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生活習慣病の予防:栄養素・マグネシウムが豊富な食品の選び方

生活習慣病の予防:栄養素・マグネシウムが豊富な食品の選び方
西牟田 守 先生

東洋大学 食環境科学部健康栄養学科 教授、国立健康・栄養研究所 前健康増進部、疲労生理研究室長

西牟田 守 先生

目次
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記事1『ストレス過多による心疾患の発症にマグネシウム不足が関わる可能性がある』では、人は大きなストレスを受けるとマグネシウム・カルシウムの尿中排泄量が増加し、細胞内で不足したマグネシウムに代わって入り込んだカルシウムによって、さまざまな身体症状が現れることをご説明しました。

ところが、私たちがマグネシウム欠乏症になりやすい原因はこれだけではありません。日本人のマグネシウム摂取量が年々減少しているという問題が関わっています。これは、日本人の主食であるお米の摂取と、日本での食生活の欧米化に伴う動物性たんぱく質の摂取増加のためといえます。

ストレスのかかる環境下でマグネシウムを十分に摂らない生活を続けると、重篤な身体疾患を引き起こす可能性があるため、非常に危険です。引き続き東洋大学健康栄養学科教授で医師の西牟田守先生に、栄養学的な観点からマグネシウムの摂取の重要性についてご解説いただきます。

2001年~2010年にかけて、ほとんどの年代で年々マグネシウムの摂取量が減少している現状があります。

たとえば成人男性の場合のマグネシウムの推定摂取量は、2001年の時点でも約272mgと摂取基準(平均必要量)の310mgを満たしていませんが、2010年時点では約242mgにまでさらに減少してしまっています。女性の場合も同様です。このように、日本人のマグネシウム不足は年齢・性別を問わず深刻化しているのです。

雑穀米

炭水化物はエネルギー源となり、私たち日本人は炭水化物を中心とした食生活を送っています。炭水化物の供給源としては穀類、すなわちお米や小麦(パン、うどん、パスタ、ラーメンなど)が挙げられます。しかし、これらの食品には要注意です。

日本人は、主食として精白米を食べています。これは未精白の玄米や雑穀米とは異なり、細胞成分であるマグネシウムなどは精白の過程で大部分が失われています。玄米やいも類、豆類は精白しないためマグネシウムの供給源になっています。

穀類とマグネシウムの関係

主にエネルギー源となる食品の100kcalあたりのマグネシウム濃度
(データは西牟田守先生のご研究に基づく)

上記は食品成分表と食事摂取基準のリストから、主にエネルギー源となる食品のエネルギーを抜き出し、該当食材の100kcalあたりのマグネシウム濃度を評価した表です。

この表では、30~49歳の女性が1日あたりに必要とするエネルギー量から食事摂取基準を換算し、エネルギー100kcalあたりではマグネシウムなどの微量栄養素が何mg必要かを示しています。

表によると、30~49歳の女性の食事摂取基準は1日2000kcal、マグネシウムは240mgですから、100kcalあたり12mgのマグネシウムが必要になります。

次に、食品ごとに100kcalあたりのマグネシウム含有量をみてみると、全粒粉の小麦が43mgであるのに対して、精製された小麦は6mg、また玄米の場合は31mg含まれているのに対し、精白米は6mgです。精製の過程で5分の1~7分の1にまでマグネシウム供給量が低下してしまうことが分かります。

元来精白とは、穀類の細胞成分を排除し食べやすくする工程です。マグネシウムは細胞内に多いので、精白の過程で穀類の細胞成分が排除されれば、マグネシウムも取り除かれてしまうのです。

このように、精白された穀類からはマグネシウムを効率的に摂取できないため、日常的に精白された米や小麦を炭水化物として摂取している現代人は、慢性的にマグネシウム不足に陥っていると考えられます。炭水化物の供給源には注意する必要があるといえます。

穀物の精製によって、マグネシウムだけではなくビタミンB1含有量も大幅に減少します。

かつて日本で大流行し、多くの人の命を奪った脚気(かっけ)*は、未精製の穀物を摂らなくなったことによるビタミンB1の欠乏が原因で起こるといわれていましたが、実はビタミンB1以外にもさまざまな要因があります。

確かに白米は玄米に比べてビタミンB1含有量が少ないため、白米中心の食生活でビタミンB1が欠乏すれば、神経症状をきたして、心不全にさえ至る可能性が高まります。しかし、精製過程でマグネシウムが失われるという事実を考慮すると、脚気の原因にはマグネシウムも関わっていることが予測できます。

*脚気:神経抑制機構が害され、多様な神経障害を引き起こす病気。全身倦怠感、下肢のしびれ・浮腫み、食欲不振、動悸などの症状が現れ、進行すると心不全を起こして死亡する場合もある。

大豆製品

動物性タンパク質・植物性タンパク質とマグネシウムの関係

主にたんぱく源となる食品のたんぱく質10gあたりのマグネシウム濃度
​(データは西牟田守先生のご研究に基づく)

上記は食品成分表と食事摂取基準のリストから、主にたんぱく質源となる食品のたんぱく質を抜き出し、該当食材のたんぱく質10gあたりのマグネシウム濃度を評価した表です。

この表によると、30~49歳の女性の食事摂取基準は1日にたんぱく質50g、マグネシウムは240mgですから、たんぱく質10gあたり48mgのマグネシウムが必要になります。

炭水化物と同様に、たんぱく質供給源となる食品のマグネシウム含有量を調査したところ、牛・豚・鶏肉、卵、牛乳など、動物性のたんぱく質源は総じてたんぱく質10gあたりのマグネシウム含有基準を下回っていることが分かりました。

一方で、植物性のたんぱく源である大豆製品にはマグネシウムが比較的多く含まれていることも判明しました。

精白米と肉を中心にした現代的な食生活を送っている方の場合、マグネシウムを主食や主菜から十分量摂取できないため、そのほかの食材から補う必要があります。

では主食、主菜以外でマグネシウムを補う場合、どのような食材を食べればよいか考えてみましょう。

たとえば主に副菜に用いられる野菜は植物であり、マグネシウムは植物の中のクロロフィル(葉緑素)に多く含まれます。ですから、野菜からマグネシウムを摂取したいと考える場合は葉緑素が豊富な食材、すなわち緑黄色野菜を意識して食べる必要があります。

その他、わかめやひじきなどの海藻類も葉緑素を持っており、マグネシウムが豊富です。

粗塩

粗塩はミネラルを多量に含む食材で、マグネシウムの含有量も10gあたり50mgと多いので、日常的な料理に用いることを推奨します。

現在一般的に用いられている精製塩はマグネシウムの含有量が少なく、調理で使用してもほとんどマグネシウムを摂取できないため、粗塩と明記されているものを選ぶようにしましょう。

豆腐

にがり(塩化マグネシウム)を凝固に用いている豆腐も、マグネシウム含有量が多めです。

かつては豆腐の凝固にほとんどにがりを使用していたのですが、にがりを使うと固まり方にムラが生じるという理由から、今は必ずしも使用されていません。ですから豆腐を購入する際に、にがり使用と書かれているものを選ぶよう意識してください。

(表)可食部100gあたりの豆腐のマグネシウム含有量(mg)

現代の日本人はマグネシウムが豊富な食品を食べなくなり、なおかつマグネシウムの排泄が増加するストレス社会で生活しているため、非常にマグネシウム欠乏症に陥りやすい環境にあるといえます。

記事1『ストレス過多による心疾患の発症にマグネシウム不足が関わる可能性がある』でご説明したように、ストレスでマグネシウムの尿中排泄量が増加して体から欠乏し、なおかつ食事からマグネシウムが摂取できない状態では、カルシウムが細胞内に非常に入りやすくなってしまいます。カルシウムが細胞内に溜まると神経抑制機構が障害され、肩こりや高血圧、ひどいときには心不全につながる恐れもあります。

マグネシウムが慢性的に不足している事実と現代疾患には、何らかの関係があると考えても不思議ではありません。ストレスの多い現代社会において、マグネシウム不足の食生活を続けることは非常に大きな問題といえるでしょう。

炭水化物、たんぱく質、野菜類の持つ性質を考えなければ、いくら食事をしてもマグネシウムが食事から供給されません。ストレスによって出ていったマグネシウムを食事できちんと補給し、健康を保つためにも、マグネシウムを豊富に含む食材を摂取する工夫が必要です。

世間では「食塩の取りすぎは体によくない」という理論が一般的で、厚生労働省も公的に減塩を呼びかけています。しかし、「…の取りすぎは体によくない」という表現には違和感を覚えます。取りすぎの根拠は科学的ではありません。

現在、日本人における1日あたりの目標塩分摂取量は成人男子8g未満、成人女子7g未満ですが、1980年以前は15gと定められていました。それから国がさまざまな地域を調査し、塩を調味料に使用しない地域では高血圧患者の割合が少ないと判明したため、基準値が改変されたのです。

推定平均必要量の600mg/日という数値は、人がまったく食塩を摂取しなかった場合の大便・尿・皮膚からのナトリウムの不可避損失量(600mg/日)から最低必要量を計算しているのですが、この評価法は正しいとはいえません。必要量は正しい根拠を示すことが大切になります。

ナトリウムの摂取量が少ないと、血中のナトリウムが不足するため、体は不足した分を補おうとします。ナトリウムは骨に貯蔵されていますので骨のナトリウムが供給されますが、このとき、骨にあるカルシウムが、マグネシウムと一緒に出てきてしまいます。

汗の中のナトリウムとマグネシウムの関係

食塩摂取量ごとの運動後腕汗中ミネラル濃度の差
(データは西牟田守先生のご研究に基づく)

以前、食塩摂取量の差による運動時のミネラル損失の相違について実験を行い調査したことがあります。

この実験では、1日あたりの塩分摂取量を6gと10gの2段階に設定し、自転車エルゴメータによるややきつい運動を負荷し、腕汗中のミネラル(ナトリウム、カルシウム、マグネシウム)濃度を測定しました。

実験の結果、食塩6gのグループでは汗の中に含まれるナトリウム量が減少し、カルシウムとマグネシウムの濃度が高まっていました。一方で食塩10gのグループには、大きな変化は見られませんでした。

これにより、食塩を制限すると運動発汗によるマグネシウムとカルシウムの損失が大きくなることが分かったのです。

糞便中の水分の割合が75%以下になると便は硬くなりますが、塩分制限によって糞便のナトリウム濃度が減少すると水分も失われるので、便秘になりやすくなります。

塩分を6g以下に制限した場合、高血圧ではない方であっても血圧が下がります。

このようにナトリウムの摂取量とカルシウム、マグネシウムの出納は相関関係にあり、過度な塩分制限を行うと、骨からカルシウムとマグネシウムが溶け出して骨粗しょう症のリスクを高めるなど、体にとってよくない影響を及ぼす可能性があります。この事実はあまり周知されていませんが、ぜひ覚えておいていただきたいと考えます。

一方、極端な塩分制限をすると、夏季に熱中症や脱水が起きやすくなるので注意喚起がなされていますが、塩分の効いた食品と、精白米の組み合わせでは、必要な栄養素が取りにくいのです。薄味に慣れて、たんぱく質やマグネシウム、カルシウムなどを主菜・副菜から取れるようにしたいものです。
 

  • 東洋大学 食環境科学部健康栄養学科 教授、国立健康・栄養研究所 前健康増進部、疲労生理研究室長

    西牟田 守 先生

    病気(慢性退行性疾患群)の予防を研究テーマに掲げ、食事・運動・休養を管理したヒト実験の結果をもとに、健康指導の現場に立っている。ミネラルの食事摂取基準作成の根拠となる日本人を対象とした代謝実験報告がこれまでの主な業績。これらの実績を背景に東洋大学で教授として教鞭をふるう。

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