概要
カンピロバクター腸炎とは、Campylobacter jejuniと呼ばれる細菌によって引き起こされる感染性胃腸炎を指します。この細菌は主に汚染された鶏肉を摂取することで感染します。細菌性食中毒の中でも発症数が多い疾患として知られており、発症年齢としては10代から20代に多く、小児科領域における入院症例も少なくありません。
胃腸炎のみの場合には自然治癒することがほとんどですが、なかにはギランバレー症候群と呼ばれる神経系の合併症がみられることもあります。ギランバレー症候群は呼吸筋の麻痺から命にかかわることもあり、注意すべき合併症といえます。
原因
カンピロバクター腸炎は、Campylobacter jejuniと呼ばれる細菌によって引き起こされます。その他、Campylobacter coli、Campylobacter fetusなども原因となることがありますが、カンピロバクター腸炎の原因菌としてはまれです。
原因菌であるカンピロバクターは、鶏などの家禽類や牛の腸内に広く生息しています。カンピロバクターを保有する動物の肉や排泄物、牛乳中などにも細菌は混入することがあり、これらと接することから感染が周囲に拡大します。
具体的には、以下のようなことが挙げられます。
- 加熱が不十分な肉を食べた(特に鶏肉)
- 低温殺菌をされていない牛乳を飲んだ(*日本の市場で出回っているものは基本的に殺菌されています)
- 汚染された井戸水を飲んだ
- カンピロバクターで汚染された肉を扱った包丁やまな板で他の食材も扱った
上記のような事項が原因となり、腸炎が引き起こされることがあります。
また、カンピロバクター腸炎にかかると、一部の患者さんでギランバレー症候群と呼ばれる神経疾患を続発することがあります。
腸炎の発症に際してカンピロバクターに対する免疫反応が誘導されますが、これに関連して、誤って神経を同時に攻撃してしまうことが原因であると考えられています。
症状
カンピロバクターを摂取して、およそ5〜7日の潜伏期間の後に症状が出現します。
症状は消化管症状が主体であり、吐き気や嘔吐、下痢や腹痛などが現れます。腹痛症状はとても強いことが多く、虫垂炎と間違えられることもあります。また、血便が出ることも少なくありません。下痢や嘔吐に伴い脱水症状が強く出現する場合もあり、重症例では脱水により、意識がもうろうとしたり、易刺激性を認めることがあります。
また排尿回数が少なくなったり、頻脈、口腔内の乾燥などがみられることもあります。そのほか、消化器症状以外に、感染症の一般的な症状として発熱を生じることもあります。
カンピロバクター腸炎に関連して、ギランバレー症候群を代表とする合併症がみられることもあり、感染してから1〜3週間ほどして、ギランバレー症候群を発症するケースもあります。ギランバレー症候群では、手足を動かす筋肉に麻痺が生じます。なかには呼吸を司る筋肉にも麻痺が生じることがあり、呼吸ができなくなることもあります。
検査・診断
糞便からカンピロバクターを培養し同定します。細菌感染の診断では、培養検査を通して原因となっている細菌を同定することがとても重要です。しかし、カンピロバクター腸炎を引き起こす病原菌は、環境中において簡単に死滅するため、培養は必ずしも容易ではなく、特殊な条件のもと時間をかけて培養する必要があります。
また、培養検査の結果が判明するまでには数日を要するため、より迅速な検査方法がとられることもあります。具体的にはPCR法と呼ばれる検査で、カンピロバクターに特徴的な遺伝子を確認することから診断がなされます。
治療
カンピロバクター腸炎は、抗生物質の使用をせずとも自然治癒が充分期待できる疾患です。そのため、多くの症例においては、脱水にならないようにするなど対症療法が主体になります。 しかし、一部の患者さん(たとえばエイズなどの免疫不全を有する方、敗血症をきたしている方、下痢症状が強い方など)に対しては抗生物質が使用されることもあります。
第一選択薬剤としては、マクロライド系(エリスロマイシンやアジスロマイシンなど)が推奨されています。カンピロバクター腸炎は海外旅行中(特に環境面の整備がなされていない国など)に罹患することも多く、旅行前に発症時の対応薬としてニューキノロン系と呼ばれる薬が処方されることもあります。
また、カンピロバクター腸炎は、カンピロバクターに汚染された食物を、不衛生な状況で食べることから発症することが多いです。したがって、カンピロバクターをしっかりと殺菌するために、食べ物をしっかり加熱することが重要です。
生肉を調理した包丁やまな板がカンピロバクターで汚染されることもあるので、調理器具の殺菌が不十分な状態でサラダなどを調理すると、野菜に細菌が付着して感染することもあります。したがって、調理器具の清潔や乾燥に注意を払うことも大切です。
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