脳動脈瘤は、脳動脈の分岐部などにできる膨らみ(瘤)です。破裂するとくも膜下出血をきたし、命に関わる重篤な状態に陥る可能性があるため、早期に適切な治療を受けることが大切です。新座志木中央総合病院では、術中・術後の合併症リスクの低減を目指した脳動脈瘤の血管内治療(カテーテル治療)に取り組んでいます。今回は、同院脳神経血管内治療科部長/脳卒中・血管内治療センター長の奥村 浩隆先生に、脳動脈瘤の血管内治療における選択肢と、同院で力を入れている治療法について伺いました。
脳動脈瘤の治療には一定程度のリスクがあります。しかし、経過観察していたとしても破裂のリスクは残ります。この両方のリスクを踏まえて治療方針を考えなければならないため、非常に判断が難しい病気であるといえます。実際に患者さんとお話ししていて感じるのは、破裂する可能性だけでなく、「破裂するかもしれない病気を抱えながら生きる」という精神的負担が非常に大きな問題であるということです。
破裂するリスクが低いと判断し、経過観察をおすすめすると「破裂するかもしれないものを抱えているのがストレスになるから治療してほしい」とおっしゃる方も少なくありません。
患者さんの中には、脳動脈瘤を抱えていることへの不安を訴える方だけでなく、血管内治療*に対して大きな不安を感じる方もいらっしゃいます。当院では、経過観察・血管内治療のどちらもリスクとベネフィットを丁寧にご説明し、十分納得したうえで治療するかどうかを選択していただけるよう努めています。そして、覚悟をもって治療に臨まれる患者さんに、いかにリスクを抑えつつよい治療を提供できるかが、私たち医師の仕事の重要なポイントであると考えています。
*血管内治療:太ももの付け根などから血管内にカテーテル(細い管)を通し、病変がある部位の血管を広げたり、破れそうな血管を詰めたりする治療。
脳動脈瘤の血管内治療には、動脈瘤にコイルを詰め、動脈瘤内の血流を遮断して破裂のリスクを低減させるコイル塞栓術などがあります。血管内治療のリスクとして考えられるのは、術中の動脈瘤破裂、血栓症(血の塊により血管が詰まる)、コイル逸脱による母血管(動脈瘤ができている元の血管)の閉塞や脳梗塞などです。当院ではこれらの合併症リスクをいかに抑えるかを第一に考え、後述の3つの選択肢のうちバルーンアシストを用いたコイル塞栓術を積極的に行っています。
血管内治療には、バルーンやステントでアシストしながら脳動脈瘤にコイルを留置する“コイル塞栓術”という治療法と、コイルを使わない治療法があります。
コイルがずれたり飛び出たりしないよう、動脈瘤の根元部分の血管内でバルーンを膨らませた状態で動脈瘤にコイルを詰めます。母血管の血流が完全に遮断されないよう、バルーンの大きさを調節しながら行い、最後にバルーンを引き抜きます。
一番のメリットは、動脈瘤に詰めたコイル以外に異物を残さないため血栓が生じにくく、脳梗塞の発生を抑えられる点です。抗血小板薬(血液を固まりにくくする薬)を長期にわたり服用する必要もありません。
また、術中に動脈瘤が破裂したとしてもバルーンが血流を止めてくれるため、緊急対応を迅速に行うことができます。
もっとも懸念されるのは、動脈瘤が再発する可能性がある点です。また、コイルが不安定な状態だと母血管に飛び出てくる場合があり、経験や技術、センスが求められる治療法といえます。
なお、万一コイルが飛び出てしまったときには、動脈瘤の根元にステント(血管を広げた状態に保つ筒状の器具)を留置し、コイルを動脈瘤内に押し戻します。
動脈瘤の根元部分の血管内にステントを留置した状態で動脈瘤にコイルを詰め、ステントは回収せずにそのまま残します。
一番のメリットは、動脈瘤の再発が少ない点です。血管内にステントを残すためコイルが飛び出てくるリスクを抑えられ、動脈瘤内にコイルを隙間なく詰めなくても治療できるという利点もあります。
ステント内に血栓が生じやすく、脳梗塞の発生率が高まります。そのため、長期にわたり抗血小板薬を服用する必要があります。
また、動脈瘤が再発したときに治療法が限られてしまうといったデメリットもあります。また、ニッケルアレルギーを持つ患者さんには使用できないことにも注意する必要があります。
目の細かいステントを動脈瘤の根元部分の血管内に留置して動脈瘤への血流を妨げる、比較的新しい治療法です。コイルを詰めなくても動脈瘤の中で血が固まり、破裂を防ぎます。
コイルを詰めずに治療できるため、当院では紡錘状に広がった動脈瘤など、コイルを安定的に詰めにくい形状にはこの方法を採る場合があります。また、動脈瘤が再増大するリスクが高い場合もこの治療を選択することがあります。
治療できる血管が限定されているうえ、血管内でフローダイバーターやステントをうまく広げるには高度なテクニックを要します。許認可制度も厳しいため、現在のところ実施できる医療施設は限られています。
ほかのステント同様、脳梗塞の発生率が高まるため、長期にわたり抗血小板薬を服用する必要があること、ニッケルアレルギーの患者さんには使用できないこともデメリットとしてあげられます。また、中大脳動脈瘤、前交通動脈瘤、脳底動脈瘤など血管分岐部にできた動脈瘤には治療効果が低いとされています。
動脈瘤の中で、血液が固まり血が流れなくなり、破裂を防げるようになるまで、年単位の時間を要することも欠点の1つです。
パルスライダーは、T字状の器具で、動脈瘤の根元部分に留置してコイルを詰める際に支えとなります。ステント同様、パルスライダーも回収せずにそのまま血管の中に残します。
ステントやフローダイバーターが困難とされる脳底動脈先端部の動脈瘤に使用し、コイル塞栓の際に、コイルを血管内にはみだして来ないようにすることができます。また、ステントより血管内の金属量が少ないこともメリットとしてあげられます。
脳底動脈先端部以外の部分では、血管形状とパルスライダーの形状が合わないことが少なくないため、使用機会が限られます。また、日本人における合併症の発生に注意する必要があること、長期の治療成績が不明であることも挙げられます。ステント同様、長期にわたり抗血小板薬を服用する必要があり、動脈瘤が再発したときに治療法が限られてしまうといったデメリットもあります。また、ニッケルアレルギーを持つ患者さんには使用できないことにも注意する必要があります。
ステントの多くはニッケルを含む素材でできているため、ニッケルアレルギーがある方には適しません。ですので、ステントを使用しない治療法を検討する必要があります。
長期にわたり抗血小板薬を服用する必要があるため、病気(出血をきたすような持病、抗血小板薬を中止しなければならない手術や治療が必要な持病をお持ちの方)や職業上の理由(出血を伴うけがのリスクが高いなど)で抗血小板薬の服用が困難な方は、治療方針をよく検討する必要があります。
消化管出血などを起こすと抗血小板薬の作用により大量出血に至る可能性があるため、宗教上の理由で輸血が難しい方は、治療方針を十分に検討する必要があります。
このように、何らかの理由でステントアシストやフローダイバーター、パルスライダーによる血管内治療が適さない症例について、当院ではステントアシストを使わないコイル塞栓術(The Roman Bridge Technique)を実施しています。
詳しくは『ステントアシストなしのコイル塞栓術 The Roman Bridge Techniqueとは――適応症例と治療の進め方』をご覧ください。
当院では、基本的にバルーンアシストによるコイル塞栓術を採用しています。脳梗塞のリスクを抑えられる、再発時にステントを使った治療ができる余地を残しておける、ステントアシストやフローダイバーターが適さない症例にも対応できるといった理由からです。
私は、コイルを安定的に詰めにくい超ワイドネックタイプ(根元が広いタイプ)などの動脈瘤にもステントを使わずにコイルで塞栓する治療法として、The Roman Bridge Techniqueを追求してきました。これはバルーンアシストを応用した治療法で、脳梗塞の発生率を抑えられるため、抗血小板薬の長期服用が基本的に不要です。また、動脈瘤治療後の再発を抑えるため、通常のバルーンアシストと異なり血管を形作るようにコイル塊を形成します。
ステントやフローダイバーターなど治療機器のテクノロジーは日進月歩で、将来はさらに新たなテクノロジーから生まれた機器が登場してくるでしょう。どのような形状の動脈瘤であってもステントを使わずに治療しておけば動脈瘤の中にコイルのみが詰められている状態なので、将来、再発して再治療が必要になったときに、より進化した未来のステントなどを留置できる可能性を残せます。一方、すでにステントがある状態で再発すると、治療の選択肢が限られてしまいます。
合併症リスク低減を目指した術式を選択し、たとえ再発したとしても今よりもよい治療を受けられる可能性を残しておくことで、治療を受けた患者さんが安心して元気に暮らせるようにしたいと考えています。
新座志木中央総合病院 部長、脳卒中・血管内治療センター長、佐々総合病院 非常勤、メディカルスキャニング浜松町 非常勤
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