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インタビュー

患者さんの治療と仕事をサポートする、横浜労災病院の取り組み

患者さんの治療と仕事をサポートする、横浜労災病院の取り組み
千島 隆司 先生

昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門教授/昭和大学横浜市北部病院外科系診療センター乳腺外科 ...

千島 隆司 先生

大椛 裕美 さん

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 看護部

大椛 裕美 さん

藤田 寛 さん

横浜労災病院 患者サポートセンター 医療福祉相談室

藤田 寛 さん

目次
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この記事の最終更新は2018年10月02日です。

乳がんと診断される女性の中には、仕事をしている方も少なくありません。乳がんの治療と仕事を両立していく過程で、不安や悩みを抱くケースも多くあるといわれています。

横浜労災病院には、患者さんの治療と仕事を両立するための両立支援コーディネーターが在籍し、がん治療と仕事の両立支援に力を入れています。今回は、横浜労災病院の千島隆司先生、看護師の大椛裕美さん、医療ソーシャルワーカーであり両立支援コーディネーターでもある藤田寛さんに、同病院の取り組みについてお話をお伺いしました。

藤田さん:医療ソーシャルワーカー(MSW)は、現状では一般的にあまり知られていない仕事かもしれません。

医療ソーシャルワーカーには、患者さんが治療を安心して受けることができるよう、生活を支援していく役割があります。たとえば、患者さんが安心して治療を受けるためには経済的基盤が必要です。社会資源を上手に活用しながら支払いに困ることがないよう医療サービスを受けていただくことも、私たちの仕事のひとつなのです。

もちろん、治療をしながら仕事をどうやって継続していくのか相談に乗り、一緒に考えていくことも多いです。

藤田さん:医師や看護師は、病気を治すために患者さんへ指導をします。しかし、私たちは「患者さんへ」指導する立場ではありません。あくまでも「患者さんからの」相談に乗る立場です。根本的にベクトルの方向が逆なのです。

患者さんの相談に乗り、支援するときに意識していることがあります。それは、その人が本来もっている力を引き出す「エンパワメント」を行うということです。患者さんは潜在的にさまざまな力を有しており、自らがその力に気づき、発揮していけるように関わっていきます。

また、ネットワークをたくさんもつことにより患者さんが支えられると思っています。病院だけではなく、役所や相談機関など、患者さんがSOSを出せる場所をたくさんつくっておくことも、社会復帰のためには大切になるでしょう。

千島先生:私たち横浜労災病院では、医療ソーシャルワーカーである藤田さんが両立支援コーディネーターでもあります。両立支援コーディネーターには、治療と仕事の両立の相談に乗りサポートする役割があります。当院では、患者サポートセンターに、治療と仕事の両立を支援する相談窓口を開設しました。

両立支援コーディネーター

大椛さん:まずは患者さんに相談窓口があることを知ってもらうために、両立支援に関するポスターを外来や病棟に貼っています。両立支援コーディネーターの存在や役割についても知らせるようにしています。

また、がんと診断された方に対して、両立支援を希望するかどうかを尋ねる質問票を作成しました。希望する方には、相談窓口の案内をわたし、面談を行うという流れをつくっています。両立支援コーディネーターとの継続的な面談をしながら、両立の支援を行っていきます。

大椛さん:もちろん、すぐに相談を必要とするケースばかりではありませんが、何か悩みがあるときに相談窓口や両立支援コーディネーターのことを思い出してもらえるような体制を現在つくっているところです。

お話ししたように、ポスターや質問票でスクリーニングをして、治療と仕事の両立に関して悩みを抱える患者さんを取りこぼさないようにしています。両立支援の希望がある場合はお話を伺い、必要に応じて両立支援コーディネーターにつなげるようにしています。

お話を伺う中で必要だと感じたら「相談窓口があるので、もしよかったらいってみませんか」と声をかけるようにしています。

相談窓口ポスター
実際に院内に貼られているポスター(横浜労災病院ご提供画像)

千島先生:ご本人が「相談の必要はない」と思っていても、困ったことがでてきたときに思い出してもらえることが大切です。いざというときに思い出してもらえるよう、このようなスクリーニングを大切にしています。

藤田さん:両立支援コーディネーターへの相談に回数の制限はありません。何回でも相談が可能です。たとえば、月に1度外来治療のために通院している患者さんが、治療の帰りに相談窓口に寄ってくれることもあります。この方の場合、月に1度お話を伺いながら就労状況を確認するということを継続しています。

また、職場とのトラブルが発生した場合など、必要があれば当院で社会保険労務士に相談をすることも可能です。依頼すれば無料で派遣してもらえるので、うまく活用してほしいと思います。

社会保険労務士:企業における「労働・社会保険に関する諸問題」に応じる、社会保険労務士法に基づく国家資格者

ピンクリボン相談室のピアサポートの利用も検討して

千島先生:ピアサポートには、「同じような体験をもつ者同士が助けあう」という意味があります。ピンクリボン相談室では、乳がんの体験者(ピアサポーター)が、患者さんのお話を聞き共に分かち合うことで、患者さんをサポートしています。

治療と仕事を両立する中で、愚痴を言いたくなることもあるでしょう。愚痴や不満も含めて、誰かに話を聞いてほしいと思うときには、ピアサポートの利用も検討してください。

千島先生乳がんと診断されても、焦って仕事を辞めないでほしいと思います。そして信頼できる相談相手を見つけて、なるべく無理をしないことを心がけてください。

日本人は、仕事を優先する完璧主義者も多いでしょう。しかし、少し「雑に生きる」ことを大切にしてほしいと思います。会社員であれば、管理職などの立場に左右されることもあるかもしれません。「自分が休むわけにはいかない」という気持ちから、頑張りすぎてしまうケースもあります。

しかし、まずは病気の治療を優先してほしいと思います。病気によってできないことも増えてくるかもしれません。しかし、まずは無理をせず、頑張りすぎず、ある程度「雑に生きること」をぜひ覚えてください。

大椛さん:私は、「医師や看護師に仕事の悩みを相談してもいい」と伝えたいと思います。たとえば、仕事を辞めようか迷っているなら、辞めてしまう前に私たち医療者に相談してください。

両立していく中で、病気や治療のこと以外の悩みが出てくると思います。そのときにも遠慮しないで相談してほしいと思います。医療ソーシャルワーカー(MSW)など適切な職種と連携してサポートすることができますので、医療者をうまく活用してください。

藤田さん:治療と仕事を上手に両立している人たちの特徴のひとつに、「職場に味方がいる」ことが挙げられます。うまく治療と仕事を両立している方には、上司でも同僚でも、職場に誰かしらの理解者がいる印象があります。

たとえば、検査や治療のために仕事を休まなければならないときもあると思います。そのようなときでも、職場に理解してくれる人がいれば、仕事のフォローも受けやすいのではないでしょうか。まずは職場に、相談できる自分にとっての理解者をつくるよう心がけてほしいと思います。

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  • 昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門教授/昭和大学横浜市北部病院外科系診療センター乳腺外科 診療科長

    千島 隆司 先生

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