インタビュー

副咽頭間隙腫瘍の手術

副咽頭間隙腫瘍の手術
三浦 弘規 先生

国際医療福祉大学 教授

三浦 弘規 先生

この記事の最終更新は2015年12月13日です。

前の記事「副咽頭間隙腫瘍とは-頭の中心にあたる顔の奥の重要な部位にできる腫瘍」で、副咽頭間隙腫瘍についてご紹介しました。多数の神経と血管が走行している部位に対する手術ですので、出血や術後の合併症には細心の注意が必要になります。今回は、副咽頭間隙腫瘍の治療や術後の合併症などについて、国際福祉医療大学三田病院頭頸部腫瘍センター長の三浦弘規(みうら こうき)先生にお話をうかがいました。

副咽頭間隙腫瘍の標準的治療は手術による腫瘍の摘出になります。手術法は切開する部位によって分けられ、主に次のとおりです。

  • 経頸部法
  • 経頸部耳下腺法
  • 経頸部咽頭法
副咽頭間隙腫瘍の手術

近年は患者さんの負担を考慮し、できる限り切開の範囲を小さくした手術(経頸部法)が広く行われ、ほとんどの腫瘍は摘出が可能です。ただし頭蓋内へ腫瘍が浸潤している場合や、悪性腫瘍が疑われる場合には切開の範囲を広げて対応(経頸部耳下腺法、経頸部咽頭法)します。

副咽頭間隙腫瘍の術後に注意することとして、以下が挙げられます。

  • 出血
  • 神経麻痺
  • 悪性腫瘍の確認
  • ファーストバイト症候群    

ファーストバイト症候群とは、1日のはじめに食事を取る際(唾液が出る時)、まさに最初のひと噛みに耳下部に痛みが走る症状のことです。手術から数か月経過したのちに起きてくるケースもあります。原因は明らかにされていないため、完全に予防すること、治すことはまだできません。

前項で、茎状突起(けいじょうとっき)の前区・後区により発生する腫瘍に傾向があることをお伝えしました。茎状突起後区に多く発生する神経鞘腫の摘出手術では、発生部位が神経であることから、神経麻痺の合併症が起こる可能性が格段に高くなります。

  • 副神経:損傷により手の挙上が制限されます。
  • 迷走神経:損傷により声嗄れ・むせやすくなる・立ちくらみなどが起きてきます。
  • 交感神経:ホルネル症候群(瞳孔が小さくなる・眼球がくぼむ・まぶたが落ちる・汗をかきにくくなる)があらわれます。
  • 舌下神経:下の動きがコントロールできず、飲み込みにくくなります。

大きい腫瘍を摘出した場合は、複数の神経に触れるため複数の神経麻痺がでる可能性が高まるため細心の注意を払います。複数の麻痺があらわれると、食事が肺に入ってしまう誤嚥が生じ嚥下のリハビリが必要になり入院期間が延びることとなります。およそ一カ月の入院期間となる場合が多いようです。退院後は、摘出した腫瘍が良性か悪性であるかの診断結果をお伝えし、診断に合わせてその後の経過観察、あるいは追加治療を行います。

小唾液腺とは、唾液腺のなかの大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)以外のものを指し、口腔内を中心として上咽頭や鼻腔内などさまざまな場所に500〜1000程度存在する数ミリの小さな唾液腺です。

唾液腺腫瘍が悪性腫瘍である割合は次のとおりです。

  • 耳下腺腫瘍:約20%
  • 顎下腺腫瘍:約40%
  • 小唾液腺腫瘍:約50%
  • 舌下腺腫瘍:約80%

小唾液腺は、耳下腺や顎下腺と異なり皮膜につつまれていないため、悪性腫瘍の場合には周りの組織に浸潤しやすく、予後が悪いケースが多くみられます。前項でも述べたように悪性腫瘍の場合、一般的には放射線治療や化学療法が効かないといわれているため、唾液腺腫瘍の標準的治療は腫瘍の全摘出となります。しかし、唾液腺は前立腺がん乳がんのように「腺」由来の腫瘍です。そこで唾液腺腫瘍に乳がんや前立腺がんの治療のひとつとして確立されたホルモン療法を行うという臨床試験が現在進められ、効果が期待されています。唾液腺腫瘍はまれな疾患ですが、悪性であった場合に対しても新たな治療法の研究が進み標準治療として確立が期待される分野といえます。

  • 国際医療福祉大学 教授

    日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 耳鼻咽喉科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本頭頸部外科学会 頭頸部がん専門医

    三浦 弘規 先生

    臨床を中心に基礎研究も含めた頭頸部がん全般に携わる。院内各科は言うに及ばず、診療所あるいは病院間の縦割りの垣根を取り払い、広く横の連携を密としたチーム医療に取り組むことで、多岐にわたる治療法の選択肢を最大限に提示・実践を目指している。臨床試験も積極的に取り入れながら患者さんやご家族に納得いただける治療の提案をモットーとしている。また学会・論文等で情報発信することで頭頸部領域に貢献している。

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