概要
医学では一般に「人工妊娠中絶」といわれるものが、ここでの人工流産に当たります。「人工」は人の手を介して積極的に、「流産」は妊娠22週未満で妊娠が終わることを表します。日本では、母体保護法により、妊娠22週未満までしか中絶は認められていません。
人工妊娠中絶手術は母体保護法が適応される場合で、今回の妊娠を中断しなければならないときに行う手術です。人工妊娠中絶手術が受けられるのは妊娠22週未満(21週6日)までですが、1) 妊娠初期(12週未満)と、2) 妊娠12週〜22週未満とでは手術方法やその後の手続きが大きく異なります。
中絶手術はほとんどの場合、健康保険の適応にはなりません。妊娠12週以後の中絶手術の場合は手術料だけでなく入院費用もかかるため経済的な負担も大きくなります。したがって中絶を選択せざるをえない場合は、できるだけ早く決断したほうが、身体的にも経済的にも負担が少なくて済みます。
人工妊娠中絶手術を実施できるのは母体保護法により指定された『指定医師』のみですので、母体保護法指定医と標榜している医療機関でこの手術を受けることになります。海外では妊娠初期の中絶薬を発売している国もありますが、日本では現在認可されていません。大量出血などの報告もあり、厚生労働省より注意喚起が行われています。
合併症
1) 妊娠初期(12週未満)の場合
出血、感染、子宮穿孔、絨毛遺残、頸管損傷、癒着、麻酔に伴う合併症など
2%程度に子宮穿孔が認められるとの報告もあり、最も怖い合併症の一つです。ですので、我々産婦人科医は慎重に手術を行います。妊娠週数が早いほうが、子宮穿孔のリスクは低くなりますので、本手術を行う場合には早い週数で行うことが望まれます。また、絨毛の遺残に注意する必要があり、術後1週間頃に診察を行い、遺残がないかエコー検査で確認を行います。
本手術は、原則本人と配偶者の同意が必要となります。母体保護法で規定する「配偶者」は婚姻の届け出をしていないが、実質的に夫婦と同様の関係にあるものを含みます。しかしパートナーが不明の場合は、本人だけの同意でも対応してくれます。
2) 妊娠12 週〜22 週未満の場合
出血、感染、子宮穿孔、絨毛遺残、頸管損傷、癒着など
妊娠初期と比較して、子宮は大きく、子宮の壁は柔らかく薄くなっています。そのため、胎児が娩出後に遅滞なく胎盤が娩出されることが望ましいですが、胎盤が娩出しない場合には「子宮内容除去術」と似た操作が必要となります。その際には、初期よりもさらに子宮穿孔が認められるというリスクが増えます。また、絨毛の遺残に注意する必要がある点は手術と同様です。
治療
1) 妊娠初期(12週未満)の場合
中絶の方法は手術になります。「子宮内容除去術」といい、a)掻爬法(そうは法、内容をかきだす方法)またはb)吸引法(器械で吸い出す方法)が行われます。子宮口をあらかじめ拡張した上で、ほとんどの場合は静脈麻酔をして、器械的に子宮の内容物を除去する方法です。
※妊娠13週台くらいまで子宮内容除去術が行われることがあります。
a)頸管拡張
ラミナリアやダイラパンと言われる時間をかけてゆっくりと子宮の出口(頸管)を広げる方法と、術中にへガールといわれる金属の棒を用いて広げる方法があります。病院によって方法が異なります。
b)子宮内容除去術
前述した掻爬法と吸引法の2つがありますが、日本の多くの施設では掻爬法が用いられています。掻爬法では、スプーン状の金属を用いて子宮内容を摘出します。通常は10〜15分程度の手術で済み、痛みや出血も少ないので、体調などに問題がなければその日のうちに帰宅できます。
2) 妊娠12 週〜22 週未満の場合
中絶の方法は「分娩」になります。あらかじめ子宮口を開く処置を行なった後、子宮収縮剤で人工的に陣痛を起こし流産させる方法をとります。個人差はありますが、体に負担がかかるため通常は数日間の入院が必要になります。妊娠12週以後の中絶手術を受けた場合は役所に死産届を提出し、胎児の埋葬許可証をもらう必要があります。
a)頸管拡張
ラミナリアやダイラパンといわれる時間をかけてゆっくりと子宮の出口(頸管)を広げていきます。施設、年齢、妊娠週数、経産によっては、2日寛頸管拡張します。
※施設によっては、この後「メトロインテル」を使用することがあります。
b)PG腟錠
十分に頸管を拡張した後、PG腟坐剤を3時間ごとに使用して行きます。1日の最大は5錠です。多くの場合、PG腟錠の使用によって流産に至りますが、難症例ではオキシトシンやゲメプロストの投与など、適切と考えられるものが選択されて来ました。
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