患者さんになるべく長く元気な時間を提供したい

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患者さんになるべく長く元気な時間を提供したい

心臓血管外科医として患者さんに真摯に向き合う津田 泰利先生のストーリー

山梨県立中央病院 心臓血管外科部長・循環器病センター長
津田 泰利 先生

叔父の存在が医療に興味を持つきっかけに

昔からよく考えているのですが、医師という仕事に興味を持った明確な理由は分からないままです。親は医師ではありませんでしたが、親戚には医師が多かったことが影響しているのかもしれません。

医師であった叔父が綴った「ごく自然に、患者さんに喜ばれ感謝していただく仕事ができることは、これまで13代にわたり医業を行ってきた先祖の道程であり私はただその流れのままに仕事ができることに大変感謝しています」という言葉が言い得て妙な気がしています。また、病理医をしている別の叔父に小学校の入学祝いに顕微鏡と人体組織のプレパラートを贈ってもらって。それを小さな頃から見ていたことも医療に興味を持つきっかけの1つになったように思います。

いったん止まった心臓が再び動き出す様子に感銘を受け、心臓血管外科医の道へ

群馬大学医学部に進学したのですが、特に何に打ち込むわけでもなく平凡な学生生活を送っていました。ある日、臨床実習で心臓の手術を見学した際に、一度止めた心臓が力強く拍動を再開する様子にいたく感動して。頭では理解していましたが、私の目には手術のために一度止めた心臓が再び動き出すようにはまったく見えなかったからです。しかし、手術を終えて人工心肺を離脱した心臓は鼓動を再開し力強く拍動し始めて。その光景に感動を覚えた私は心臓血管外科医の道を進むことに決めました。

さまざまな諸先輩方の指導によって心臓血管外科医として成長

医学部卒業後に入局した東京女子医科大学での仕事は文字どおり激務でした。教授以下30人程度のさまざまな年齢の医師がまさに寝食を共にしながら治療にあたるわけです。当時はパワハラなどという概念はありませんでしたので、すぐ怒鳴る先輩、理不尽なことを言う先輩もいましたが、一方で深夜まで熱心に手術のことを教えてくれる先輩、よくお酒を飲みに連れて行ってくれて相談に乗ってくれる先輩などいろいろなタイプの先生がいて。今になって振り返ると、若造である私に真正面から向き合ってくれていたことが分かります。多様な先輩方のいる環境で医師として最初の1年半を過ごしたことは、よくも悪くも私の医師としての生き方が決定づけられたと思います。

医師5年目の2000年に独立行政法人国立病院機構 長野病院(現 独立行政法人国立病院機構 信州上田医療センター)に派遣された私は、心臓血管外科の上司であった竹村 隆広(たけむら たかひろ)(現 佐久心臓血圧クリニック院長)先生に出会い、それから断続的に10年以上にわたってご指導いただきました。先生は手取り足取り教えてくれるタイプではなく、怒ると非常に怖い先生でしたが、困ったときはいつも親身になって助けてくれました。また新しい物事を取り入れるのに長けていて、心臓血管外科分野の中でも先進的な医療に触れることができました。先生は循環器領域のチーム医療(ハートチーム)の構築に尽力され、その卓越したリーダーシップを間近で勉強することができました。

心臓血管外科手術に臨む姿勢――常に想定外を考えて対応する

心臓血管外科の手術に限らず、どのような手術であっても手術中に想定外のことが起こることがあります。もちろん術前にでき得る限りのシミュレーションや準備を行っていますが、それでも想定外の事態に直面することはあるのです。

手術中に困難に陥ったときには、頭の引き出しを総動員して打開策を組み立てながら対応していきます。何とか無事に手術を終えたときには「本当によかった」と安堵感と充実感で胸がいっぱいになります。また、手術を終えて退院した患者さんが、退院後はじめて外来にお見えになった際にいただく感謝の言葉は医者冥利に尽きます。

地域医療に従事し、医療の幅広さと心臓血管外科という分野の素晴らしさを再認識

2004年に初期臨床研修制度の導入に伴い、勤務していた独立行政法人国立病院機構 長野病院の心臓血管外科は深刻な人手不足に陥っていました。それがもとで業務過多となり、私は燃え尽き症候群のような状態になってしまって。2008年にいったん心臓血管外科医を辞め、軽井沢病院で3年間地域医療に従事することに決めたのです。

この病院では老衰で亡くなる高齢の方のお看取りをしたり、老人ホームに往診に行ったりして多様な病気の患者さんを診療しました。医師になってから心臓血管外科医として一貫して心臓の病気を診療していた私にとって、地域医療というまったく異なる分野に身を置くという経験は得るものが非常に大きかったと思いますし、医療の幅広さを実感することができました。また、自分は心臓血管外科という分野が非常に好きであるという点を再認識できたことも大変よかったと思っています。

医師である前に1人の社会人として患者さんに真摯に向き合う

医師という職業は天職(calling)であるという概念があります。この言葉が意味するとおり医師という仕事は天から授かった特別な務めであると思う部分もなくはありませんが、基本的には医師は特別の才能を持っているわけでも、偉いわけでもなく、数ある職業の中から医師という仕事を選んだ一社会人にすぎないと私は考えています。だからこそ、自ら選んだ医師という仕事に一生懸命向き合うべきだとも。

医師の中には付き合いの浅い年長の患者さん対しても「おう! 大丈夫? 痛くない?」などと気安い言葉で話す人がいますが、一般社会ではありえないことです。初めて訪れた寿司屋で板前さんからいきなり「この寿司食ってみろよ! うまいぞ」と言われたらびっくりしてしまうのと同じです。

そのため、医師である前に1人の社会人として礼節を重んじながら患者さんと人間関係を構築することを大切にしています。診察においては患者さんとご家族の考えをよく聞き、どのような治療を望んでいるのか、あるいは望んでいないのかを丁寧に聞くことを心がけています。

よりよい治療によって患者さんになるべく長く元気な時間を提供したい

医師という仕事をするうえで、知識を高め技術の向上に励むことは必要不可欠です。「苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生む」という新約聖書の一節を胸に、日々の研鑽に努めています。この言葉を私達の分野で考えると“困難な症例に立ち向かうことで技術や知識が向上し、よりよい治療を行える希望が生まれる”という意味であると捉えています。

なるべく長く元気な時間を患者さんに提供することを目指し、これからも修練を重ねるとともに若手医師の育成にも励んでいきます。

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