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ヒルシュスプルング病の治療法 手術の方法や合併症について

ヒルシュスプルング病の治療法 手術の方法や合併症について
内田 広夫 先生

名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授

内田 広夫 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年12月07日です。

腸管の神経節細胞(しんけいせつさいぼう)が生まれつきないために、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が起こらない「ヒルシュスプルング病」。ヒルシュスプルング病では、神経節細胞がない部分の腸管を切除する手術治療を行います。今回は名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科教授である内田広夫先生に、ヒルシュスプルング病の手術治療についてお話を伺いました。

ヒルシュスプルング病の概要や症状、検査方法については記事1『ヒルシュスプルング病とは?症状や検査方法について』をご覧ください。

ヒルシュスプルング病では、腸の蠕動運動に関わる「神経節細胞」が生まれつきないために、重度の便秘が起こり自力での排便が困難になります。

これに対して、浣腸や洗腸(せんちょう)などで排便管理を行います。しかし、これらはあくまでも対症療法(症状を和らげる治療)であり、根本的治療ではありません。自力で排便ができない状態が続くと、腸炎や栄養障害を起こしたり、場合によっては敗血症(血液に細菌が入って全身に回り,重い症状になった病気)のような重度の感染症を発症したりすることがあります。

そのため、ヒルシュスプルング病では手術で神経節細胞がない部分の腸管を切除する必要があります。

当院では、体重が約5〜6kgに成長した段階で手術を行うようにしています。もちろん新生児期でも手術は可能ですが、骨盤内の操作を細密に行うためには、ある程度の体格になってからのほうが手術を行いやすいと考えています。

手術方法には主に「開腹手術・腹腔鏡手術・経肛門(けいこうもん)手術」の3つがあります。どの方法で手術を行うかは、手術を受ける病院や患者さんの状態によって異なりますが、当院では、ほぼすべての症例を腹腔鏡手術で行っています。

腹腔鏡手術は、お(へそ)に1か所とそのほかに1〜数か所の小さな穴を開けて、そこから専用の器具を挿入して行う手術です。しかし、赤ちゃんの全身状態が悪いときには開腹手術を選択することもあります。

経肛門手術…肛門から手術の器具を通して行う手術

ヒルシュスプルング病の手術では、神経節細胞がない部分の腸管を切除して、正常な腸管を肛門の近くにつなげる方法を用います。細かな術式としては以下の3つの方法があり、当院では、スウェンソン(Swenson)法を用いて手術を行っています。

それでは、それぞれの術式の具体的な方法や、メリット・デメリットについて解説していきます。

スウェンソン(Swenson)法

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スウェンソン法は、神経節細胞がない腸管をほぼすべて切除したあとに、正常な腸管を下に降ろしてきて、外科的肛門管につなげる手術方法です。動かない腸管を残すことなく切除することができるメリットがあります。

スウェンソン法は高い技術が求められ、膀胱などの神経を傷つけないよう十分に注意をしながら手術を行う必要があります。しかし、腹腔鏡手術では術野が十分に拡大され丁寧に手術を行うことができるため、骨盤神経の損傷を避けて手術が可能であるという報告が多くなされるようになってきており、私達も同様の報告を行っています1)。これらの理由から、当院ではスウェンソン法を用いて手術を行っています。

ソアベ(Soave)法

ソアべ法 

ソアベ法は、神経節細胞がない腸管を一部分残して腸管の切除を行います。このときに残す腸管は、内側の粘膜部分だけ切り取り、外側の筋筒(きんとう)だけ残る状態にします。

そのうえで、正常な腸管を下に降ろしてきて、残した腸管(筋筒)の内側に正常な腸管を挿入するようにして縫合する方法です。

全国的にはソアベ法を用いて手術を行う病院が多くみられます。しかし、神経節細胞がない、動かない腸管の筋層を一定範囲残さなければならないというデメリットがあります。

それではなぜ、ソアベ法が広く行われているかというと、腸管の外側に触れないため、骨盤神経叢(こつばんしんけいそう)を傷つけることがないためであるといわれています。

しかし近年、動かない筋肉を残すことで術後狭窄(きょうさく)(腸の一部が狭くなってしまうこと)や腸炎などの合併症を起こすといわれています。これらの合併症を防ぐために、残す筋肉を最小限にする術式が多く行われるようになってきました。

このような点から、動かない筋肉を残さないスウェンソン法のほうが、適した手術であると考えられるようになってきています。

デュファメル(Duhamel)法

デュファメル法

デュファメル法は、神経節細胞がない腸管を一部残し、その後ろ側に正常な腸管をもってきて縫い合わせる術式です。腹腔鏡手術や経肛門手術の普及と共にデュファメル法で行う病院は減少傾向にあります。

一方で、スウェンソン法やソアベ法で手術後に問題が起きた場合の再手術として多く行われるようになってきました。

当院で手術を受けた場合、術後3日目から少量の哺乳を開始し、徐々に増量していきます。

また、術後は排便機能が安定するのに時間を要することがあります。

排便回数が多くなり、水様性(すいようせい)の便が持続する方もいれば、排便がうまくできずに便秘となる方もいます。

そのため、座薬や浣腸を用いながら、排便機能が改善するまで経過を追っていく必要があります。

手術による合併症が起こることは少ないですが、以下のような合併症が起こる恐れもあります。合併症が起きた場合には、早急に病状説明を行い、必要な処置を行います。

手術に伴い、正常な腸管や肝臓、脾臓(ひぞう)、腎臓、血管などに損傷(副損傷)が起こることがあります。このような損傷がみられた場合には、術中に損傷部位の修復を行います。また、手術に伴う出血は基本的には少量です。

創部(手術によってできる傷)に細菌が入り込む創感染(そうかんせん)や、腹腔内の一部に(うみ)がたまる腹腔内膿瘍を合併する可能性もあります。これらの感染症を合併した場合には、抗生剤を投与するなどして症状悪化を防ぎます。

また、腹腔内膿瘍に対して抗生剤の効果が得られない場合には、ドレナージ(チューブを挿入して膿を排出する処置)を行うこともあります。

手術で縫合した腸管がうまくつながらず、腸内にある便が腹腔内に漏れてしまうことがあります。絶食などの保存治療で経過をみますが、状態によってはまれに人工肛門造設が必要となることがあります。

腹腔鏡手術は、ガスを使ってお腹を膨らませた状態で行います。そのガスが血管内に吸収されることで、文献的には血管がつまる報告があります。

また、ガスが皮下に漏れると皮下気腫(皮下の組織に空気が溜まってしまう状態)となることがあります。皮下気腫は自然に治ることがほとんどですが、治るまでに時間がかかることもあります。

手術中に膀胱の神経を傷つけてしまうと、尿が出ない、尿の回数が増える、尿が漏れるなどの排尿障害を起こすことがあります。排尿障害の症状が強い場合には、尿道にカテーテルという医療用の管を留置して、カテーテルを通じて尿を排出する処置を行うことがあります。

患者さんの中には、術後しばらくの間は便秘が続くことがあります。便秘症状が強いと、便が鬱滞(うったい)することで、腸炎を発症することがあります。状態によっては、入院をして腸を洗浄するなどの処置を行うこともあります。

腸閉塞(イレウス)とは、腸の一部が塞がる病気です。腸閉塞を発症すると、食べ物が通過しにくくなり、嘔吐や腹痛などの症状がみられます。場合によっては手術治療が必要となることもあります。

 

【参考】

1)Yokota K,et al.Pediatr Surg Int. 2018;34(10):1105-1110.

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