることをおすすめします。
手術を行う場合のプランは主にMRI検査を行って決定します。手術の前にはほかにエコー検査や、心電図検査などの一般的な術前検査が行われます。悪性が疑われる場合には、造影剤を用いたMRI検査(造影MRI検査)や血液検査(腫瘍マーカー)を行うこともあります。
子宮筋腫が小さくて症状が出ていなければ治療の必要はありません。月経の出血量が多くて貧血がある場合は、貧血対策として鉄剤や低用量ピルなどを使用します。
偽閉経療法は、卵巣のはたらきを抑える薬(GnRHアゴニスト)を使用して月経を止める治療方法です。一時的に閉経しているのと同じ状態にすると、女性ホルモンが減って筋腫が縮み、月経血が多いことによる貧血も改善します。副作用としては更年期障害のような症状があります。また、閉経状態が長く続くと骨塩量(骨を構成するミネラル成分量)が減り骨粗しょう症をきたすため、投薬は6か月間が上限とされています。
手術を行う場合、術前治療として偽閉経療法を行うことが多いです。基本的には約1~2か月間、筋腫が非常に大きい場合は約3~4か月間行い、副作用が出る前にGnRHアゴニストの投与を終了します。
子宮動脈塞栓術は、子宮筋腫に栄養を運ぶ子宮動脈に詰め物をして塞ぎ、子宮筋腫を縮小させる治療方法です。 2割程度の患者さんで再手術が必要になるといわれています。なお、将来的に妊娠出産を希望する患者さんには慎重に適応を判断します。
当院では実施していませんが、子宮筋腫に超音波を当てて焼却する集束超音波治療(FUS)という治療方法があります。お腹に傷ができない点がメリットですが、将来妊娠出産を希望する患者さんには実施できず、子宮筋腫の位置などによっても治療の適応が限られます。また、自由診療のため費用は全額自己負担です。
手術の方法としては、子宮を全て摘出する“子宮全摘術”と、筋腫だけをくり抜く“筋腫核出手術”があります。それぞれのメリット、デメリットについて次の項目で詳しく説明します。
子宮全摘術では子宮を全て摘出するため、子宮筋腫を根本的に治すことができますが、治療後は妊娠ができなくなります。基本的には、45歳以上の患者さんは妊娠する力が低下することから子宮全摘術をおすすめしています。
筋腫核出手術では子宮を保存できますが、再発してしまい再手術が必要となる可能性があります。また、筋腫だけをくり抜く治療法のため、縫合を終えるまでの出血量が子宮全摘術と比べて多く、手術後も縫合創からじわじわと出血することがあります。術後の癒着*もある程度は起こります。基本的には、妊娠を希望しない場合を除き、30歳代までは筋腫核出手術をおすすめしています。
*癒着:本来は離れているはずの部分がくっついてしまうこと。
30歳代後半から40歳代前半までの患者さんは、手術を決断せず様子を見ることも選択肢になると考えています。妊娠出産を目指すのであれば40歳代で筋腫核出手術を選択してもよいと思います。
私が診察するときは、手術方法のメリットとデメリットを詳しく説明したうえで、数か月ごとにエコー検査などを行いつつ、患者さんがその後の人生をどのように過ごしていくのかはっきりと気持ちが固まるまで、手術を先延ばしにすることも多いです。たとえば、たくさんの筋腫ができている患者さんでは、全ての筋腫を取り除いたら子宮が傷だらけになり、手術時間も長くなってしまいます。また、せっかく筋腫を取っても数年後に再発する可能性があるため、どうしても手術しなければならない理由が見つかるまで様子を見ることもあります。
子宮筋腫は不妊症の原因となるため、妊娠出産を考えている場合は手術したほうがよいでしょう。ただし、手術するのが早過ぎると、妊娠したいと思ったときに子宮筋腫が再発してしまっている可能性があります。妊娠出産を考える少し前が手術に適したタイミングだと考えられます。子宮筋腫が非常に大きくなっている場合は、手術のリスクが高くなるためすぐに手術をおすすめすることがあります。
筋腫核出手術の入院期間は約7日間、子宮全摘術では約8日間です。患者さんが元気であればもう少し早く退院することも可能ですが、手術後はゆっくり過ごすとよいと思います。妊娠許可の時期は医師や施設によって異なりますが、当院では約3か月で許可を出すことが多いです。
職場復帰が可能な時期は、仕事の内容や通勤の状況によります。テレワークで、勤務時間が1日3~4時間程度など短くてもよければ、退院後すぐに働き始めて差し支えありません。立ち仕事や重い物を持つ仕事は1週間程度、体に負担がかかる夜勤などは2~3週間は休むことをおすすめします。手術後は、年に1回はかかりつけの病院でエコー検査などをして、また子宮筋腫ができたら治療を検討するとよいでしょう。
当院は、より高度で患者さんの体への負担が少ない腹腔鏡下手術の実現を目指すとともに、大きな子宮や癒着症例に対する腹腔鏡下子宮全摘術、妊娠する力の温存を目指した腹腔鏡下子宮筋腫核出術に努めています。
また、より安全な手術を実現できるよう、さまざまな工夫を行っています。たとえば、手術のなかで子宮や子宮筋腫を細かく刻んで小さな穴から体外に取り出すために、当院では電動モルセレータという医療機器を使用しています。電動モルセレータを使用する際はお腹の中に組織が飛び散ってしまう恐れがあることから、当院ではアイソレーションバッグ(手術用の袋)に子宮や子宮筋腫を入れて細かく切ってから除去する方法を開発し、全ての子宮筋腫の手術で実践しています。
手術において合併症はある程度の確率で起こるものですが、丁寧に行うことでトラブルの防止に努めています。たとえば、子宮全摘術では腟を切断して子宮を摘出した後に腟を縫い合わせますが、縫った部分が開いてしまう恐れがあります(離開)。当院では離開を防止するために1層ではなく2層の縫合を行っています。
子宮筋腫をくり抜いて子宮を保存する手術(子宮筋腫核出手術)では、子宮をしっかりと縫い合わせる必要があります。縫合した部分の強度が弱くなっていると、妊娠出産をするときに子宮が破裂してしまい、母子の命に関わる恐れがあるためです。子宮は赤ちゃんが入る大きさまで伸びる臓器ですから、妊娠出産に耐えられるよう縫合しなければなりません。私たちは、単に止血するためというだけではなく妊娠出産するときのことも考慮した縫合を実践しています。
“子宮筋腫がある”と聞いて不安になる患者さんもいらっしゃると思いますが、子宮筋腫は怖い病気ではありません。筋腫の数や大きさ、年齢にかかわらず、手術適応になる場合は私たちが力を尽くして手術を行います。気になることがあれば、ぜひ遠慮なくご相談ください。
医療法人伯鳳会 大阪中央病院 副院長・婦人科部長
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