概要
巨大結腸症は、大腸の腸管の一部が異常に拡張する病気です。通常、腸管は栄養や水分の吸収、また便の形成や移動などを行う管状の器官として機能しています。しかし、この病気により腸管が異常に拡張すると、便やガスなどの内容物を肛門へ向かって送り出すことができなくなります。さらに拡張した腸管部分での血流障害が起こることがあり、これにより重大な合併症が生じる場合があります。
巨大結腸症には先天性と後天性の2つのタイプがあります。先天性の巨大結腸症は「ヒルシュスプルング病」と呼ばれ、生まれつき大腸の運動をつかさどる神経がないことが原因で発症します。後天性の巨大結腸症の原因は多岐に渡り、大腸の炎症や感染症、ホルモン分泌の異常、糖尿病、パーキンソン病などの病気や薬の副作用などが挙げられます。
いずれのタイプも発症すると大腸が異常に拡張するため、お腹の張りや痛み、吐き気や嘔吐、便秘といった症状が引き起こされます。また、原因によっては発熱や脱水などの全身症状、拡張腸管の穿孔(腸管に穴が開くこと)を伴う場合もあります。
治療方法は病気の原因によって異なりますが、栄養管理や薬物療法などにより症状を緩和する保存的治療、問題のある腸管を切除する外科的治療などが行われます。原因となる病気がある場合は、その病気に対する治療も並行して行われます。
原因
巨大結腸症は先天性と後天性の2つのタイプに分類され、生まれつきの異常やほかの病気による炎症など、さまざまな原因により生じます。
先天性巨大結腸症
先天性巨大結腸症は、一般的にヒルシュスプルング病として知られています。ヒルシュスプルング病では、生まれつき大腸の一部の神経節細胞が正常に形成されないため、その部分では腸の蠕動運動を正常に行うことができません。結果として、蠕動できない腸管の口側が徐々に拡張していきます。
後天性巨大結腸症
後天性巨大結腸症は、複数の病気やさまざまな要因によって発症する病気です。
重症の炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病、あるいは腸炎が原因となって、結腸が急激に拡張し、重篤化した場合は中毒性巨大結腸症と診断されます。
一方、動脈硬化や血栓などにより腸管への血流が障害され、その結果として腸管の拡張が生じる場合は虚血性巨大結腸症と呼ばれます。骨盤手術などの整形外科手術後の合併症として発症することがあるほか、重症の心不全や外傷、パーキンソン病などの神経系疾患、甲状腺機能低下症、糖尿病などによっても引き起こされることもあります。
また、向精神薬などの薬の副作用や心理的要因によっても発症する可能性があります。これらの要因で発症する巨大結腸症は、仮性巨大結腸症といわれます。
なお、明確な原因が特定できない場合は「特発性巨大結腸症」と呼ばれます。
症状
主な症状としては、お腹の張りや痛み、吐き気、嘔吐などがみられます。また、腸管の動きが悪くなることで便やガスが適切に排出されなくなり、重度の便秘を引き起こします。
症状の現れ方は、発症原因によって異なるのが特徴です。先天性巨大結腸症の場合、多くは生後間もない時期から症状が現れます。具体的には、便秘、お腹が膨れる、嘔吐などがみられます。重症の場合には腸炎を発症し、敗血症*などの合併症を引き起こすこともあります。一方で、症状が軽度な場合には大人になってから診断されるケースもあります。
中毒性巨大結腸症では、消化管の症状に加え、発熱、脱水、貧血などの全身症状が現れることが多くあります。さらに、病状が悪化すると腸管穿孔を生じて命に関わる危険性が高まるため、早急な対応が必要となります。
*敗血症:細菌やウイルスの感染が全身に広がり、さまざまな臓器に障害が生じた状態のこと。
検査・診断
巨大結腸症が疑われる場合、まず最初に行われるのはX線検査です。これにより結腸内の異常なガスの貯留と腸管の拡張が確認できます。X線検査で巨大結腸症の特徴がみられた場合、さらに詳細な検査が実施されます。先天性の原因が疑われる場合は、ヒルシュスプルング病を想定した検査が行われます。
CTやMRIによる画像検査、注腸造影検査、大腸内視鏡検査などが行われ、大腸の拡張の程度や結腸内の閉塞の有無を調べます。また、炎症反応や脱水状態を調べるために血液検査も実施されます。後天性巨大結腸症の場合は、原因となる病気に対する検査も並行して行われます。
治療
巨大結腸症の治療方法は発症原因によって大きく異なります。それぞれの原因に応じて適切な治療が選択されます。
先天性巨大結腸症
先天性巨大結腸症の治療では、主に手術によって神経節細胞が欠損した腸管を切除する外科的治療が行われます。この病気の代表的な例としてヒルシュスプルング病が挙げられます。
後天性巨大結腸症
後天性巨大結腸症では、まず原因となる病気の治療が優先されます。原因が感染症の場合は抗菌薬投与、炎症性腸疾患の場合はステロイド投与など、原因に応じた治療が進められます。同時に、巨大結腸症の症状改善のために保存的治療も行われます。
具体的な保存的治療としては、腸管の安静を保つための絶食、水分や栄養補給のための輸液療法が行われます。また、肛門からチューブを挿入し、腸管内の便やガスを排出する処置や、大腸内視鏡検査も実施されます。これらの治療により、腸管の負担を軽減し、大腸の拡張を抑えます。
しかし、これらの保存的治療で改善がみられない場合や、腸管穿孔などの重篤な合併症が生じた場合には、外科的治療が必要となることがあります。その場合、異常の生じた腸管を切除する手術が行われます。
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