
大脳皮質基底核変性症(Corticobasal Degeneration:CBD)は、体の動きだけでなく、コミュニケーションにも大きな影響を及ぼす病気です。この記事では、大脳皮質基底核変性症の患者さんに生じる症状のうち、コミュニケーションに関係する症状の特徴や対応方法、日常生活における配慮が必要な点について解説します。
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大脳皮質基底核変性症は、脳の複数の領域が関係する病気であり、さまざまな症状が現れます。パーキンソン病に似た運動症状のほか、コミュニケーションや性格に影響を及ぼす症状がみられることもあります。
大脳皮質基底核変性症は、大脳皮質と大脳基底核という、脳の複数の領域に存在する神経細胞がゆっくりと変性していく病気です。詳細な機序は明らかになっていませんが、神経細胞やグリア細胞*に異常なタンパク質(異常リン酸化タウ)が蓄積することが原因と考えられています。主に左右どちらかの手足の筋肉が硬くなり(筋強剛)、動きがスムーズに行えなくなるなどの運動症状から始まるといわれていますが、そのほかにもさまざまな症状が現れます。中高年に多くみられ、男女差はありません。2026年現在、根本的な治療法の確立はされておらず、日本の指定難病の1つとなっています。
*グリア細胞:神経細胞を支持し栄養を送ったり、神経伝達物質を取り込んだりするなど、さまざまなはたらきを持つ細胞。神経膠細胞とも呼ばれる。
大脳皮質は部位によって機能が異なりますが、主に感覚や思考、言語、運動、記憶などを司り、大脳基底核は主に運動のスムーズな実行や姿勢の制御を司ります。そのため、大脳皮質基底核変性症では運動症状だけでなく、以下のようなコミュニケーションや性格に関する症状も出現します。
大脳皮質基底核変性症では、筋強剛や震え(振戦)、姿勢保持障害や転倒など、パーキンソン病と同様の症状が現れます。しかし、大脳皮質基底核変性症はパーキンソン病とは異なり、症状に“左右差”があることが特徴の1つです。初期段階では、身体の片側に強く症状が現れることが多く、振戦もパーキンソン病のような規則的なゆっくりとした動きではなく、不規則で早い動きがみられます。また、パーキンソン病の治療薬は大脳皮質基底核変性症には効果が乏しいことが多く、MRI検査による所見にも違いがあります。
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大脳皮質基底核変性症の患者さんが、何かを言おうとして口をもごもごさせたり、言葉に詰まったりする様子をみせることがあります。そこには失語や発語失行などの症状が関わっています。
失語は、いったん獲得された言語に関する能力(話す、聞く、読む、書く)が、大脳の病気や外傷によって後天的に低下した状態です。大脳皮質基底核変性症では特に、言葉がスムーズに出てこない“非流暢性失語”が多いといわれています。話そうとすると発音が上手くできず流暢に話せなかったり、複雑な文章を組み立てることが困難になったりします。また、単語自体の理解はできるものの、文法や文章を理解することが難しい場合もあります。
発語失行とは、話したい音を出すための口や舌の動作が脳内でうまく組み立てられない状態を指します。大脳皮質基底核変性症では、正しい音を出そうとして模索する様子(探索)や、日本語として表記が不可能な発音の歪みがみられることがあります。
失語や発語失行など、言語に関するリハビリテーションは主に言語聴覚士が行っています。失語症の検査を用いて患者さんの状態を確認した後、発声練習や文章を組み立てる練習、正しい音を出す練習などが患者さんの状態に応じて行われます。
話しかけるときは簡潔に伝え、患者さんの返事を焦らずに待ちます。「はい/いいえ」で答えられる質問や、絵などを見せて指差しで回答する方法もコミュニケーションの1つです。言語聴覚士に相談しながら、患者さん個人に適したコミュニケーションの方法を考えていきましょう。
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筋強剛や無動、姿勢保持障害が、発声に必要な呼吸や筋肉の動きにも影響を与えます。
筋強剛とは筋肉が持続的にこわばる状態、無動とは動作の開始が困難になる状態を指します。また、姿勢保持障害は姿勢が悪くなり、転倒しやすくなる状態です。これらの症状は手足だけでなく、発話や発声にも影響を与えます。
胸郭(胸のまわり)の筋肉が硬くなると、深い呼吸ができなくなります。発声の源である息を吐く力(呼気力)が不足するため、声が小さくなる、あるいは一息で話せる長さが短くなるといった症状が現れます。
問いかけに対して答えようとしても、第一声を出すための筋肉の動きが始まらないため、反応が遅れているように見えることがあります。また、声の大きさや話す速さの調整が難しくなることもあります。
筋強剛や無動、姿勢保持障害など運動症状に対するリハビリテーションは、主に理学療法士が行います。運動症状によって体が硬くなり、柔軟性が低下することを防止するため、筋力トレーニングやストレッチ、体の各関節を動かす運動(関節可動域訓練)、バランス練習などを組み合わせたリハビリテーションが行われます。
また、呼吸や発話に対するリハビリテーションは、主に言語聴覚士が行います。呼吸機能に関しては、筋肉の緊張が高い方はストレッチを行い、胸郭の可動域を改善させる訓練や可能な限り息を長く吐く練習(呼気持続訓練)などが実施されます。発話に関しては、大声を出す練習や話す速さを一定にする練習が行われます。
患者さんは何も言わないのではなく、“言えない”可能性があるので、ゆっくり待ちます。声が聞き取りにくい場合は、静かな環境で会話しましょう。患者さんの表情や文脈などからも、話の内容を理解するように努めます。
運動症状がコミュニケーションに影響を与えている場合も、リハビリテーションスタッフなどに相談しながら、患者さん個人に適したコミュニケーションの方法を考えていきましょう。
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大脳皮質基底核変性症の患者さんでは、日常生活を送るうえでご家族など周囲の方による症状の理解や配慮が必要となる可能性があります。
使い慣れた道具(箸やハサミなど)や電化製品の使い方が分からなくなったり、使う動作がぎこちなくなったりします。ご家族など周囲の方は症状を理解し、落ち着いて行うよう声かけをして見守りましょう。道具を置く場所の固定や、使う道具の数を最小限にするなどの環境調整が有効な場合もあります。動作の練習方法やご自宅の環境調整については、作業療法士に相談してみてください。
半側空間無視とは、左右どちらか片方の空間を認識することが難しい状態です。主に左側の認識が難しくなります。具体的には患者さんの近く(左側)に立っていたら無視された、右側に置いてある食べ物しか食べないなどの症状が生じますが、患者さん本人は症状に気付いていないことが少なくありません。そのため、ご家族の方は右側に立つ、食事中に左側の物も食べるように声かけをするなどの配慮が必要です。
大脳皮質基底核変性症の患者さんは、一般的に転倒しやすくなるといわれています。特に、浴室やトイレではバランスを崩しやすいため、手すりの設置や段差の解消などあらかじめの対策や、付き添い、声かけなどを行いましょう。手に触れた物を反射的に掴む“把握反射”という症状が現れている場合は、目の前の物を掴もうとして転倒することがあるため、周囲の物を片付けておくと転倒を予防できる可能性があります。
また、転倒が頻繁な場合は、保護帽や家具の角のクッションなどでけがを防止する対策や、転倒予防のために車椅子・歩行器が必要となる場合もあります。
そのほか、筋力やバランス能力の維持のため、リハビリテーションも重要です。理学療法士が患者さんの体の状態に応じて、筋力トレーニングや、ストレッチ、歩行練習、バランスをとる練習など適切なリハビリテーションを行います。ご自宅での手すりや歩行器などの使い方についても相談が可能です。
摂食嚥下障害とは、食べ物・飲み物の咀嚼や飲み込みが難しい状態です。患者さんの状態によって、食べ物の形態(刻み食やペーストなど)や姿勢、食べ方などを工夫する必要があります。食べこぼしがある場合は、エプロンやおしぼりなどを準備しておきましょう。誤嚥(むせること)については、食べることに集中できる環境を作ることで軽減する可能性があります。ご家族が一緒に食べることも患者さんの食べようとする意欲につながります。
また、嚥下体操や口腔ケアなどの日々のリハビリテーションも重要です。食べ物の形態や姿勢なども含め、言語聴覚士からアドバイスを受けることができます。
大脳皮質基底核変性症の患者さんは今まで日常的に行っていた作業ができなくなる場合や、言葉が出なくなる場合などがあるため、気持ちが不安定になりやすいといわれています。ご家族の方は患者さんの気持ちに寄り添い、見守ることが大切です。
なお、ご家族の方の手助けや世話が多い場合は、かえって患者さんの症状が進行する可能性があります。患者さんができることは、可能な限り患者さん本人が行うように促しましょう。
A. 言葉を出す(表出)ことは難しくても、相手の話を理解する力は比較的長く保たれる傾向があります。具体的な理解の程度については、言語聴覚士に確認しましょう。
A. 2026年現在、大脳皮質基底核変性症は一般的に遺伝性がないと考えられています。大脳皮質基底核変性症に関する研究は進められていますが、どのような方が発症しやすいのかということは明らかになっていません。
大脳皮質基底核変性症ではさまざまな症状が現れるため、コミュニケーションをとることが難しくなる場合もあります。しかし、その原因や詳しい症状を理解することは、適切なコミュニケーションをとるための手掛かりになり得ます。リハビリスタッフなどに相談しながら、患者さんに適したコミュニケーションの方法を探していきましょう。
岐阜大学大学院 医学系研究科 脳神経内科学分野 教授
日本神経学会 神経内科専門医・指導医・理事・総務幹事・専門医認定委員会 委員長・将来構想委員会副 委員長日本内科学会 総合内科専門医・指導医日本認知症学会 認知症専門医・指導医・代議員・倫理委員会 委員日本頭痛学会 認定頭痛専門医・指導医・代議員・ガイドライン委員会 委員日本睡眠学会 総合専門医日本臨床倫理学会 臨床倫理認定士日本神経治療学会 理事・編集委員会 委員長・ガイドライン統括委員会 副委員長日本脳循環代謝学会 理事・将来構想委員会 委員長日本脳卒中学会 理事日本脳血管・認知症学会 理事日本神経摂食嚥下・栄養学会 副代表理事日本難病医療ネットワーク学会 理事・教育委員会 委員長日本神経感染症学会 評議員日本医学会連合 COVID-19 expert opinion working group 委員
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