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国立国際医療研究センター病院の感染症病棟で大切にしていること

国立国際医療研究センター病院の感染症病棟で大切にしていること
大曲 貴夫 先生

国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター センター長、AMR臨床リファレンスセンター ...

大曲 貴夫 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年08月21日です。

記事1『国内の感染症対策を担う国立国際医療研究センター病院の感染症病棟――​​その特徴と取り組みとは?』では、国立国際医療研究センター病院にある感染症病棟の概要や取り組みについて、記事2『国立国際医療研究センター病院の感染症病棟の実際とは? 設備や現場で働くスタッフについて』では感染症病棟の設備や働いているスタッフについてご紹介しました。本記事では、国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター センター長である大曲貴夫先生に、感染症病棟において大切なことや、感染症医療に対する先生の思いなどを、引き続きお話しいただきました。

症例にもよりますが、患者さんは、検査結果が陰性と認められるまでの1か月ほどの期間において、感染症病棟での入院という、通常とは異なる環境での生活を強いられます。そのため、私たち感染症病棟で働く医療従事者は、患者さんの抱えることになるストレスの大きさに関心を寄せることが重要です。

実際に当院では、感染症病棟の患者さんのメンタルケアにも尽力しています。また、メンタルケアにおけるコミュニケーションの重要性を踏まえ、感染症病棟で働く医療従事者と患者さんの間で、できうる限りコミュニケーションを図るように心掛けています。

さらに、患者さんが病棟外に出ることや、ご家族が入室し面会することは禁止されているため、感染症病棟にWi-Fiを導入し病棟外の方々とも簡単にコミュニケーションをとれるようにしました。患者さんは、インターネットを利用したビデオ通話などで、ご家族と会話されたりしています。また、外出が許されない患者さんのために、病棟スタッフがおつかいなども積極的に請け負っています。

旅行などでいらした訪日外国人の患者さんは、日本の言葉、制度、情報も分からないことがほとんどです。そのため、訪日外国人の患者さんが感染症病棟に入院するときには、大きな孤独感や不安を抱えるだろうということは容易に想像できます。

そこで、そうした患者さんにできうる限り寄り添うために、まずは医療通訳をつけるようにしています。また、病状や、今後の流れ、社会制度などの説明に時間をかけることはもちろん、患者さんが不満を口にされているときも、しっかりと時間をかけてお話を聞くように心掛けています。さらに、大使館との連絡、旅行会社との調整、飛行機のキャンセル手配などの細々した対応も行っています。

ほかにも、イスラム教の方々に向けたハラル対応食の提供など、宗教的な配慮にも取り組んでいます。

感染症病棟のスタッフは、患者さんや外から見守るご家族に少しでも安心していただけるよう、本記事でお伝えしてきた通り、感染症病棟入院中の患者さんへのよりよいサポートを目指し、改善を重ねています。同時に、常に感染症に対する高い緊張感と集中力を持って、患者さんと接しています。これは、自分が起こした1つのミスから、自分だけではなく、院内、地域、ひいては国内全体までもが、感染症によるパンデミック(世界的流行)に陥る可能性があるという危機感から生じる緊張感と集中力です。その日の業務を終え、病室から戻ってきて緊張がとけたスタッフが、急激な睡魔に襲われ、仮眠室で睡眠をとってから帰宅することがあるほど、日々、神経を張り詰めながら、感染症対策を遂行しつつ、患者さんの心を傷つけないよう、感染症医療に従事しています。

「感染症対策」と「患者さんの人権の尊重」と同じくらい大切にしていることは、患者さんの命を助けることです。人の命の重みはどこの国でも同じですが、先進国で感染症患者さんが亡くなるというニュースは、とてもショッキングなニュースであり、社会的に大きなインパクトを与えます。そして、世間の不安や恐怖を大きく(あお)ることになるでしょう。ですから、「必ず私たち感染症医が患者さんを救う」という気持ちで、日々感染症医療にあたっています。このような意味で、感染症から患者さんを助けることは、ひいては、日本全体のためでもあります。

これからも、「私たちは感染症の危機管理を担い、国の安心・安全を守っているのだ」という誇りを持ち、日々感染症医療に従事していきます。

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