概要
肩石灰沈着性腱炎とは、肩腱板にリン酸カルシウム結晶(石灰)が沈着することで、肩の痛みや運動制限が起こる病気です。
腱板とは、一般にインナーマッスルといわれる組織です。肩腱板は、肩関節の周囲にある棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の複合体のことで、不安定な肩関節を安定させる役割を持ちます。また、肩関節を挙げる挙上運動や、内向き・外向きに回す旋回運動も、肩腱板の働きにより可能になっています。
肩石灰沈着性腱炎は、40~50歳代の女性に多くみられるといわれています。特徴的な症状は、夜間に突然始まる強い痛みです。そのため、眠りを妨げられる例もあります。
症状や好発年齢がよく似た病気に五十肩(肩関節周囲炎)があります。しかし、五十肩は関節包やその下にある滑液包に炎症が起こる病気であり、肩石灰沈着性腱炎のように、肩腱板内の石灰沈着はみられません。
原因
肩腱板に付着したミルク状のリン酸カルシウム結晶(石灰)は、時間と共に固まって硬くなります。この石灰が溜まって体積を増していくことで、痛みなどの症状も悪化していきます。
このようなメカニズムにより起こる病気であるため、肩石灰沈着性腱炎は石灰沈着性腱板炎とも呼ばれます。しかし、なぜ石灰が沈着するのかは、現時点ではわかっていません。(2018年時点)肩腱板の内部に溜まった石灰が、肩関節の動きを滑らかにする袋状の滑液包内に破れ出ると、痛みは非常に激しくなります。
症状
肩石灰沈着性腱炎の症状は、夜間、突然の激痛ではじまることが多いという特徴があります。
主な症状
- 痛みで眠れない
- 肩関節を動かすことができない など
また、肩石灰沈着性腱炎は、症状の強弱や症状がある期間により、3つのタイプにわけられます。
(1)急性型:1~4週間、激痛などの強い症状がある
(2)亜急性型:1~6か月にわたり、中等度の症状が続く
(3)慢性型:半年以上、運動したときの痛みなどが持続する
検査・診断
患部を押したときの痛み(圧痛)の有無や、肩関節の動きを確認します。
また、X線(レントゲン)検査により、腱板部分に石灰が沈着しているかどうかを確認します。これにより、石灰の沈着は生じない五十肩との見極めを行うこともできます。
CT検査や超音波検査などを行い、沈着した石灰の位置やサイズなどを詳しく調べたり、MRI検査を行い、肩腱板断裂を併発していないか確認したりすることもあります。
治療
保存療法
肩石灰沈着性腱炎の症状は、手術を行わない保存療法により軽快することがほとんどです。
非常に激しい痛みが現れている発症後まもない症例に対しては、痛みの除去を目的とし、腱板に注射針を刺して沈着した石灰を吸引する方法がとられることがあります。
このほか、以下のような保存療法が行われることがあります。
- 安静:三角巾などの固定器具を用いて患部を固定し、安静にします。
- 投薬:非ステロイド性消炎鎮痛剤(内服薬)が処方されることがあります 。
- 滑液包内注射:水溶性副腎皮質ホルモンと局所麻酔薬を滑液包内に注射します。
手術
亜急性型や慢性型の肩石灰沈着性腱炎では、沈着した石灰が非常に硬くなり、治療後に激しい痛みが再び現れることもあります。また、肩関節を動かしたときなどに、硬く大きな石灰が周囲の組織と接触してしまい、痛みや炎症が消失することなく持続する例もあります。
このような場合には、石灰沈着を摘出する手術を検討します。手術は、可能な限り出血や傷あとが小さくなるよう、関節鏡と呼ばれる内視鏡を用いて行われることが多くなっています。
リハビリテーション
激しい痛みなどの症状が軽快したあとには、以下のようなリハビリテーションを行います。
- 温熱療法:ホットパックや入浴などにより患部を温める
- 運動療法:拘縮(関節周囲の筋肉などが収縮し、関節の動きが制限されること)を防ぎ、筋肉を強化する目的で行う
など
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