
韓国で流行していることが大きなニュースとなっているMERS(Middle East Respiratory Syndrome 中東呼吸器症候群)。耳慣れない病気ですし、とにかく「怖い」というイメージをお持ちの方も多いと思います。今後MERSの対策を行う上で、過去の経験から考えるべきことは何でしょうか。SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome 重症急性呼吸器症候群)の経験と今回の韓国におけるMERS流行の経験から学ぶべきことについて、国際医療福祉大学教授、元国立感染症研究所所長の倉田毅先生にお話をお聞きしました。
SARSは2003年に登場し、わずか8か月で累積患者が32か国で合計8098人、死亡者数は774人という「コロナウイルス」の仲間による感染症です。SARSもMERSも同様にコロナウイルスの仲間により引き起こされ、また人獣共通感染症(動物由来の感染症)である点が共通しています。自然界の宿主については、SARSは2003年にハクビシンからヒトの世界に入りました(コウモリが疑われています)。MERSではヒトコブラクダです。ともに呼吸器症候群と名前が付けられていますが、下痢も主要な症状であることに注意が必要です。
今回のMERSでも、空調が原因でないかという報道がありましたが、SARSのときにも同様のことが言われていました。しかし、SARSは結局、空気感染や市中感染の明らかな証拠は全く見られませんでした。まず当時のことについて詳しくお話しします。
大きく感染が広まった場所として、香港のメトロポールホテルがあります。ここで一気に11か国に、そこからまた拡大感染し32か国に広がりました。このホテルでは、全館で客室空調は1系統であることも確認しましたので、それによって広がったのではないかと考えられていました。ところが、どうも宿泊者の分布を見るとおかしい点がありました。すなわち、SARSが9階の宿泊者にのみ明らかに広がっていたのです。この理由について考察がなされました。
この謎を解くカギは、ホテルの掃除係にありました。ホテルの掃除係はタオルでトイレを掃除しています。ところが、トイレを拭いたあとに同じタオルで机やいろいろな場所を拭いていたことが分かりました。さらには隣の部屋にも移動し、掃除を続けていきます。このように、何部屋も、いくつもの箇所も同じタオルで拭いていたことが分かったのです。
香港のメトロポールホテルに宿泊し、感染を広めたとされるのは患者であった医師です。この医師は重症の呼吸器症状に加えひどい下痢をしていました。下痢のせいで、たくさんのウイルスが便器についていたのでしょう。その便器を拭いたタオルが別の場所の清掃にも使われ、どんどん各部屋にウイルスが広まっていったと考えられます。
この場合、掃除を行う人にも感染が起きておかしくないのですが、この方々は首も含めてガウンできっちりと感染が起きないようにガードされていました。一方、ホテルで感染した方々は11か国に分かれて帰っていき、その後次々と感染が発生し、32か国に拡大感染しました。
ここで考えるべきことは、「呼吸器症候群」という病名にばかりとらわれすぎていなかったかということです。そもそも、呼吸器症候群という名前は呼吸器症状が強かったためにつけられた名前です。しかし、「呼吸器症候群」という病名からは空気感染のリスクなどばかりを連想してしまいます。
ここでは下痢の症状を軽視せずに、そちらから感染が広まったのではないかという見方をすることが必要であったと考えられます。MERSにおいても、尿中や糞便中のウイルス排出が指摘されています。同じ過ちは繰り返してはいけません。これは、2003年には香港大、台北大の内科教授でそれぞれSARS患者を300名以上治療した医師の直接の説明で判明したものです。
次に、今回の韓国におけるMERSの流行を考えます。MERSはヒトコブラクダの棲息するサウジアラビア周辺あたりで少しずつ発生し、地中海地域からの欧州一帯への輸入例として見られていました。今回の韓国での拡大感染はバーレーンから帰国した方(68歳男性)からといわれています。正直なところまったく予想されなかった事態です。
まだ正確な情報が発表されておりませんので、ここからは推測の話になります。
まず、ウイルスの病原性が著しく変化したという報告はありません。空気感染の可能性はゼロではありませんが、そうなっているのであればもう少し広がりを見せてもよいはずです。SARSでも咳痰をじかに浴びたヒトは感染していますが、街を歩いていて感染したヒトは全くいませんでした。
今回、感染の拡大は韓国の病院内で発生したものということは分かっています。ここで課題になるのは、感染に対する対応措置がどうであったかです。発症者は隔離されているといわれていますが、本当に隔離されていたのか。病院の隔離室はしっかりしていたのか。医療従事者や病院に入る人、一人ひとりの感染防御はどうだったのか。これから韓国は病院や医療の実質が問われることになります。6月23日現在、MERS感染者は175名、死者27名と報道されています。
また、一部報道では4000人という通常から考えると信じられない人数が隔離されるといわれています。感染力が特に強いのはMERSコロナウイルスが陽性で肺炎の症状が強い人、さらに言えば下痢の症状が強い人だと推測されます。症状が全くない人に感染力があるかは疑問が残りますし、市中感染の証拠は今のところありません。つまり、「本当に隔離すべき人を絞りきれずに、結果として隔離ができていない」という可能性も考えなくてはいけません。
韓国の対応措置がいかなるものであったか、大きな疑問が残ります。どうして初動を誤ったのかが分かれば、より正確な実態が判明するとは思います。なぜ韓国が初期の感染拡大阻止に失敗したかについて、我々はきちんと考えるべきです。これは、今後の日本がハイリスクな人を正確に絞り込み、厚生労働省が指定する高度な感染症指定病院の施設を有効に使うという「きめ細やかな対応」をするための参考になると考えています。
記事1:MERSとは(1)―MERSの基礎知識
記事2:MERSとは(2)―MERSの感染経路と予防
記事3:MERSとは(3)―MERSの症状と治療、致死率は?
記事4:MERSとは(4)―SARSと韓国におけるMERS流行の経験から考えるべきこと
記事5:MERSのまとめ-感染症の専門家に聞く。
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断続的な強い吐き気が続いています
10年以上前から、うつ病と診断され、投薬治療を受けています。 また、機能性ディスペプシアの診断も受け、症状が酷い時は通院しています。 失業して、1年間就職活動を行い(その間はほぼ引き籠り)、2週間ほど前から新しい就職先で就業を始めました。 すると、以下のような症状が出始めました。 ・家から出て出歩くと、断続的な強い吐き気に襲われる。 ・胃がひっくり返る感じではなく、喉や舌の付け根に違和感が生じ、そこから爆発するようにオエッとなる。 (ただ、胃液が口まで上ってくることもある) ・思い切りオエッとえずかないと、吐き気が治まらない。オエッとなると、数分治まる。 ・朝昼よりも、夕方から夜、特に会社を出て帰宅中が一番症状が酷い。 ・渋い日本茶や、真水を飲むと、即座に吐き気がして、胃に到達する前に吐き出してしまいそうになる。薬を飲む際などに苦労する。 (味がついたジュース、麦茶などは平気) ・食事中に、吐き出してしまったりはしない。 ・自宅で安静にしている時は、吐き気は治まる。 うつ病でお世話になっているメンタルクリニックの先生に症状を伝えたところ、うつ病の薬の副作用で、喉が乾燥してオエッとなるのではないか、と言われました。 しかし、試しに飲み物をガブガブ飲みながら会社から帰宅してみたのですが、吐き気は治まりませんでした。 これは、何科に相談し、どんな治療を受けるのが良さそうでしょうか。 飲んでいる薬: 【毎食後・就寝前】 ノバミン錠5mg×1 【夕食後】 イフェクサーSRカプセル75mg×3 リボトリール錠0.5mg×1 ロスバスタチン錠5mg×1 【就寝前】 ロラメット錠1.0×2 デエビゴ錠2.5mg×2 ミルタザピン錠15mg×3 レルベア100エリプタ30吸入用×1
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