治療
ほとんどの点で若年者のうつ病の治療法と同様ですが、自殺のリスクは年齢とともに増加する傾向にあるため、自殺リスクの評価が重要です。薬物療法については、加齢に伴う生理的な薬物動態の変化の結果、向精神薬の副作用が生じやすく、また慢性的な身体疾患の罹患が多くなれば併用薬剤数が必然的に多くなる傾向にあります。そのため、他の薬剤との相互作用を考慮する必要があります。
このような背景から、本邦では2015年に、高齢者の安全な薬物療法ガイドラインが策定されました。これは、高齢者において有害作用が出やすく、効果に比べて安全性が劣る薬剤を特に慎重な投与を要する薬物のリストとして公開したものです。例を挙げると、三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系を含む睡眠薬は認知機能低下やせん妄、転倒・骨折のリスクにより、高齢者への投与は推奨されないとされています。
薬剤投与のみで寛解に至らない場合には、他の選択肢も考慮します。特に、軽度から中等度のうつ病高齢者に対しては、対人関係療法や認知行動療法といった精神療法が有効なこともあります。
高齢者における抑うつ症状は、生物学的要因よりも、上述のような社会・心理的な要因に起因する部分が多いです。また、高齢者のうつ病は慢性化することも知られており、抗うつ薬を使用しても寛解に至らない場合は精神療法をはじめ代替療法への移行もしくは併用が望ましいと考えられます。高齢者のうつ病に代表される精神症状に対する治療は、薬物療法の前提として、病気の十分な理解と社会・心理的背景および身体疾患の既往などを包括的に考慮する必要があります。
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