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突然死の恐れも?ストレスで心臓発作が誘発される原因はマグネシウムの不足にある

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  • 公開日:2017/04/11
  • 更新日:2017/04/12
突然死の恐れも?ストレスで心臓発作が誘発される原因はマグネシウムの不足にある

近年、過労(働きすぎ)によって引き起こされる過労死が社会的に話題となり、世間の注目を集めています。

過労死は、過労が引き金となって起きる死亡の総称です。過労によって身体的・精神的なストレスが蓄積し、ストレス過多になった結果として生じた身体的疾患(心筋梗塞など)や、うつ病などの精神疾患に伴う自殺が主な原因といわれています。

過労で心疾患を発症するメカニズムは単純に説明することはできません。しかし、生理学的にこの関係をみていくと、ストレス負荷によってマグネシウム・カルシウムが体内から排出される量が増え、体がマグネシウム欠乏状態に陥ることと関係ありそうです。つまり、過労によるストレス過多状態で身体的な疾患を発症する際には、マグネシウム不足が大きく関与する可能性があるのです。

東洋大学健康栄養学科教授で医師の西牟田守先生は、長年にわたりストレス負荷による微量栄養素の体内での代謝を研究されてこられました。今回は西牟田先生のご解説のもと、ストレスとマグネシウム欠乏の関係を踏まえ、突然死にもつながる心疾患が起こるメカニズムについて考えます。

過労死の原因は一言では示せない

過労死では、過労によって身体的・精神的変化が起こり、その結果、心筋梗塞や脳卒中などの身体的症状が起こると考えられます。

しかし、過酷な状況の中で突然心血管・脳血管系などに至るメカニズムは非常に複雑で、単純に説明することはできません。過労によってこうした身体的トラブルが起こる経緯を説明するためには、元素栄養学的な観点から、劣悪な労働環境の中で体に生じる代謝変化を考える必要があるのです。

ビタミンやミネラル(カリウム、カルシウムなど)は身体機能の保持に欠かせない栄養素

健康的な人

ビタミンやミネラルといった微量栄養素は、健康な身体機能の維持に欠かせない栄養素です。たとえばビタミンB1はエネルギー代謝と、ビタミンB6はたんぱく質代謝と関係する栄養素で、これらの栄養素が食事の偏りなどによって不足すると神経抑制機能が障害され、その結果として様々な神経症状が現れます。

また、ビタミンB6の欠乏状態が続くと、急に心臓発作を起こして倒れる場合もあります。(ビタミンB1欠乏とかかわる病気については記事2『生活習慣病を予防する栄養素・マグネシウムが豊富な食品の選び方』も参照してください)このように、ビタミンB1、B6などの必須栄養素の不足は身体の正常機能への障害を招き、その状態が続くと、やがて生命に関わる重篤な発作が起こるリスクが高まるのです。

では、劣悪な労働環境下で過労状態の方に心血管疾患や脳疾患が起こったとき、過労によって何らかの栄養素が体の中から失われていることになるのでしょうか。実験的に考えてみましょう。

ストレスでマグネシウムの尿中排泄量が増加する―ストレス負荷実験の結果

ストレスと栄養素の喪失の関係について調査するため、私は1987年にストレス負荷の実験を行いました。

実験の結果、ストレスの負荷によって、カルシウムおよびマグネシウムの尿中排泄量が増加することがわかりました。

では、そもそもマグネシウムやカルシウムは体のどこに存在しているのでしょうか。

マグネシウムは細胞内ミネラル、カルシウムは骨ミネラル

人の身体をミネラルの生理的存在部位からみたとき、人体の構成要素は細胞内、細胞外、そして骨の3種に分類できます(元素栄養学の第一法則)。

通常、健康な成人の体内にはカルシウムが約1000g存在し、99%以上が骨の中にあります。一方、マグネシウムはカルシウムの40分の1(25g)程度存在し、そのうち約65%(15g前後)は骨の中に、残りは細胞内に含まれているという特徴があります。

このように骨の中のカルシウム存在量とマグネシウム存在量は異なるのです。

また人体の必須ミネラルは、ナトリウム、カリウム、塩素、カルシウム、マグネシウム、リン、硫黄、鉄、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、クロム、ヨウ素、モリブデン、セレンの16種類です。

細胞間を隔てる細胞膜にはミネラルを選択する性質があり、この性質を利用して、下記の表の通り細胞内ミネラルと細胞外ミネラル、骨ミネラルに分類できます。細胞内では、この細胞膜が選択的に細胞内ミネラルを取り込むので、細胞外液とは異なったミネラル組成になっています。

ミネラルと栄養素の関係

細胞内濃度が細胞外液より高いミネラルは上記のとおり、カリウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛の5種類です。また、骨を構成しているミネラルはカルシウムだけではなく、マグネシウム、リン、亜鉛、ナトリウム、などもあります。

マグネシウム欠乏が人体にもたらす危険な影響とは?

ストレス負荷によってカルシウムとマグネシウムの尿中排泄量が増加します。また、このカルシウムとマグネシウムの血漿濃度は厳密に保たれています。このとき、身体のなかでどのようにカルシウムとマグネシウムが調節されているのでしょうか。

カルシウムはストレス負荷によって体から尿中に排泄されますが、細胞内にはほとんど存在しないので、骨の中から出てきたものといえます。

体の中のカルシウムとマグネシウムの調整の様子

一方、骨中のマグネシウムはカルシウムの10分の1以下しか存在できず、ストレス負荷によってカルシウムとマグネシウムが尿中から排泄されるときには、必ずモル単位で同量の分子が出ていくという法則があります。

カルシウムとマグネシウムが等モルレベルで尿から排泄される場合、これらがすべて骨からでていくと考えると、マグネシウムが25mg出ていくとすれば40mgのカルシウムが出ていくことになります。しかし、実際にはカルシウムが40mg出ていくときにマグネシウムは4mgしか出ていけません。マグネシウムの残りは細胞の中から出ていくことになります。このように考えると、身体で先に枯渇するのはマグネシウムで、尿中排泄された以上のカルシウムが骨から溶け出し、その一部はマグネシウムが低下した細胞内に侵入すると考えられます。

カルシウムは骨を構成するために欠かせない重要なミネラルですが、実は細胞にとっては毒でもあります。ストレス負荷で骨の中から出たカルシウムが細胞内で増加すると、身体機能を最適に保つためのカルシウムのバランス(細胞内:細胞外=1:10000)が崩れてしまいます。その結果、筋肉が拘縮し(縮み続ける)、特に心筋ではポンプ機能を失います。

ストレスによる肩こりや高血圧の原因はカルシウムの作用

ストレスで肩が凝ったという経験をした方は多いはずです。これはストレスで細胞内に入り込んだカルシウムの作用で、肩の骨格筋が縮んだ状態のまま(拘縮状態)になったためです。また、カルシウムが血管平滑筋の細胞内にたまった場合は血管が縮み、血圧が上昇して高血圧を発症することがあります。高血圧状態が続くと血管内にカルシウムが詰まり、動脈硬化へと進展します。

胸を抑え苦しそうな人

このように、細胞内のマグネシウムが外へ出され、そこにカルシウムが入り込む一連の反応こそが、カルシウムパラドックスのメカニズムです。

つまり、カルシウムパラドックスとはカルシウムの増加ではなくマグネシウムの欠乏ということになります。ですから、私たちがストレスによる身体機能の障害を考えるとき、実はマグネシウムに目を向ける必要があるのです。

マグネシウムは心臓発作の治療に用いられる

点滴

実際にマグネシウムは心臓発作の治療に対して広く用いられています。

心臓発作が起きた場合、通常は入院のうえで体の回復を待ちます。その際にほとんどの方が点滴を受けるのですが、以前より心臓発作の患者さんに対してはGIK療法(グルコース、インシュリン、カリウムを点滴する)が適応されてきました。

そして40年前ぐらいから、GIK療法にマグネシウムを追加したMaGIK (マジック)療法がさらに効果的であることが判明し、医療現場で活用されています。マグネシウムの補給が心臓発作の回復に効果的なのであれば、マグネシウム不足と心臓発作には深い関係があると考えられるのです。

ストレスで体に変調をきたす理由はマグネシウムの損失に関係がある

ここまで、ストレスを受けると体からマグネシウムが体外へ流失し、細胞内で欠乏し、そこへ入り込んだカルシウムによって心血管疾患や脳血管疾患を発症するリスクが高まるとご説明してきました。

この生理学的現象を即座に過労死や突然死と直接結びつけることは難しく、エビデンスもありません。しかし、人がストレスレベルの高い生活を続けるとマグネシウムが体から失われ、代わりに細胞内に入り込んだカルシウムが人体に悪影響を及ぼすことは明白です。

この結果をみると、持続的ストレスによる体内のマグネシウムの喪失と、突然死につながる様々な身体症状がどこかで関係していてもおかしくないでしょう。

本記事では、ストレス負荷によるマグネシウムの体外流出の促進と欠乏に至るメカニズムについてお話しました。ひきつづき記事2『生活習慣病を予防する栄養素・マグネシウムが豊富な食品の選び方』では、より栄養学的な観点から、現代の食生活と慢性的なマグネシウム不足について述べていきます。

 

西牟田 守

西牟田 守先生

東洋大学食環境科学部健康栄養学科 教授 / 前国立健康・栄養研究所、健康増進部、疲労生理研究室長

病気(慢性退行性疾患群)の予防を研究テーマに掲げ、食事・運動・休養を管理したヒト実験の結果をもとに、健康指導の現場に立っている。ミネラルの食事摂取基準作成の根拠となる日本人を対象とした代謝実験報告がこれまでの主な業績。これらの実績を背景に東洋大学で教授として教鞭をふるう。

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