概要
ヒルシュスプルング病とは、消化管の蠕動運動を司る神経(節)細胞が欠如することで、腸閉塞*を引き起こす病気です。
蠕動運動とは、排便のために胃や腸の内容物を肛門側へ移動させる運動で、本来は蠕動運動を司る神経節細胞が食道から肛門まで連続して分布しています。しかし、この病気では何らかの原因によってこの神経節細胞が欠如しています。そのため、腸の蠕動運動が正常に行われず、便秘やお腹の張り、嘔吐などの腸閉塞の症状が現れます。遺伝的要因が一部のケースで確認されていますが、多くは原因不明です。
日本での発症頻度は、出生約5,000人に1人程度と推定されています。男性の方が女性よりも発症しやすい傾向があり、毎年一定数の新規患者が報告されています。
主な治療は外科的手術です。具体的には、神経節細胞が存在しない腸管部分を切除し、正常な腸管を肛門につなぐ手術が行われます。
*腸閉塞:腸が詰まって腸管の内容物が通過できなくなる状態のこと。
原因
蠕動運動を司る神経節細胞は、胎児の発育過程において、胎齢5~12週頃にかけて食道の入り口に発生し、肛門に向かって徐々に分布していきます。しかし、ヒルシュスプルング病では、この神経節細胞の移動が途中で止まり肛門まで到達しないことがわかっています。神経節細胞がない腸管では蠕動運動が止まってしまい、便が腸内で停滞し、肛門外に排出されなくなります。そのため、蠕動運動ができない異常な腸管の口側が大きく拡張します。
ヒルシュスプルング病は、遺伝子変異が関与していることがあります。遺伝子変異を原因とする場合、家族内で発症がみられることもあります。しかし、全ての症例が遺伝子変異によるものではなく、多くの場合は遺伝子変異以外の要因で発症します。これらの非遺伝性の発症要因については、現在のところ明確な原因が解明されていません。
症状
新生児期に発症した場合、排便がうまくいかない、お腹が膨れる、嘔吐などの腸閉塞症状がみられます。放置すると腸炎から敗血症に進行することがあり、場合によっては命に関わる危険な状態になることもあります。
ヒルシュスプルング病の合併症として腸炎が生じることがあります。腸の異常な拡張や蠕動不全によって腸内で細菌が異常に増殖することで炎症が起こります。そして、細菌が血管内を流れて全身に広がると敗血症に至ります。
検査・診断
ヒルシュスプルング病の診断には、複数の検査を組み合わせて行います。主な検査方法は以下のとおりです。
- 腹部X線写真・腹部超音波検査:X線や超音波を使って腹部の状態を観察する簡単な検査です。腸管の拡張や便の貯留などを確認することができます。
- 注腸造影検査:腸の形をみる検査で、肛門に細い管を挿入して造影剤(バリウムなど)と空気を注入し、X線写真を撮影します。
- 肛門内圧検査:圧力センサーを肛門に挿入して肛門管の圧力を測定し、肛門括約筋の機能や直腸の反射機能を評価します。
- 直腸粘膜生検:診断確定のための検査で、直腸粘膜の一部を採取して顕微鏡で観察し、神経の異常があるかどうかを確認します。
治療
ヒルシュスプルング病の主な治療法は外科的手術です。この手術は病気の根本的な原因に対処するために行われます。
手術では、神経節細胞のない腸の部分を切除し、正常な神経細胞を持つ腸を肛門につなぎます。この手術を吻合術と呼びます。これによって、正常な排便機能が回復することが期待されます。
しかし、神経節細胞がない部分が大腸全体であったり小腸など広範囲に及んだりする場合には、より複雑な治療が必要となります。このような場合、切除後に水分や栄養の管理を目的として中心静脈カテーテル*の留置が必要となることが多く、在宅あるいは入院下で治療を行いますが、長期にわたることがあります。
また、神経がない部分が広範囲に及んでいる場合には、小腸の移植や多臓器移植が必要になることがあります。
なお、手術後に便秘や腸炎を起こすことがあるため、術後積極的に排便管理を行います。整腸薬や緩下薬、浣腸を行うことで正常な排便パターンの確立が図られます。
ヒルシュスプルング病は、症状が軽い場合には一般的な便秘として診断され治療されることがあります。そのため、乳幼児期以降になってから頑固な便秘が続くなどの症状で、初めて発見されることもあります。ヒルシュスプルング病を見逃さないようにするために、長期にわたる便秘症状がある場合は、専門医による詳細な検査を受けることが重要です。
*中心静脈カテーテル:体の中心部の大きな静脈に挿入する細い管。
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