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リンパ管腫――リンパ管の形成異常により生じる良性の腫瘤

リンパ管腫――リンパ管の形成異常により生じる良性の腫瘤
七野 浩之 先生

国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 小児科 医員

七野 浩之 先生

目次
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リンパ管腫は、体内の組織液や老廃物を集め血管へと戻すはたらきのあるリンパ管が、異常に膨らみ集合して腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)をつくる病気です。多くは先天性・小児期に発症し、日常生活に支障をきたすこともあるため、早期からの治療が求められます。そこで今回は、国立国際医療研究センター病院 小児科 医員(前・小児科診療科長・第一小児科医長・小児腫瘍(しゅよう)内科医長) 七野 浩之(しちの ひろゆき)先生に、リンパ管腫の特徴やその治療についてお話を伺いました。

人間が生きるために必要な栄養分や酸素は、血管を通じ血液によって全身に運ばれます。そして、血液に含まれる水分(血漿(けっしょう))の一部は毛細血管から染み出て、体の隅々まで栄養分などを届けています。この水分の一部は再び血管に戻りますが、戻ることができなかった水分は組織液として全身の細胞の間を満たしています。この組織液の一部をリンパ液として回収するのがリンパ管です。リンパ管は全身に広がっており、細胞から出た老廃物などを回収する役割もあります。

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リンパ管のはたらきのイメージ

リンパ管腫は、リンパ管がつくられる際に一部が通常の管状の構造にならず、異常に膨らんで袋状になり、それが集まって生じる腫瘤(こぶ)です。リンパ管腫の腫瘤を取り出して顕微鏡で見てみると、中は組織液(リンパ液)で満たされた大小の水風船が集まったような構造をしています。

リンパ管腫は、リンパ管の通る部位であれば、どこにでも発生する可能性があります。特に頻度が高いのは首や(わき)の下で、皮膚の外から触るとブヨブヨとした弾力を感じます。また、舌や筋肉内、腹腔内(ふくくうない)(お腹の中)などに認められることもあります。

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リンパ管腫の例

リンパ管腫の多くは、先天性もしくは小児期に発症します。妊婦健診の際にお腹の赤ちゃんにリンパ管腫がある可能性を指摘されることもあります。なお、日本には10,000人程度の患者さんがいると推定されており、小児慢性特定疾病に指定されています。

リンパ管腫は、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で成長する際に、リンパ管の形成になんらかの問題が生じて起こると推定されていますが、明確な原因は定かではありません。ただし、遺伝による病気ではないと考えられています。

リンパ管腫は良性の病気であり、がん(悪性腫瘍)のように悪性の細胞が全身に転移したり、増殖し続けたりすることはありません。がんの中にはリンパ管腫と似た“リンパ腫”と呼ばれるものがありますが、まったく別の病気です。最近はリンパ管腫を“リンパ管奇形”と呼ぶことも増えています。

リンパ管腫は良性の病気ですが、腫瘤のできた場所や大きさによっては、命に関わることがあります。たとえば、首や舌に大きな腫瘤ができると、気道や食道がふさがれて呼吸や食事摂取に支障をきたしたり、血管が圧迫されて脳に十分な血液が送られなくなったりすることがあり、緊急の処置や手術が必要になります。

さらに、腋の下などに大きな腫瘤ができると、腕を動かしにくいなど運動機能に影響を与えます。また、頭部や首の腫瘤は目立つため、患者さんにとって心理的な負担が大きいという問題もあります。

リンパ管腫の診断は、超音波検査やMRI検査などの画像検査に基づいて行われます。特にMRI検査は、治療によって腫瘤が縮小しているかを評価する際にも用いられる重要な検査です。また、画像検査のみで診断することが難しい場合には、腫瘤の一部を採取して顕微鏡で詳細に観察する病理検査が行われることもあります。

リンパ管腫に対する標準治療は、現在のところ確立されておらず、腫瘤のある部位や大きさ、見た目の問題などを総合的に考慮して、患者さんごとに治療方針を決定します。

腫瘤が小さく、日常生活に及ぼす影響がわずかであると考えられる場合には、定期的な経過観察のみで治療の必要がない患者さんもいます。ただし、リンパ管腫は感染や出血を起こしやすく、それに伴い発熱や腫瘤の腫れを繰り返すことがあります。細菌感染を起こすと、入院して抗生物質の投与が必要になる場合や、症状が治まるまでに数週間かかる場合もあります。日常生活では腫瘤をぶつけないように注意するなど、状態に応じた予防とケアが必要です。

リンパ管腫に対して用いられる主な治療法は次の3つです。なお、各治療の効果には個人差があります。

硬化療法

腫瘤に硬化剤という薬剤を注射し、強い炎症を起こすことによって腫瘤を小さくしていく治療法です。日本では、主に溶連菌抽出物という硬化薬が用いられています。注射後は、腫れや痛みなどが1週間ほど続きますが、それが治まると2~15週間程度で腫瘤が小さくなります。硬化療法を複数回行うことで、徐々に腫瘤が小さくなっていく患者さんもいます。

手術

腫瘤を手術により切除する方法です。特に首などに大きな腫瘤があり、気道や食道、血管などを圧迫している場合には緊急手術を行うこともあります。

手術で腫瘤を完全に取り除くことができれば完治を期待できます。しかし、腫瘤が正常な組織の間に入り込むような形で存在する場合には、周囲の正常な組織も含めて切除しなければならないこともあります。また、神経や血管が多く通る顔面などの部分では、腫瘤を完全に取り除くことが難しく、見た目の改善のための部分的な切除にとどまることがあります。

薬物療法

2021年9月から、日本ではシロリムスという薬剤による薬物療法が選択肢に加わりました。シロリムスは、血管やリンパ管の形成異常の原因の1つであるmTORというタンパク質のはたらきを抑える薬剤で、1日1回の内服を続けることにより、腫瘤の縮小や症状改善効果を期待できます。ただし、シロリムスは免疫抑制剤としても使われる薬剤であるため、治療中には感染症などの副作用に注意が必要です。

リンパ管腫の治療では、硬化療法、手術、薬物療法を組み合わせて行うこともあります。治療方針は患者さんの状態に合わせて決定され、たとえば非常に腫瘤が大きく、手術で完全に取り除くことが困難だと考えられる場合には、硬化療法や薬物療法で腫瘤を小さくしてから手術を行うこともあります。

なお、多くのリンパ管腫患者さんは、これらの治療によって腫瘤が縮小・消失し、満足いく結果が得られているとされています。ただし、腫瘤の部位や大きさによっては治療によって腫瘤を十分に小さくすることができずに、長期にわたって病気と付き合う必要のある患者さんもいます。

私たち国立国際医療研究センター病院では、総合病院としての強みを生かして、小児科を中心に外科や歯科・口腔(こうくう)外科などの診療科とも連携しながら、リンパ管腫の治療を行ってきました。これまでは手術や硬化療法が中心であったため、患者さんの中には、治療でつらい経験をした方や、十分な効果が得られなかった方もいらっしゃるかもしれません。しかし、リンパ管腫の治療は現在も進歩を続けています。たとえば、新たな選択肢であるシロリムスは、これまで治療に苦労していた患者さんにも効果が認められており、試してみる価値のある治療です。ぜひ一度、リンパ管腫の治療に詳しい医師に相談していただきたいと思います。

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