便秘は生活習慣の改善で良くなると思われがちですが、専門医による診断・治療が必要な「本物の便秘」も存在します。味村俊樹先生にお話をうかがいました。
いろいろな学会などでそれぞれの定義が提唱されていますが、私自身は「本来体外に排出するべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」が便秘であると考えています
これは私が用語委員を務めている「ストーマ・排泄リハビリテーション用語集 第3版」(日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会、金原出版、2015年)にも採用されています。
現在、日本消化器病学会では「慢性便秘症診療ガイドライン」を作成していますが、そこでも私が便秘の定義を担当しており、まだ確定ではありませんがこの内容で作成を進めています。
便秘の有病者数は、便秘の定義と調査の方法、調査の対象グループによって大きく変わりますが、政府が行っている国民生活基礎調査の結果は以下のようになっています。これは本人が「便秘である」と思っている方の数ですので正確な統計ではありませんが、動向を見るにはある程度有効です。
さまざまな統計データでいずれも共通しているのは、女性の場合は生理がある年代を中心に、男性よりも明らかに便秘の方が多いということです。しかし50歳を過ぎる頃から男女ともその数が増加し始め、特に男性の増加率が高くなります。そして70〜80歳になると男女差がなくなっていきます。これは世界的にどの統計を見ても必ず現れる傾向です。また平成10年以降の推移をみると、日本でも便秘の方は徐々に増えてきていることがわかります。
便秘の分類について教科書をひもとくと、器質性・症候性・薬剤性・機能性という分類が並び、さらには機能性便秘の中に、痙攣(けいれん)性便秘・弛緩(しかん)性便秘があります。しかしこれらは国際的にはまったく通用しないばかりか、診断基準も明確ではありません。
これらの分類では診断方法があいまいなため、お腹の痛みを訴えていれば痙攣性、なければ弛緩性といった主観的・情緒的な症状による定義となっており、臨床上あまり役に立つとはいえません。また、国際的な学会などではspastic type constipation(痙攣性便秘)やflaccid type constipation(弛緩性便秘)といった言葉はまったく通用しません。
私は国際分類に基づいた新しい便秘の分類を提唱しています。日本消化器病学会の慢性便秘症診療ガイドラインでは私が便秘の分類も担当しており、この案を元に議論を進めていくことになるでしょう。この分類は一見複雑にも思えますが、考え方はシンプルで明確なものです。
患者さんが便秘で困っているとおっしゃる場合、その方が使っている「便秘」という言葉は「症状」ではなく「状態」を表しています。これに対して、たとえば「便失禁」は肛門から便がもれるという「症状」を意味しています。ですから便失禁といえばその原因はさまざまでも、どのような症状なのかはすぐにわかります。
ところが患者さんが便秘だといっても、どのような症状なのかはまったくわかりません。腹痛かもしれませんし、腹部膨満感なのかもしれません。あるいは排便時に便が出しづらいのかもしれません。便秘は具体的な症状の名前ではないからです。したがって、患者さんが言う「便秘」という言葉が何を意味しているかを分類するためには、次のどちらに当てはまるのかを区別する必要があります。
3日に1回でも週に1回でも、患者さんがそれで困っていなければ排便回数自体はあまり問題ではありません。ただ、通常は普通に食事をしていれば週1回の排便では腹痛,腹部膨満,硬便による排便困難などいろいろな問題が生じてくるはずで,これが排便回数減少型です。これに対して、毎日お通じがあっても便を出すときに排便困難や残便感などで困っているというのが排便困難型です。排便回数が減ったことによって困っているのか、それとも排便時に便が出しづらくて困っているのか、あるいはその両方なのかということを区別することによって、おのずと治療法も決まってきます。
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