インタビュー

天疱瘡の検査と診断―尋常性天疱瘡・落葉性天疱瘡の診断は非常に慎重に行う

天疱瘡の検査と診断―尋常性天疱瘡・落葉性天疱瘡の診断は非常に慎重に行う
天谷 雅行 先生

慶應義塾大学大学院医学研究科 皮膚科学 教授

天谷 雅行 先生

この記事の最終更新は2015年10月24日です。

天疱瘡(てんぽうそう)は非常にまれな病気であり、皮膚科専門医でないと診断するのが難解な病気ですが、患者さんは最初何の病気かわからず迷ってしまうことも多いといいます。はたして天疱瘡を診断するためにどのような検査が行われ、どういった結果が出ると天疱瘡と診断されるのでしょうか? 難病指定の申請の方法も交えて、慶應義塾大学医学部皮膚科教授の天谷雅行先生にお話をお聞きしました。

それでは、天疱瘡のひとつ、尋常性天疱瘡を例に天疱瘡の検査方法について説明します。

尋常性天疱瘡を診断するためには、血清検査と臨床、そして生検(患者さんの生きた組織を一部取り出して病変を調べること)を行います。特に生検は尋常性天疱瘡を確定診断するための必須項目です。

具体的な検査の流れとしては、まず尋常性天疱瘡が疑われる方に対して血液検査を行います。血液検査でデスモグレイン1とデスモグレイン3(詳細は『天疱瘡とは? 粘膜や皮膚に水疱ができ、びらんを生じる指定難病』)に対する自己抗体の有無を調べることが可能です。それと同時に、臨床的に尋常性天疱瘡の特徴がはっきりと出ていれば、生検を実施します。

診断に至るためにはデスモグレインに対する抗体を証明することが必要です。つまり生検を行った結果、表皮の中に水疱があり、免疫グロブリン(IgG)が表皮を攻撃しているという証明をしなくてはいけません。また、デスモグレインに対する抗体が血清中にあることはもちろん、その抗体が組織を「攻撃している」ことが診断の必須条件であり、それが確認できれば尋常性天疱瘡と診断されます。逆にいうと、他の検査や臨床所見でどれだけ尋常性天疱瘡に該当する結果が出ていたとしても、生検で抗体が組織を攻撃していることが認められなければ、尋常性天疱瘡とは診断されません。

ここまで厳しい診断基準を設けている理由は、尋常性天疱瘡ではない患者さんに負担の大きな強い治療を施してしまうのを避けるためです。尋常性天疱瘡ではないのに尋常性天疱瘡と診断されてステロイド治療を開始してしまえば、患者さんにとって不必要な負担をかけてしまうことになります。ですから、診断の際には必ず生検を行っています。

天疱瘡自体が稀な疾患であり、皮膚科専門医以外ではなかなか適切な診断を下すことができません。なかでも粘膜優位型の尋常性天疱瘡は非常に診断が難しい病気です。

粘膜皮膚型の尋常性天疱瘡は皮膚に発疹が出るため、早急に皮膚科を受診する患者さんも多くいます。一方、粘膜優位型の尋常性天疱瘡は口腔内に初期症状が出るため、患者さんはまず歯科口腔外科を訪れることが多く、何だかわからないまま放置された結果、皮膚科専門医を訪れるまで時間がかかり、診断が非常に遅れることもあります。一般の病院の皮膚科でも稀な疾患であるのに、歯科でこの病気を判断することは容易ではありません。

そのため、硬いものを食べた後に歯肉がずるりと剥けてしまったり、口腔内に水疱やびらんができたりした場合は歯科口腔の病気ではなく尋常性天疱瘡を疑い、どこか近くの皮膚科専門医を受診した方がいいでしょう。

日本において、「難病」と指定されている病気は現在300以上あります。

尋常性天疱瘡をはじめ、落葉性天疱瘡・腫瘍随伴性天疱瘡はいずれも難病指定されている病気です。天疱瘡になってしまった患者さんは、国に申請することで医療費の補助を受けることができます。では、難病認定してもらうにはどの医師に診断してもらう必要があるのでしょうか。

難病認定は、皮膚科専門医であればまず間違いなく行えます。しかし専門医だけだと、地域によっては該当する専門医がいなかったり、いたとしても限られていたりという事態が発生しかねません。そこで、一定の基準を満たす講習を受けた医師でも難病認定をすることが可能になっています。

今の日本では、医師が大都市を中心とした一定箇所に集まっている傾向があります。それ自体は問題ないのですが、医療は地域性があってこそ平等に受けられるものです。なかには地方から3時間以上時間をかけて来院する患者さんもいらっしゃいますが、私はこの状態は正しいとは考えていません。

尋常性天疱瘡や落葉性天疱瘡は治療に長期間を必要とする病気です。ですから、できれば患者さんの生活圏のなかに専門医がいて、その範囲で治療が受けられる環境を早急につくる必要があるでしょう。そのほうが患者さんにとって負担が少なく、よりストレスなく治療を受けられるはずです。

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