概要
クリッペル・トレノネー症候群は、片方(または両方)の腕か足に骨軟部組織の過成長・肥大(片側肥大)がみられる病気です。同時に、その腕か足、ときには別の腕か足のほぼ全体に血管やリンパ管の奇形(混合型脈管奇形)が生じます。血管やリンパ管の奇形は内臓に生じることもあります。
混合型脈管奇形とは、毛細血管、静脈、リンパ管、動静脈のうち2つ以上に奇形が生じている状態を指し、クリッペル・トレノネー症候群は毛細血管、静脈、ときにリンパ管に奇形がみられます(低流速脈管奇形)。
クリッペル・トレノネー症候群はパークス ウェーバー症候群という似た病気との区別が難しいことから、これらの症候群を合わせた呼称として“クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群”という病名で指定難病に登録されています。しかし、クリッペル・トレノネー症候群とパークス ウェーバー症候群は症状や病気の経過が異なる別の病気です。
原因
クリッペル・トレノネー症候群は、胎児の身体組織が母体の中で作られる時期に血管やリンパ管などに奇形が生じることによって発症すると考えられています。奇形が生じる原因についてはまだはっきりと分かっていませんが、PIK3CA体性遺伝子の変異がみられる患者がいることが確認されています。家族間での発症も報告されていますが、ごくまれなケースです。
症状
クリッペル・トレノネー症候群は、手足などにさまざまな症状が起こることが特徴です。
1つは混合型脈管奇形による症状です。毛細血管奇形が生じることによって皮膚に地図のような形状をした平坦な赤いあざ(ポートワイン母斑)が生じる傾向があり、血管が蛇行している様子やリンパ管がうまく働かないことによるむくみなどがみられます。静脈に奇形が生じると血栓ができたり壊れたりしやすく、手足の血液の循環状態がよくなったり、悪くなったりを繰り返します。血液凝固機能の低下も見られることが多く、皮膚表面や内臓に生じた場合などではときに出血し、貧血を生じることがあります。また、リンパ管に奇形が生じることで、手足の小さな傷から細菌が入り込んで感染を引き起こし、手足の腫れや全身の重い感染症を生じることがあります。
もう1つは過成長による症状です。過成長している腕や足と、そうでない腕や足の大きさや長さ、あるいは形に差が生じることがあります。たとえば、足の長さに大きな左右差が生じると、歩くことに支障をきたしたり、腰や背中が曲がって姿勢が悪くなったりすることがあります。症状が現れている腕や足、腰に強い痛みを感じることも少なくありません。また、生まれつき手や足の指に奇形(合指症や多指症など)がみられることもあります。これらの症状は患者の年齢が上がるとともに悪化する傾向にあります。
検査・診断
クリッペル・トレノネー症候群は、研究班の作成した診断基準に基づいて診断されます。
まず、動脈奇形か静脈奇形かの診断を行うために血管や腫瘤の診察が行われます。次に超音波検査、MRI検査、造影CT検査、動脈造影検査などの画像検査、病理組織検査が行われます。
クリッペル・トレノネー症候群と見分ける必要のある病気として、以下のような病気が挙げられます。
- 乳児血管腫、血管肉腫など血管やリンパ管に腫瘍性の増殖がある病気
- 一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫など生まれた後に発症する病気
など
治療
クリッペル・トレノネー症候群は生まれつきの病気であるため、今のところ病気を根本的に治療する方法はありません。現れた症状や今後起こり得る症状に対して、その都度治療や予防が行われます。
脈管奇形に対する治療
患者によって治療法は異なりますが、痛みが生じている場合は痛み止めの内服を、むくみが強い場合は弾性ストッキングを使った圧迫療法が行われます。
手術による治療法もあり、切除療法、硬化療法、塞栓術、レーザー治療などから、一人ひとりに合った方法を選びます。
治療を行うことによって奇形が改善したり、その状態が維持されたりすることが期待されますが、いずれの場合も生涯にわたって継続的な管理が必要です。
近年、分子標的治療薬のシロリムスが医薬品として承認され、脈管奇形の治療薬として期待されています。
血液に異常が生じた場合
血液の凝固機能の低下や、貧血が生じている場合には薬物療法が検討されます。
ただし、有効な薬物療法についてはまだ明確な見解がなく、中には保険適用ではない治療薬もあるため、治療を受ける際は医師とよく相談することが大切です。分子標的治療薬のシロリムスは血液に異常が生じた場合の治療薬としても期待されています。
足の長さに左右差がある場合
足の長さに左右差がある場合、装具を用いてその差を埋めたり(下肢補高装具)、 手術治療を行って差を少なくしたりする方法(骨端線成長抑制術、骨延長術)があります。
また、大きくなった手足や形に対しても、手術治療で病変を切除する(減量手術)などの形を整える方法があります。
予防
クリッペル・トレノネー症候群は先天性のため、病気自体の予防法は現時点ではありません(2024年12月時点)。
しかし、体重の増加によって体の血液量が増えたときや、血液の流れが滞ったとき、感染を引き起こしたときなどに病状が悪化しやすいといわれています。そのため、日常生活では以下のようなことに注意しましょう。
- 食べ過ぎに注意し、体重をコントロールする
- 避妊を行い、希望しない妊娠を避ける
- 水分補給をしっかり行い脱水を予防する
- 弾性ストッキングを着用する
- 長時間同じ体勢で足を動かさずにいることを避ける
- 排便のためにトイレで長時間いきむことをやめる
- 患部を清潔に保ち、保湿を心がける
など
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