2019年3月2日、第19回隈病院甲状腺研究会がホテルオークラ神戸で開催されました。甲状腺の専門病院として世界的に名高い隈病院。甲状腺研究会は、そんな隈病院が年に1度開催する歴史ある研究会です。全国各地から甲状腺の診療に携わる医療関係者が多数集合し、盛況に行われた当日の研究会の様子をレポートします。
はじめに、隈病院 院長の宮内昭先生より開会のご挨拶と、これから行われる発表について紹介がなされました。
今回の研究会では、過去に隈病院で発見された急性化膿性甲状腺炎の感染経路である下咽頭梨状窩瘻*について複数の発表が行われることなどが紹介されました。
下咽頭梨状窩瘻:下咽頭と甲状腺の間に通っている瘻孔(ろうこう:細い管)
まずはじめに、外科の舛岡裕雄先生の発表が行われました。テーマは「急性化膿性甲状腺炎の病態と治療」です。
座長は大阪市立大学大学院医学研究科 乳腺・内分泌外科学 病院教授の小野田尚佳先生が務められました。
舛岡先生:
急性化膿性甲状腺炎とは、甲状腺が細菌または真菌に感染することによって起こる、全甲状腺疾患の患者さんの0.1〜0.7%くらいと非常にまれな病気です。
急性化膿性甲状腺炎の局所的な原因には、主に以下の3つがあります。
下咽頭梨状窩瘻による急性化膿性甲状腺炎の診断では、疼痛*や発熱などの炎症所見を確認します。確定診断のためには、咽頭透視検査がもっとも診断の精度が高いとされています。また、亜急性甲状腺炎と鑑別するためには、エコー検査が有効です。
治療法には、瘻孔摘出術による手術がありますが、その場合には瘻孔を甲状軟骨の裏側までしっかり切除することが重要です。実際には、以前に起こった炎症の後での手術はかなり難しく、反回神経麻痺(かすれ声となる)などの危険性があります。直達喉頭鏡のもとに、下咽頭の梨状窩にある瘻孔の開口部を焼灼療法によって焼く治療は、安全性が高く侵襲(身体への負担)が少ないという特徴があります。
疼痛:うずくような、ずきずきとした痛み
次に、病理診断科 廣川満良先生の発表が行われました。テーマは「下咽頭梨状窩瘻の病理とC細胞との関連」です。
舛岡先生と同じく大阪市立大学大学院医学研究科 乳腺・内分泌外科学 病院教授の小野田尚佳先生が座長を務められました。
廣川先生:
甲状腺の組織は、2つの種類の細胞から構成されています。濾胞上皮細胞とC細胞です。甲状腺の大部分は濾胞上皮細胞でできており、C細胞は非常にわずかな数しかありません。
下咽頭梨状窩瘻は、小児や若年者に発生しやすい生まれつきの瘻孔であり、繰り返す急性化膿性甲状腺炎の主な原因となります。扁平上皮と多列線毛上皮で覆われ、甲状腺内で枝分かれし、周囲には多くのC細胞が存在しています。瘻孔の頸部の他の臓器との位置関係と、C細胞が瘻孔の周囲に多いことから、当院院長の宮内はこの瘻孔がC細胞の発生に関連した遺残物であると考えています。
病理では、1視野で50個以上のC細胞が認められる場合にC細胞過形成と呼びます。これは、C細胞が甲状腺の内部でこれから増えていく、あるいは分散していく初期の段階ということを意味する可能性が高いと考えられます。また、小児のC細胞は、反応性増生していくということが推測できます。
研究会後半では、臨床検査科 臨床検査技師の田尻久美子さんによる発表が行われました。テーマは、「小児の甲状腺超音波検査」です。
座長は、島根大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター長であり教授である鬼形和道先生が務められました。
田尻さん:
福島原発事故以来、小児の甲状腺超音波検査の機会が増えています。小児の甲状腺超音波検査は、成人の超音波検査とは異なる点があるため注意が必要です。
当院においては2008年から2017年までに超音波検査を実施し、初診時に15歳以下の患者さんの2756例を対象としたデータを提示します。これらのデータからわかった、小児の甲状腺超音波検査における特徴的な項目は、以下の通りです。
【小児の甲状腺超音波検査における特徴的な項目】
まず、小児では、年齢の上昇に伴って、甲状腺体積の増加がみられました。次に、甲状腺腫瘍では、嚢胞性結節の場合、小さな嚢胞が多発性にみられる点が特徴です。また、異所性胸腺を認めることがあります。甲状腺形成異常や急性化膿性甲状腺炎があるかどうか確認することも大切です。
最後に、内科の笠原俊彦先生による発表が行われました。テーマは、「小児の甲状腺腫瘍」です。座長は引き続き、島根大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター長であり教授である鬼形和道先生が務められました。
笠原先生:
成人と比べて、小児の甲状腺腫瘍の頻度は低いです。しかし、成人と比較して悪性の頻度は高いとされています。たとえば、診断時にすでに頸部リンパ節に転移していたり、肺への遠隔転移を伴っていたりする頻度が高いということがわかっています。しかし、これらの特徴がありながら、生命予後は良好であることが明らかになっています。
なお、良性であったとしても、多発結節や同胞例では、遺伝子変異やがんと関連している可能性があるため注意が必要です。
小児の微小がんへの対応では、手術が原則です。小児の微小がんは、腫瘍が緩徐に増大するものもありますが、中には比較的速い増殖を示すケースもあるからです。どういった症例で経過観察を行うのか、判断できるデータが現状では不十分であるため、積極的経過観察を行うかどうかについては、今後の検討課題としています。
研究会の最後に、副院長である宮章博先生よりご挨拶が行われました。行われた発表の総括と、参加された皆さんへの感謝が伝えられました。質疑応答など、意見交換も活発に行われた本研究会。こうして第19回隈病院甲状腺研究会は幕を閉じました。
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