
便秘の多くは問診や診察によって治療方針を決定し、診断的治療を開始することができます。しかし中には大腸通過遅延型や便排出障害のように専門的な検査を必要とする「本物の便秘」があります。味村俊樹先生に便秘の検査と診断についてお話をうかがいました。
問診で患者さんの症状を詳しく聞くことで、排便回数減少型なのか排便困難型なのか、あるいはその両方なのかはすぐにわかります。排便回数や便性(便の硬さや性状)はブリストル便性状スケールなどの客観的な指標に基づいて記録すべきです。また便秘の状態をスコアリングによって点数で評価する方法もあります。
直腸内に指を入れる指診などを行うことで患者さんの状態はより詳しくわかります。問診と診察だけでも治療方針をかなり具体的に絞り込めるので、その段階で診断的治療を開始することも可能ですが、それでもうまくいかない場合や患者さんが精密検査を希望する場合には次のような検査を行うことがあります。
様々な方法がありますが,私は,患者さんにX線非透過性のマーカーが20個入ったカプセルを飲んでいただき、5日後にお腹のレントゲン写真を1枚撮影する1回法で検査を行います。大腸の中にどれくらいマーカーが残っているかによって、便が大腸を通過するのに要している時間がわかります。実際には、自宅でカプセルを1個内服して頂いた後,120時間(5日)後に病院に来て頂いて,お腹のレントゲン写真を1枚撮影し(腹部X線検査),大腸内に残っているマーカーの数を数え、20個のうち4個以上大腸に残っていれば、大腸通過遅延型と判断します。

バリウムと小麦粉を混ぜて,やや柔らかい便と同じ程度にした擬似便を患者さんの直腸に注入して便座に座っていただき、排出するところを撮影します。10〜15秒で擬似便の全量が排出されるのが正常な状態です。この検査によって,排便困難感や残便感を訴える患者さんの,その原因や実際の排便状態が分かります.たとえ軟便でもスムースに排便が出来ず,排便困難や残便感を生じる状態を便排出障害を言いますが,その原因は多数あります.以下で,骨盤底筋協調運動障害と直腸瘤という代表的な便排出障害の原因を解説します.


普段便がもれないのは、内肛門括約筋が肛門を締めているのと同時に、恥骨直腸筋(ちこつちょくちょうきん)という筋肉がある一定のテンション(張力)をかけて直腸を折り曲げ、角度をつけているからです。この肛門と直腸が作る角度を肛門直腸角と言います.
排便時には腹圧をかけると同時に恥骨直腸筋に力を入れずに緩めるので、直腸の角度が鋭角から鈍角になり、便が肛門を押し広げて排泄しやすくなります。つまり私たちは腹圧をかけるためにお腹には力を入れながら、お尻の筋肉の力を抜くという一種の協調運動(別々の動作を同時に行う運動)を無意識のうちに行って排便をしています。これが骨盤底筋(こつばんていきん)協調運動です。

ところが、この無意識の協調運動がうまくいかなくなると、腹圧をかけるためにお腹に力を入れるときに恥骨直腸筋にも力が入ってしまうために便が出にくくなってしまいます。これを骨盤底筋協調運動障害といいます。


直腸瘤(ちょくちょうりゅう)は女性にしかないものです
直腸と膣(ちつ)を隔てている直腸膣中隔(ちょくちょうちつちゅうかく)が弱いと、直腸に便が送られてきたときに膣側に膨らんで瘤(こぶ)のようになります。


前述の排便造影検査を行うと便が直腸瘤に引っかかって出しにくくなっている状態がよくわかります。また、便の大部分が排出されても直腸瘤に便が残ってしまうため残便感を生じる場合があります。

記事2「便秘の原因」で示したさまざまな便排出障害の原因は、機能性便排出障害と器質性便排出障害の2つに分かれます
機能性便排出障害は骨盤底筋協調運動障害のように、形には異常がなく機能に問題があるものを指し、器質性便排出障害は直腸瘤のように形状に異常があるものを指します。
また患者さんの中には、本当は直腸内に便が残っていないのにまだ便があると思い込んでしまい、ないものを出そうとして苦しんでいる排便強迫神経症の方もいらっしゃいます。排便造影検査を行うと便が残っているかどうかがわかるので,これらを明確に区別することができます。この排便強迫神経症の患者さんは,「本来排出すべき糞便」が直腸にはありませんので,真の便秘症ではありません.また下剤等の便秘症に対する治療も無効で,潔癖症など他の強迫神経障害と同様に,カウンセリングなどの精神・心理療法の対象です.
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