在外邦人や邦人渡航者への医療支援目的で設立された非営利団体「JAMSNET」。JAMSNETのメンバーには、アジアやアメリカ、ヨーロッパなど、世界各国で活躍を続ける医師や医療従事者が多数含まれています。彼らが現地で安心して働き、安全に生活するためには、日本医師会や海外日本人医師会との連携が重要です。2019年1月、日本医師会会長の横倉義武先生、外務省診療所所長・JAMSNET東京理事の仲本光一先生、外務省メンタルヘルス・コンサルタント、JAMSNET東京理事の鈴木満先生がご対談され、JAMSNETの現状と課題点、日本医師会による在外邦人医師への支援の重要性をテーマに、闊達な議論が行われました。
仲本光一先生:
JAMSNETアジアが拡大を続けています。アジア各国に在留する邦人医師は2019年1月時点で93名と、100名に迫る勢いです。医師以外のメンバーを含めると300名を超えています。
横倉義武先生:
2018年10月まで世界医師会会長を務め、現在は前会長ですが、高齢化の問題を含めアジアにも注目しています。これからもアジアで活躍する日本人医師はより増えていくでしょうね。いろいろと知見もお借りしたいところです。
仲本光一先生:
そうですね。特にシンガポール駐在のJAMSNETアジアのメンバーの拡大は勢いを増しており、2019年1月時点で17名の医師がいます。JAMSNETアジアは、シンガポールにいる橋口宏先生が代表を務めています。彼はシンガポールに数十年在留されているベテランの先生で、国際医療のパイオニアと呼ぶにふさわしい医師です。
そのほかにもアジア諸国には多数の医師がいますが、なかなか現地で医師会に所属できない先生も多いようです。そこで、海外日本人医師会など、各医師会との連携体制を深め、より在留邦人医師への支援を強化していきたいと考えています。
また、2019年11月2日~3日に「第6回ジャムズネットワールド」をシンガポールで開催予定です。
続けて、外務省メンタルヘルス・コンサルタントの鈴木満先生より、シンガポールならびにブラジルを例にした在留邦人医師・日系医師への支援・連携体制の現状、課題、展望についてお話がありました。
鈴木満先生:
シンガポールには長らく日本人医師会のような存在がないので、現地の医師と私たちのような支援団体がうまく連携できない状況が続いてきましたが、2017年にシンガポール日本大使館にて「第1回在星邦人医療関係者による連絡会議」が行われたことを機に、現地邦人医師の連携が強化されています。現在は毎年1回、現地の医師と在留邦人医師を集めた会合を開いている状況です。
アジアではありませんが、ブラジルもご参考までに紹介します。ブラジルの日系医師の割合はブラジルの全医師の約4%と多く、大学医学部にも日系人が多数在籍しています。しかし、日本語を話す日系医師は徐々に減ってきています。2016年のサンパウロ日本国領事館への医務官配置以降、日本語を話せる日系医師との関係作りをしたことで、現地の先生方も医療連携に関心を持ってくださった印象です。日系の先生方は、日本の文化と言語を継承している貴重な人的資源なので、ネットワークをさらに拡大していきたいと考えます。お互いにとってよりよい連携体制を作るためには、やはり医師会や大使館などの組織が間に入ることが望ましいでしょう。
鈴木満先生:
在外邦人医師から、「自分は日本医師会に所属していない」という不安の声をさまざまな国の先生方から聞く機会は今でも多いです。こうした声が上がっているということを横倉先生や日本医師会にもぜひお伝えしたいですし、この不安の声にこたえていきたいと考えています。
横倉義武先生:
世界の医療と日本の医療の双方を見ていく中で、たとえば各国にいる医務官との連携を取ることができれば、在留邦人の保護だけではなく世界の医療レベルの向上にもつながると感じました。
日本と海外在留邦人医師、ならびに現地の先生方とのネットワークを強化していくことが話し合われ、和やかな雰囲気の中、対談は終了しました。