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クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群――血管・リンパ管の構造異常・機能障害により多彩な症状を示す

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群――血管・リンパ管の構造異常・機能障害により多彩な症状を示す
七野 浩之 先生

国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 小児科 医員

七野 浩之 先生

目次
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クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群は、血管やリンパ管の一部が正常につくられないことにより起こる病気で、全身に多彩な症状が認められます。運動機能や外見にも影響が及ぶことから、患者さんの日常生活への負担も大きい病気です。そこで今回は、国立国際医療研究センター病院 小児科 医員(前・小児科診療科長・第一小児科医長・小児腫瘍(しゅよう)内科医長) 七野 浩之(しちの ひろゆき)先生に、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の特徴やその治療についてお話を伺いました。

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群は、血管やリンパ管*の一部が正常につくられず、その構造や機能に問題が生じることにより引き起こされる病気です。異常のある血管やリンパ管の種類により、毛細血管奇形、静脈奇形、動脈奇形、リンパ管奇形に分類されており、これらを複数合併することもあります。

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の原因は、一部に血管やリンパ管をつくる遺伝子の変異が関係することが明らかになっていますが、その全容はいまだ解明されていません。現時点では、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で成長する際に、血管やリンパ管の形成になんらかの問題が生じることにより発症すると考えられています。

発症の初期段階では症状が認められない場合もありますが、多くの患者さんは小児期になんらかの症状が現われて診断に至ります。日本には約3,000人の患者さんがいると推定されており、小児慢性特定疾病と指定難病に指定されています。

*リンパ管:体内の組織液や老廃物を集め血管へと戻すはたらきのある管。

血管やリンパ管は全身に張り巡らされているため、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の影響はさまざまな部位に及びます。異常のある血管・リンパ管の種類によって、太さや形状などが異なるため、症状の種類や程度には個人差があり、成長や加齢に伴い悪化する傾向があります。

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群に特徴的な症状として、以下のようなものがあります。

四肢の片側肥大

片方の腕や脚が大きくなったり、長くなったりすることで、左右差を生じます。左右の脚の長さが異なると、歩行に問題が生じたり、側弯症(そくわんしょう)(背骨のゆがみ・ねじれ)を引き起こしたりすることがあります。

指の形成異常

手足の指の数や形が生まれつき異なる場合があります。主に指どうしがくっついた状態(合指症)、一部の指が大きい(巨指症)といった症状が認められます。

赤いアザ

広い範囲にわたって赤いアザ(地図状ポートワイン母斑)が認められることがあります。これは皮膚の毛細血管の異常により起こります。

静脈の瘤・蛇行

静脈に異常があると、(こぶ)のように膨らんだり、蛇行したりすることがあります。静脈は皮膚に近いところを通っているため、瘤や蛇行した血管は外見上目立ち、ボコボコと浮き出ているように見えることもあります。

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四肢の片側肥大と赤いアザ(地図状ポートワイン母斑)のイメージ

病状が進行すると、疼痛(とうつう)や皮膚の潰瘍(かいよう)、出血(下血や血尿)、感染・敗血症などを合併するようになります。また、これらの症状が繰り返されると、血液の流れや固まりやすさ(凝固能)にも影響が及び、心不全など重篤な病気につながることもあります。

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群は、腕や脚の左右差、赤いアザなど外見に特徴が認められるため、多くは見た目から診断されます。血管やリンパ管の異常がどのように広がっているかについては、超音波検査やMRIなどの画像検査で全身を評価し、この結果に基づいて治療方針を決定します。

現在のところ、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群に対する確立された治療法はないため、治療の中心は患者さんの症状に合わせた対症療法になります。

血管・リンパ管の異常により起こる症状

血管・リンパ管の異常により起こる症状に対しては、患者さんの腕や脚の形に合わせて作製した弾性ストッキングによる圧迫、赤いアザなど皮膚に近い病変に対してはレーザー照射などが用いられます。また、異常な血管やリンパ管に対する硬化療法・塞栓術(そくせんじゅつ)や切除手術が検討されることもあります。

四肢の左右差

脚の長さの左右差が大きくなると歩行に影響が出るため、短いほうの脚に高さをつける装具を使用して補正します。状況によっては、手術によって脚の長さを矯正することもあります。

さらに、歩行中に脚に大きな負担がかかることで、膝などの関節を傷めてしまうこともあります。その場合には人工関節置換術などの手術を行うこともあります。

出血や凝固能異常

血液の凝固能異常や貧血に対しては内服治療が行われます。出血量が多い場合には輸血を行うこともあります。

日常生活での注意点は、患者さんの症状により異なるため、主治医と相談しながら、それぞれに合った対処法を見つけることが大切です。たとえば、皮膚の表面に病変がある場合は、摩擦などの刺激により出血しやすいため、軟膏の塗布やガーゼで保護するなど日々の予防策が重要になります。また、感染が起こると病変が大きくなり、病状がさらに悪化する可能性もあるため、皮膚の清潔を保つことなどにも注意しましょう。

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群に対しては、これまで根本的な治療法がなく、対症療法が行われてきましたが、最近は血管やリンパ管の異常を治療する薬物療法の研究が進んでいます。中でも注目されているのが、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の原因の1つである、血管・リンパ管をつくる遺伝子の異常なはたらきを抑えるシロリムスという薬剤です。

現在、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群に対するシロリムス治療の有用性を検証する臨床試験が行われており、近い将来、新たな選択肢として治療に用いられるようになることが期待されています。

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群は、腕や脚の変形や内臓からの出血など、患者さんの日常生活に大きな影響を及ぼすだけでなく、アザなどの外見上の問題から心理的な負担も非常に大きな病気です。これまで有効な治療法が限られていたため、患者さんはさまざまな症状に苦労しながら、頑張ってこられたのではないでしょうか。

現在、私たちはシロリムスをはじめとした新しい治療法の研究を進めていますが、これまで対症療法しかなかったクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の治療が変わる日も近いと感じています。その日が到来するまで、主治医と相談しながら、諦めずに治療を続けていきましょう。

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