概要
便秘症とは、本来出すべき便が十分に出ない、または快適に出ないために腹痛・便が出しづらい(排便困難感)・便が出切らない感覚がある(残便感)といった排便のトラブルが長く続く病気のことです。
排便の回数や量、便の硬さなどには個人差があるため、どのような状態を“便秘”とするかはさまざまな定義があります。しかし、日本消化器病学会が定めるガイドラインでは“本来体外に排出すべき便を十分量かつ快適に排出できない状態”と定義され、その状態が6か月以上前から生じ、少なくとも最近3か月間はその状態が続いていることを“慢性便秘症”としています。
便秘症は非常によく見られる病気の1つですが、20~60歳までは女性のほうが多いものの60歳以降は男女差が少なくなり、年齢を重ねるごとに有症率が高くなることが特徴です。
原因は、加齢に加えて食物繊維の摂取不足、運動不足など生活習慣によるものや、内服薬の副作用によるもの(薬剤性便秘)、持病によるもの(症候性便秘)が多いですが、大腸がんやクローン病など重篤な病気が背景にあるケースもあります。
原因
便秘症の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて消化管に何らかの形の異常がある“器質性便秘”と消化管自体に形の異常がないけれど、その動く能力に異常のある“機能性便秘”の2種類に分類されます。それぞれの主な原因は次のとおりです。
器質性便秘
主に大腸の病気による形の異常が原因でスムーズな排便ができなくなる便秘です。よく見られるのは、大腸がんやクローン病など大腸の内部が狭くなる病気によるものです。
大腸の内部が狭くなると大腸内の便の通過に時間がかかり、結果として便秘を引き起こすのですが、ひどくなると大腸での便の流れが完全に詰まってしまう腸閉塞を生じる場合もあります。
そのほかにも、大腸が異常に拡張する巨大結腸症、女性で排便時に直腸の前の壁が腟側に膨らむために直腸内の便をうまく出せない直腸瘤なども便秘の原因になります。
機能性便秘
大腸には形の異常がないにもかかわらず、その動く能力の問題で生じる便秘のことです。
明らかな原因のない特発性と呼ばれるものがもっとも多いですが、食物繊維の摂取不足や運動不足などの食事・生活習慣の乱れ、大腸の運動を弱める副作用がある薬(薬剤性便秘)や持病(症候性便秘)が原因となることも少なくありません。そのほかに、排便時のいきむ力が低下する腹筋の筋力低下や排便時に緩めるべき肛門を逆に締めてしまう異常(機能性便排出障害)も排便能力低下の原因になります。
症状
“便秘”とは、“本来体外に排出すべき便を十分量かつ快適に排出できない状態”ですが、その便秘による症状が現れて検査や治療を必要とする場合に“便秘症”と呼ばれます。
その症状としては、排便回数が少ないことによる腹痛や腹部の張り感(腹部膨満感)、便が硬いことによる排便困難感や強くいきむ必要性、軟便でも排便困難感や残便感を生じるもの(便排出障害)があります。
つまり“便秘症”とは、排便の回数のみで判断されるのではなく、排便困難感や残便感などがある場合も便秘症と考えることが一般的です。基本的には、これらの症状が3か月以上続いている場合に慢性便秘症と呼びます。
検査・診断
症状や診察で慢性便秘症が疑われるときは、次のような検査が行われます。
血液検査
慢性便秘症は、甲状腺機能低下症といったホルモン分泌異常などの病気によって引き起こされることがあります。また、便秘の原因となる大腸がんのために貧血になっている場合もあります。
そのため、それらの病気の有無を調べるために血液検査が行われることがあります。
腹部X線検査・CT検査
腹部X線検査は短時間で行うことができ、大腸内にたまった便の状態を大まかに評価できるため、慢性便秘症に対して行うことが多いです。
ただし、大腸は便をためておく臓器なので、大腸内に便があるからといって便秘症とは限りません。大腸内にたまった便の状態をより詳しく調べるために腹部CT検査を行う場合もあります。
大腸内視鏡検査
内視鏡で大腸の内部を詳しく観察する検査で、大腸がんなどの大腸内に発生した病気の診断に有用です。慢性便秘症のほかに、便潜血検査(便の中に血液が混ざっているかを調べる検査)で異常が見られる場合などにも行われます。
注腸造影検査
X線に写りやすい造影剤を大腸内に注入し、大腸の内部に何らかの病気がないかを調べるための検査です。大腸内視鏡検査より診断能力が劣りますが、大腸がんやクローン病など大腸の内部が狭くなる病気の有無を調べるのに有用です。
排便造影検査
直腸にある便をうまく排便できず、排便機能の異常が疑われるときに行われる専門的な検査です。
この検査では、軟便程度の硬さに調整した造影剤を直腸内に注入した後、レントゲン室内に備えた便座に座った状態で造影剤を排出する様子をX線で撮影し、うまく排便できない原因を調べます。
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治療
便秘症と診断された場合には、症状や原因によって次のような治療が行われます。
食事・生活・排便習慣指導
便秘症と診断された場合、大腸がんなどの病気が原因であるケースを除いて第一に行うべきなのは、食事・生活・排便習慣の改善です。
そのためには、朝食の摂取を含めた規則正しい食習慣、適切な食物繊維の摂取など食生活の見直し、適度な運動習慣などの指導が行われます。また、便意を感じたら我慢せずトイレに行って排便をする排便習慣の確立も重要です。
その一方、便意を感じる能力が低下・消失している脊髄障害などの特別な場合を除いて、便意を感じていないのにトイレに行って長時間いきむことは誤った排便習慣です。
薬物療法
食事・生活・排便習慣指導を行っても便秘が改善しないケース、非常に重度な便秘でさまざまな身体症状を引き起こしているようなケースでは、便を軟らかくしたり大腸の運動を促したりする作用のある下剤などの薬物が使用されます。
下剤には大きく分けて非刺激性下剤と刺激性下剤がありますが、安定した排便回数や便の硬さを保つために非刺激性下剤を毎日適量内服することが原則です。その一方、刺激性下剤は適量の非刺激性下剤が見つかるまでの一時的な頓服使用にとどめます。
原因となる病気の治療
大腸がんやクローン病など大腸の病気が原因で便秘が引き起こされている場合は、その原因となる病気を根本的に治すための治療が必要です。
また、腹筋の筋力低下のために排便時のいきむ力が低下していることや、排便時に緩めるべき肛門を逆に締めてしまう異常(機能性便排出障害)に対しては、バイオフィードバック療法と呼ばれる専門的な治療が有効な場合があります。さらには、女性で排便時に直腸の前の壁が腟側に膨らむために直腸内の便をうまく出せない直腸瘤に対しては、直腸と腟の間の壁を強くする手術が行われることもあります。
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予防
好ましくない食事・生活・排便習慣は慢性便秘症の原因になります。そのため、便秘症を予防するには規則正しく食事と睡眠を取り、適切な量の食物繊維を取るように心がけて食事・生活習慣を整えることが大切です。
また、ストレスも大腸の運動を悪くする原因になるので、日頃からストレスのたまりにくい生活を送るようにし、適度な運動習慣を身につけることも大切です。
さらには、便意を感じたら我慢せずトイレに行くなど排便リズムを整えることも予防法の1つですが、便意も感じていないのに排便をしにトイレに行って長時間いきむような誤った排便習慣は改めるようにしましょう。
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