ぶんべんまひ

分娩麻痺

監修:

概要

分娩麻痺とは、赤ちゃんが母親のお腹の中から生まれてくる際、その通過途中で赤ちゃんの神経が傷つき、麻痺が生じることをいいます。

一般的には腕へ向かう神経の束(腕神経叢(わんしんけいそう))が傷つくことで生じる腕神経叢麻痺のことを指しますが、このほか顔面神経や横隔神経、脊髄(せきずい)が傷つくことによっても麻痺が生じることがあります。

麻痺の程度は赤ちゃんによってさまざまですが、多くは1週間以内に自然回復します。しかし、ごくまれに障害が残る方もいます。

原因

主な原因は肩甲難産(けんこうなんざん)*時の牽引によるものです。特に4,000g以上で生まれてくる巨大児は胎児の肩などが産道に引っかかりやすく、その場合、赤ちゃんの頭部を強く牽引せずに肩を出す必要があります。この手技は難易度が高く、緊急対応が求められることが多くあります。

また、出産の際は子宮が収縮することにより胎児が産道へと押し出されますが、その力が不十分な場合や、赤ちゃんの心音に異常がある場合などには吸引器具や分娩鉗子(かんし)を使用した牽引が行われます。このときに、牽引力を補助するために子宮底圧迫法という方法で、母親の腹部から圧をかけることがあります。そのため、通常より急速に赤ちゃんが下降することや赤ちゃん自身に強い圧が加わることで神経が傷つき、分娩麻痺の原因となることがあります。

巨大児のほか、骨盤位分娩、いわゆる逆子の状態からの分娩や、回旋異常などで牽引が必要な場合にも生じるリスクがあります。

*肩甲難産:赤ちゃんの頭が出てきた後、肩が産道にひっかかり通常の軽い力では牽引できない状態。

症状

分娩麻痺は、神経の全体、あるいは一部が傷つくことによって症状が現れます。軽症の場合は軽いしびれが生じ、肩を持ち上げたり肘を曲げたりすることが難しくなりますが、ほとんどが1週間以内に自然回復するといわれています。しかし、重症の場合には麻痺が持続し、生涯にわたって腕の運動機能に障害が残ることもあります。

検査・診断

出生時の腕の動きを観察するほか、分娩麻痺が疑われる場合は継続して症状を観察します。さらにX線検査で骨折などのほかの原因がみつからない場合に診断されることが一般的です。

治療

分娩麻痺の治療方法には、“非手術療法”と“手術療法”があり、必要に応じて選択されますが、どちらも必要になる場合もあります。具体的な治療方法は以下の通りです。

非手術療法

出生直後の治療

生後数週間は腕を安静にし、自然に回復するのを待ちます。生後3週間が経過したら関節が固まらないように腕を動かす訓練を行い、時間の経過とともに腕を動かす力や知覚する力が回復してきたら積極的に活用するよう、医療従事者が一人ひとりの赤ちゃんに合った訓練方法を提案します。この段階でかなり回復している場合は、いったん治療を終了することもあります。

生後1か月が経過してもまったく腕を動かせない場合は手術が行われます。ただし、肩や肘の動きは悪いが手指は動いている、という場合には、回復を期待して経過観察となることもあります。

幼児期のリハビリテーション

手術を受けたかどうかにかかわらず、幼児期は運動機能を維持するためのリハビリテーションを継続的に行います。

中には途中で関節が固くなってくることもあるため、その場合はより積極的なリハビリテーションを検討し、必要に応じて手術を検討します。

手術療法

神経手術

生後1か月ほど様子を見て回復が困難と判断された場合、生後3か月頃に手術が行われます。ただし、手指は動いていて肩や肘の動きだけが悪い場合は、もう少し様子を見て生後6か月ごろに手術を行うのが一般的です。

手術は、損傷した神経の再建が可能と考えられる場合には神経移植術が、再建が難しいと考えられる場合には肋間(ろっかん)神経や副神経の移行術が検討されます。ただし、手術を受けても術後の回復は遅いことが一般的で、完全には回復しないこともあります。

二次再建手術

神経手術を行っても回復が不十分だった場合や、障害が残ってしまった場合などには、肩や腕がより動かしやすくなるよう二次再建手術を検討します。二次再建手術では、同じ筋力で腕がよりスムーズに動くよう、筋肉や腱を移動させることが一般的です。

最終更新日:
2025年01月21日
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2025/01/21
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

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