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カンピロバクター腸炎(食中毒)とは?

カンピロバクター腸炎(食中毒)とは?
仲瀬 裕志 先生

札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授

仲瀬 裕志 先生

この記事の最終更新は2017年10月16日です。

カンピロバクター腸炎とは、カンピロバクター属の細菌に感染することよって引き起こされる感染性腸炎の一つです。食中毒の一つといえばイメージしやすいのではないでしょうか。カンピロバクター腸炎を発症すると、下痢や腹痛に加え、嘔吐や発熱などの症状が現れます。

札幌医科大学消化器内科学講座 仲瀬 裕志教授は、消化器内科医としてカンピロバクター腸炎の治療に携わっていらっしゃることに加え、疾患の体験者でもあります。

今回は、仲瀬 裕志先生に、カンピロバクター腸炎の原因や症状について自身の経験を交えお話しいただきました。

  • カンピロバクター属菌には、大半が鶏肉などの食品から感染する
  • 腸内環境が発症・重症化に関係している
  • カンピロバクター腸炎の検査方法について

カンピロバクター腸炎とは、カンピロバクター属菌の細菌に感染することによって引き起こされる感染性腸炎です。

主な症状には、下痢、腹痛、発熱、悪心(おしん:吐き気を催す、胸のむかつき)、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などがあります。なかでも下痢や腹痛を訴える方が多いでしょう。発熱するケースでは38度を超える高熱がでるといわれており、筋肉や関節の痛みを訴える方もいます。

お腹をおさえる男性

カンピロバクター腸炎を引き起こす原因は、カンピロバクター属の細菌です。このカンピロバクター属菌は、主に牛や羊、豚、犬、猫、野鳥や鶏などの家禽(かきん)類の腸管内に常在菌として保菌されています。

しかし、これらの動物や家禽類に腸炎が起こることはなく、細菌に感染し腸炎などの症状が現れるのは人間のみであるといわれています。

カンピロバクター属菌は、食事による感染が最も多いでしょう。鶏肉や豚肉などの食用肉を加工する際に菌が付着することで、感染源になりうるといわれています。

菌の発育温度域は34〜43度であるため、十分に加熱すれば菌を死滅させることができます。さらに、大気中や乾燥した状態では菌が死滅しやすいといわれています。このため、生肉や半生の肉は、最も感染の危険がある状態といえるでしょう。

また、食事による感染よりも少ないケースですが、犬や猫などのペットから感染することもあります。特に、ペットの便から感染するケースが多いため、ペットを触った後や便の処理をした後には、きちんと手を洗うことが感染の予防につながるでしょう。

鶏

日本におけるカンピロバクター腸炎の正確な頻度はわかっていません。それは、細菌に感染し腸炎の症状が現れたとしても、必ずしもみんなが病院を受診するとは限らないからです。特に軽症の下痢や腹痛であれば、病院を受診しない方も多いでしょう。

さらに、食中毒として届け出がされているものは非常に限られた症例であると予想できます。このため、カンピロバクター腸炎は、実際に報告されている症例数よりも多く発生していると考えてもよいでしょう。

一般的に、細菌に感染したとしても、すぐに腹痛や下痢など腸炎の症状が現れるわけではありません。カンピロバクター属菌も例外ではなく、感染後、一定の潜伏期間(病原体に感染してから体に症状が出るまでの期間)を経て腸炎を発症します。

カンピロバクター属菌の潜伏期間は2〜5日間と、ほかの感染型細菌性食中毒と比較するとやや長い点が特徴です。

カンピロバクター属菌に感染したからといって、必ずしもカンピロバクター腸炎を発症するとは限りません。さらに、発症しても軽症ですむこともありますし、必ずしも重篤化する方ばかりではないでしょう。しかし、特に体調が優れないときには発症しやすく、重篤化しやすいといわれているため注意が必要でしょう。

お腹をおさえる男性

ではなぜ、体調不良が腸炎の発症や重症化につながってしまうのでしょうか。それは、体調が優れないときには、腸内環境が乱れやすくなるからです。

記事2『カンピロバクター腸炎の治療と予防』で詳しくお話ししますが、発症や重症化には、腸内細菌の状態が深く関わっていると考えられています。腸内細菌の状態は人によって異なりますが、腸内細菌の多様性が保たれているほうが、よりバランスがとれ良好な状態ということができます。腸内の防御のバランスがとれており、より腸管が守られている状態ということができるのです。

特に、乳酸菌の一つであるエンテロコッカス・フェカリスと呼ばれる細菌がいなくなると、カンピロバクター属菌が増えやすくなることがわかっています。

このため、腸内細菌の多様性が保たれ、エンテロコッカス・フェカリス菌が十分にある状態であれば、感染しても発症しない可能性も高くなると考えられています。

仲瀬先生

実は私もカンピロバクター腸炎を経験したことがあります。ここでは少し、私が体験したカンピロバクター腸炎についてお話ししたいと思います。

私は鳥刺しを食べた2日後にカンピロバクター腸炎を発症し、ひどい下痢と腹痛、38度近くの発熱を体験しました。さらに筋肉など体の節々に痛みが生じるなど、重症化した点が特徴です。

すぐに病院を受診し、抗生剤(細菌を死滅させ感染を防ぐ抗生物質からつくられた薬剤)を服用したために数日で治癒しました。

潜伏期間が2日で腸炎が発症するのは、カンピロバクター腸炎では比較的早いほうです。先ほど、体調が優れないときには発症・重篤化しやすくなるとお話ししましたが、まさに当てはまります。ちょうど忙しい時期にカンピロバクター属菌が付着した生の鶏肉を食べたために腸炎を発症したのです。同じように鳥刺しを食べても発症したのは私だけでした。

この話からも、腸炎の発症・重篤化には、体調が大きく関わっていることをわかっていただけるのではないでしょうか。

検査

カンピロバクターの確定診断には、便培養(べんばいよう)検査が最も有効でしょう。便培養検査とは、患者さんの便を検体として採取・培養し、細菌の有無や菌の種類・量を調べる検査です。

この検査を実施する際には、カンピロバクター腸炎の疑いがあることを、医師が検査の担当者に伝えることが重要です。カンピロバクター腸炎の疑いがあることがわかれば、重点的に該当する細菌がいないかどうかを調べることができるからです。

そのため、便培養検査の前には患者さんへの問診が非常に重要になります。患者さんの食事の内容をきちんと把握することで、カンピロバクター腸炎の可能性があるか否かを判断することができるからです。

実際、自身を潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜に連続的に炎症が起こることで、血便・下痢・軟便・腹痛などの症状が現れる疾患)だと思い受診された患者さんがいらっしゃいました。この方は、下痢や下血があったために潰瘍性大腸炎を疑ったのです。

しかし、腸管にカメラを入れ検査をしたところ、カンピロバクター腸炎の特異的な広がりが認められたため、食事について尋ねました。数日以内に鶏肉を食べたことを話してくださり、そこからカンピロバクター腸炎が判明しました。

下痢や嘔吐があっても、患者さんが必ずしも食中毒を疑うわけではありません。「まさか自分は食中毒ではないだろう」と思っているケースも少なくないのです。

そのようなケースであっても、きちんと食事の内容について話を聞くことで適切な診断につながるでしょう。患者さんも、医師に食事内容を聞かれた際には、できる限り正確に伝えるようにしていただきたいと思っています。

カンピロバクター腸炎の治療と予防に関しては、記事2『カンピロバクター腸炎の治療と予防』をご覧ください。
 

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