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ガイドラインからみる便秘症の分類とは ~原因により異なる治療法も解説~

ガイドラインからみる便秘症の分類とは ~原因により異なる治療法も解説~
味村 俊樹 先生

自治医科大学 医学部 外科学講座 消化器一般移植外科学部門 教授

味村 俊樹 先生

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便秘症にはさまざまな原因・病態があり、ガイドラインには、その原因・病態の分類や診断・治療法などが記載されています。しかしガイドラインに記載されている内容は専門的な内容であるため一般の方には理解しにくいかもしれません。そこで本記事ではガイドラインを踏まえ便秘症の分類や治療法について噛み砕いて解説します。

『慢性便秘症診療ガイドライン 2017』の中で“便秘”は、“本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態”と定義されています。そして“便秘症”とは、その便秘により腹痛、腹部膨満感や排便困難、残便感などの症状が現れ、検査・治療が必要な状態とされています。便秘症は原因によって以下のように”器質性”と”機能性”に大別されます。

便秘の分類表

器質性便秘症とは、大腸・肛門(こうもん)の器質的異常(=形の異常)が原因で生じる便秘症です。その原因には、大腸がんクローン病等による大腸の狭窄(きょうさく)以外に、巨大結腸症による大腸の拡張と直腸瘤(ちょくちょうりゅう)や直腸重積等による便排出障害(直腸にある便をうまく出せない病態)があります。

一方、機能性便秘症とは、大腸・肛門の機能的異常(=運動や知覚の異常)が原因で生じます。機能性で排便回数が減少する主な原因には、代謝・内分泌・神経・筋肉など他の病気によるもの(症候性)や向精神薬やオピオイドなどの薬によるもの(薬剤性)、加齢を含めて原因が明確ではないもの(特発性)があります。機能性の便排出障害の原因としては、排便しようとして息んだ際に無意識に肛門を締めてしまう骨盤底筋協調運動障害などがあります。

器質性・機能性の便秘症は、症状によってさらに排便回数減少型と排便困難型に分類されます(上図参照)。排便回数減少型と排便困難型を区別する目安は、週3回以上の排便があるかどうかとされていますが、週3回以上の排便があっても腹痛や腹部膨満感などが見られる場合には排便回数減少型に分類されることがあります。また、排便回数減少型と排便困難型の両方を併せ持つケースもあります。

また、機能性便秘症の排便回数減少型は、さらに“大腸通過遅延型”と“大腸通過正常型”に分類されます(上図参照)。このように便秘症にはさまざまな原因・病態があり、分類に応じて治療法や改善方法も異なるため、検査・診断が肝要です。

便秘症は、その病態・原因に応じた治療が必要です。大腸がんクローン病などが原因となる器質性便秘症では、その病気自体に対する治療を行うことで便秘症状の改善が期待されます。また、機能性便秘症の中で排便回数減少型の便秘症に対しては、まずは規則正しい排便を促すための食事・生活・排便習慣の指導が行われます。

しかし、それでも改善しない場合は大腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が低下している大腸通過遅延型便秘症である可能性が高いので、酸化マグネシウムなどの便秘症治療薬を用います。また、骨盤底筋協調運動障害などによる機能性便排出障害には、バイオフィードバック療法(後述)などが行われることもあります。

機能性便秘症の排便回数減少型で、食事・生活・排便習慣の改善による効果が不十分な場合は、大腸通過遅延型便秘症である可能性が高く、下剤などによる薬物治療が行われます。下剤にはさまざまな種類がありますが、大きく分けると非刺激性と刺激性に分類され、基本的には酸化マグネシウムなどの非刺激性下剤を毎日服用して排便を促します。しかし、便秘症の重症度はさまざまなので、その症状を改善するのに必要な下剤の種類と量は患者によって大きく異なります。したがって、非刺激性下剤だけで排便回数が十分に増加するまでは、刺激性下剤をレスキューとして頓用使用します。そして最終的には、レスキューを必要としないように非刺激性下剤の種類と量を調節することが重要です。

排便時の腹筋と骨盤底筋の協調運動がうまくいかない骨盤底筋協調運動障害のために、軟便でもスムースに排便できずに排便困難感や残便感を生じる機能性便排出障害に対しては、バイオフィードバック療法と呼ばれる一種のリハビリテーション療法が行われることがあります。バイオフィードバック療法とは、筋電計などを用いて骨盤底筋や肛門括約筋の動きを患者に認識させることによって、排便に関わる筋肉や腹圧を正常にコントロールできるように訓練する治療法です。

また、直腸瘤や直腸重積などの器質性便排出障害では、直腸瘤修復術や直腸重積に対する手術が行われる場合があります。さらには、結腸無力症と呼ばれる最重症の大腸通過遅延型便秘症では、結腸全摘・回腸(かいちょう)直腸(ちょくちょう)吻合術(ふんごうじゅつ)や人工肛門造設術などの手術が検討されることがあります。

『慢性便秘症診療ガイドライン 2017』には、便秘の分類や診断基準、治療法などさまざまな情報が掲載されています。便秘症に悩まされ、より詳しい情報を知りたいと思ったときには目を通すことを検討してもよいでしょう。ただし、前述のとおりガイドラインは専門的な内容で一般の方には難しいこともあるため、便秘の症状で困ったり不安になったりした場合は医師に相談しましょう。

便秘症にはさまざまな原因・病態があり、それによって必要となる治療や改善方法が異なります。そのため、便秘の症状が続くときは自己判断で解決しようとせず、かかりつけ医や消化器内科を受診し、医師による食事・生活・排便習慣指導や診断・治療を受けましょう。

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