概要
ベッカー型筋ジストロフィーは、筋肉を構成する重要なタンパク質であるジストロフィンが正常に作られないため、筋肉が徐々に減少し、筋力低下を引き起こす病気です。この病気は、X染色体上のジストロフィン遺伝子の異常が原因で発症します。発症年齢や症状の進行速度には個人差があり、20歳代で車いすが必要となる場合もあれば、生涯でほとんど筋力低下を認めない場合もあります。発症率は、人口10万人あたり約1.5人と報告されています。
現時点で根本的な治療法はなく、筋力を維持するためのリハビリテーションや症状の緩和を目的とした対症療法が行われます。
原因
ベッカー型筋ジストロフィーは、ジストロフィン遺伝子の異常によって引き起こされます。この遺伝子は、筋細胞を保護する役割を持つジストロフィンというタンパク質を作る指令を出します。異常があると、ジストロフィンが正常に作られなくなり、筋細胞が壊れやすくなります。
この病気はX染色体に関連する「潜性遺伝形式」で遺伝します。潜性遺伝とは、片方の親から受け継いだ遺伝子が正常であれば発症しない遺伝形式を指します。このため、X染色体を1つだけもつ男性が主に発症し、女性は一般的に保因者(症状を発現しない遺伝子の持ち主)となることが多くなります。
症状
ベッカー型筋ジストロフィーの主な症状は筋力低下です。発症時期や重症度には個人差がありますが、最初に腰や太ももの筋肉が影響を受けるため、立ち上がりや階段の上り下りが難しくなり気付かれます。しかし、症状の出現や進行がゆっくりであることから、病気と気付くまでに時間がかかる場合も少なくありません。
また、進行すると呼吸に関与する筋肉や心筋にも障害が及び、呼吸不全や心不全のリスクが高まる可能性があります。
検査・診断
ベッカー型筋ジストロフィーが疑われる場合には、以下の検査が行われます。
血液検査
筋肉の損傷を反映するCK(クレアチンキナーゼ)という酵素の値を測定します。ベッカー型筋ジストロフィーの患者ではCK値が通常よりも高く、数百から数千に達することがあります。
遺伝子検査
ジストロフィン遺伝子の異常を特定するために行われます。まずMLPA法でエクソン*単位の欠失や重複を確認し、それで異常が特定できない場合には、シークエンス法で微小な変異を探します。
筋生検
筋肉組織を採取して顕微鏡で観察し、ジストロフィンの減少を確認します。ただし、遺伝子検査が普及しているため、診断目的としてはあまり行われなくなっています。
筋電図検査
筋肉や神経の機能を評価し、筋力低下の原因がほかの病気によるものではないかを確認します。
*エクソン:遺伝子の中で遺伝情報が含まれている部分。
治療
ステロイド治療
ステロイド薬は筋力を維持する目的で使用される場合がありますが、投与開始の時期や適切な用量、長期的な有効性に関するエビデンスが十分に確立されていない点が課題です。そのため、患者の症状や病態に応じて慎重に検討されます。
リハビリテーション
リハビリテーションは筋力や機能を維持し、生活の質を向上させるために重要です。具体的には、以下のような取り組みが推奨されます。
筋力維持と関節の柔軟性の確保
軽度から中等度の運動を行い、関節のこわばりを予防します。ただし、過度の負荷を避けることが重要です。
呼吸機能のサポート
呼吸筋の筋力低下に対応するため、呼吸筋トレーニングや体位管理を行い、進行する呼吸不全を予防します。
日常生活に合わせた運動計画
患者の生活状況に合った運動プログラムを提供し、身体機能を最大限活用できるよう支援します。
心機能の管理
心筋症のリスクがある場合には、心臓リハビリテーションや薬物療法と組み合わせた適切な運動を行います。
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