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硬膜動静脈瘻に対する血管内治療

硬膜動静脈瘻に対する血管内治療
奥村 浩隆 先生

新座志木中央総合病院 部長、脳卒中・血管内治療センター長、佐々総合病院 非常勤、メディカルスキ...

奥村 浩隆 先生

目次
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硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)は、異常な血管が脳周囲にできて脳を覆う硬膜を流れる動脈と静脈が直接つながってしまう病気です。血液の流れ方によってそのリスクは異なりますが、血液が静脈に逆流すると脳や目に障害を起こし、重症化すれば命に関わる可能性もあるため、早期に適切な治療を受ける必要があります。今回は、合併症リスクの低減を目指した血管内治療(カテーテル治療)に取り組む、新座志木中央総合病院 脳神経血管内治療科 部長/脳卒中・血管内治療センター長の奥村 浩隆(おくむら ひろたか)先生に、硬膜動静脈瘻の概要と特徴、同院で受けられる治療について伺いました。

脳は、頭蓋骨(ずがいこつ)の中で硬膜と呼ばれる硬い膜に覆われており、硬膜にも体のほかの部分と同様に動脈と静脈が流れています。通常、血液は動脈を通って体中に運ばれ、毛細血管から組織に栄養を届けた後、静脈を通って心臓に戻ります。硬膜動静脈瘻とは、外傷など何らかの原因で、硬膜の動脈と静脈の間に“瘻(穴)”ができて異常な血の流れが生じるようになった病気です。

硬膜動静脈瘻になると動脈の圧が高い血液が直接静脈へ流れ込むため、静脈の圧が上昇し、血液が脳に逆流してうっ血したり、脳梗塞(のうこうそく)脳出血を起こしたりする可能性があります。日本における発生頻度は年間10万人あたり0.29人と、極めてまれな病気です。

硬膜動静脈瘻で、どのような血液の流れが生じているのか説明する前に、まずは正常な血液の流れを説明します。

通常の場合、心臓から脳へ動脈を通って血液が送られ、脳から心臓へ静脈を通って血液が帰っていきます。

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動脈では心臓から押し出された血液が勢いよく流れており、圧が高くなっています。一方、静脈ではゆっくりと血液が心臓に帰っていき、圧が低くなっています。

硬膜動静脈瘻では、この動脈と静脈がつながる近道(瘻もしくはシャントと呼ばれます)ができます。すると、脳へ流れるはずの血液が勢いよく静脈に流れ込み、心臓へ戻っていきます。

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軽症の硬膜動静脈瘻の場合、動脈からの血液が心臓へ戻っていくため、少し“空打ち”している状態となります。

さらに病状が進行すると、心臓に戻る静脈が詰まってしまいます。そうなると、瘻を通った勢いのよい血液が心臓に戻れなくなるため、脳へ逆流をし始めます。

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うっ血状態となり上手く血が流れなくなるため脳梗塞に陥ったり、脳の静脈の圧が高くなったりして脳出血にいたることがあります。そうなる前に治療する必要があります。

硬膜動静脈瘻を発症すると、硬膜の動脈から静脈に流れ込んだ血液が、硬膜静脈洞*を通って脳の静脈へ逆流する危険を生じます。このため、治療においては脳の静脈への血液の逆流の有無、および範囲により分類したタイプI~III(Borden分類)により判断します。

タイプI(軽症)は脳の静脈への逆流がみられないため、特に治療は必要ないとされています。定期的にMRI検査などを行い、経過観察します。一方、タイプII・III(重症)は逆流があり、タイプIIIは特に深刻な状態です。うっ血や脳梗塞、また脳出血を起こすリスクが高まるため、病状を見極め、適切な治療を行う必要があります。このように、治療方針の決定においては脳の静脈への逆流の有無が非常に重要な要素になります。

*硬膜静脈洞:脳の静脈が心臓に戻る際の通り道となる硬膜内の太い静脈。

シャント(瘻)を流れる勢いのよい血流のため、シャーシャーと脈打つような耳鳴りが起こります。また、目に逆流すると、白目の充血や眼球突出(眼球が少し飛び出してくる)、視力の低下、物が二重に見えるなどの症状が現れるようになり、眼科を受診される患者さんも多くいらっしゃいます。中には眼科の先生が硬膜動静脈瘻を疑って、当院へご紹介くださるケースもあります。

重症になると意識障害やけいれん、てんかん発作などの症状が現れ、脳梗塞や脳出血を発症します。また、軽症のうちに適切な治療に至らず、重症化するケースもあります。

脳への逆流がなければ特に治療は必要ありませんが、逆流が認められれば状態に応じた治療を行います。症状が現れたら早めにこの病気の治療経験がある医療施設を受診し、治療するべきかどうか見極めることが重要です。また、軽症であるタイプIからタイプII、タイプIIからタイプIIIへと悪化していくことも少なくないため、定期的な経過観察が欠かせません。

硬膜動静脈瘻は非常にまれな病気であり、診断、治療には高いレベルの知識や技術、経験、判断力が求められます。逆流の道筋は複数あるため、たとえば、検査時には見えなかった逆流が、血管内治療中の血流の変化により突然姿を現すといった予期せぬ事態も起こり得ます。そこで適切な対応がなされないと、治療後に脳出血を繰り返し起こしてしまうリスクがあります。ですから、硬膜動静脈瘻を疑ったら、この病気を熟知し、治療の経験が豊富な医師がいる医療施設を受診してください。早期に適切な治療を受ければ、良好な経過を期待できます。

硬膜動静脈瘻の治療の1つに血管内治療があります。血管内治療とは、足の付け根からカテーテル(細い管)を入れて病変のある血管まで進め、病変部位に液体塞栓物質(えきたいそくせんぶっしつ)やコイルなどを詰めて閉塞(へいそく)させる治療法です。動脈側からアプローチする経動脈的塞栓術と、静脈側からアプローチする経静脈的塞栓術があり、新座志木中央総合病院では両方のうちいずれかの塞栓や、両方を組み合わせた塞栓術を行っています。

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新座志木中央総合病院における経動脈的塞栓術の特徴は、Onyx(オニキス)という液体塞栓物質を主に用いて血管内塞栓を促している点です。Onyxを用いた治療には高度な技術が必要で、日本インターベンショナルラジオロジー(IVR)学会、日本血管内治療学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会が策定した基準を満たした医師のみが実施できます。Onyx による経動脈的塞栓術には異常な血流を抑える効果が認められており、一部の硬膜動静脈瘻においてはこの治療のみで治癒する可能性も期待できます。一方、Onyxが病変部位以外の重要な血管に流れ込んでしまい、脳梗塞や神経麻痺を起こすリスクもあります。

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バルーンカテーテルの使用:バルーンアシストテクニック

前述のとおり、Onyxが病変部位以外の重要な血管に流れ込んでしまい、脳梗塞や神経麻痺を起こすリスクがあります。当院では、動脈側から入れたOnyxが逆流し望まない血管に流れないよう、バルーンカテーテルを用いてOnyxを注入したり、静脈側を風船状のカテーテル(バルーンカテーテル)でカバーしながら注入したりする方法を積極的に用いています。

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複数のカテーテルから一度に注入:マルチプルカテーテルテクニック

経動脈的塞栓術の最中に、1本の血管の逆流を止めた影響で別の血管の圧が変化して流れが活発になり、検査時には見えなかった逆流が明らかになるといった予期せぬ事態が起こる場合があります。

通常の血管内治療では、カテーテルを1本ずつ挿入して病変部位にOnyxを流し入れ、1か所の塞栓が完了したら次の血管にカテーテルを入れて2か所目を塞栓する、といった具合に1か所ずつ治療を進めていきます。しかし私は、この方法には治療の終盤で予期せぬ事態が起こったときの対処方法が限られてしまうという弱点があると考えています。そのような予期せぬ事態への対処方法を確保するとともに治療効果の向上を図るため、私は複数、たとえば2、3本のカテーテルを同時に挿入し、Onyxを流していく方法を採っています。こうすると、様子を見ながら必要な箇所にOnyxを追加できたり、別の箇所にOnyxを流し入れて塞栓した影響で血流が変化し、最初は入りにくかった箇所にうまく入るようになったりする場合があります。複数箇所の治療を同時に進めると良好な相互作用が期待でき、リスクを抑えながら治療効果を高められると考えているのです。

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複数のカテーテルを病変部位へ到達させられれば、治療中に予期せぬ事態が起こっても対処しやすく、無理なく治療を進められるため、合併症のリスクを抑えられます。その反面、カテーテルを入れた複数箇所の状況を理解、把握し、的確に判断しながら進めなければならず、この方法で治療を行うには病気への深い理解と状況判断力が求められます。

料理に例えれば、みそ汁と卵焼きを同時に作るとなると、両方に目を配って火加減を調節したり、ちょうどいいタイミングで卵を裏返したりしなければならないようなものですから、片方に専念するより難易度が上がります。

治療においても、同時に複数箇所の状況を把握し、的確に判断するのは容易ではありませんが、それをあえてやるのは、合併症リスクをできる限り減らしたいと考えているからなのです。

バルーンアシストテクニックとマルチプルカテーテルテクニックの弱点

硬膜動静脈瘻の血管内治療では、カテーテルを曲がりくねった細い血管の先まで誘導しなければなりません。通常は誘導しやすくするため支えとなる太いカテーテルを何段階か併用し、それらを使って細くやわらかいカテーテルを病変部位まで誘導します。しかし、支えとなるカテーテルは根元部分が太く、1本ずつしか挿入できません。複数のカテーテルを同時に挿入するには、支えを使わずに病変部位まで誘導する技術が求められるのです。また、バルーンカテーテルは、カテーテル先端にバルーンが付いているため、通常のカテーテルと比較して誘導が困難なことがあります。つまり、複数のカテーテルを同時に誘導したり、バルーンカテーテルを誘導したりすることはより高度な技術を必要とします。

硬膜動静脈瘻は非常にまれな病気ですが、一度発症するとほかの場所に新たな硬膜動静脈瘻が出現する方がおられます。私が診てきた患者さんの中にも、治療を終え、経過観察を続けるうちに新たな硬膜動静脈瘻が見つかった方がいらっしゃいます。今のところ予防する手段は確立されていないため、治療後も定期的に検査を受けることが重要です。

硬膜動静脈瘻はまれな病気であり、この病気を熟知し、豊富な治療経験を持ち、十分な技術をもって的確に対応できる医師はそう多くはありません。しかし、そのような医師の診断、治療を受ければ十分に改善を目指せます。

新座志木中央総合病院には、県内のみならず遠方から相談に来られる方もいらっしゃいます。また、海外からの患者さんも受け入れています。この病気を疑う症状がある方、この病気でお悩みの方、適切な治療を受けたいと考えている方は、ぜひ当院にご相談ください。

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  • 新座志木中央総合病院 部長、脳卒中・血管内治療センター長、佐々総合病院 非常勤、メディカルスキャニング浜松町 非常勤

    奥村 浩隆 先生

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