概要
脂腺母斑とは、顔面や頭部に生じる黄色調ないし蒼白色調の母斑(あざ)です。多くは生まれつきのもので、新生児の0.12~0.3%にみられるといわれています。
頭部に生じた場合にはその部分に脱毛をきたすほか、放置すると次第に大きくなり、腫瘍を形成することがあります。腫瘍を形成するケースは脂腺母斑全体のうち約20%で、発症する年齢の平均は30~35歳といわれていますが、まれに10歳以下の小児でも腫瘍が発生する場合があります。
腫瘍は基底細胞がんなど悪性度の高いものを発症し得るといわれてきましたが、近年では、脂腺母斑によって生じる腫瘍は良性である可能性も示されています。とはいえ、悪性腫瘍発症のリスクがないとは言い切れず、症状や経過によっては、思春期前までに手術を検討したほうがよい場合もあります。また、整容面で気になる場合も手術の検討が可能です。
原因
脂腺母斑は、生まれつき発症することのあるあざの一種で、細胞増殖を促す遺伝子の変異によって生じるといわれています。細胞増殖を促すこの遺伝子はRAS遺伝子と呼ばれ、脂腺母斑の患者の病変部ではこのRAS遺伝子の変異が認められることが分かっています。このような遺伝子変異によって皮膚表面を覆う表皮や毛包、汗腺などの細胞が異常に増殖することで、脂腺母斑の発症につながります。
症状
顔面や頭部の皮膚に黄色調や蒼白色調の母斑(あざ)を生じます。母斑は直径1~10cm程度、形状は類円形や線状です。頭部に生じた場合には病変部に毛が生えず、円形脱毛症のような脱毛斑となります。母斑は、成長とともに病変部の皮膚が盛り上がったり凹凸を生じたりするようになり、色調も濃くなっていくのが特徴です。また、思春期以降には脱毛斑にさまざまな皮膚腫瘍を併発することがあり、発症し得る腫瘍としては基底細胞がん・汗器官系腫瘍・脂腺系腫瘍・毛包系腫瘍・有棘細胞がんが主に挙げられます。
また、顔の真ん中に母斑を認めるほか、けいれんや精神発達遅滞がみられる場合は“線状脂腺母斑症候群”が疑われます。線状脂腺母斑症候群はごくまれな病態ですが、母斑・けいれん・精神発達遅滞のほかにも、心血管系や目、骨格系、泌尿器系の異常を認めることがあります。
検査・診断
出生児から顔面や頭部に黄色調や蒼白色調の母斑(あざ)や脱毛斑がある場合には、脂腺母斑が疑われます。基本的に診断は皮膚病変の見た目をもとに判断されますが、より正確な診断を行う場合には、病変部の皮膚を一部採取して顕微鏡で詳しく調べる“皮膚生検”が行われます。
治療
脂腺母斑の治療では、整容面の改善や腫瘍の発生の予防を目的として外科的手術が検討されます。
母斑の大きさなどによっては、全身麻酔をして手術が行われます。切除後には皮膚を縫い合わせますが、病変部が広範囲で切除した部位を縫い合わせることが不可能な場合には、皮膚の移植が必要です。
いずれの場合にも、術後は瘢痕(傷あと)が残るため、目立つ部位の手術を行う際はできるだけあとが残らない方法が検討されます。
頭部の場合には、脱毛部位を最小限にとどめるため、シリコン製のバッグを用いて皮膚組織を伸展させる“ティッシュー・エキスパンダー”という器具を用いることがあります。母斑のある部分の皮膚を引き伸ばすことで、広範囲に及ぶ病変であっても正常な皮膚を多く残した状態で手術ができる可能性が高まります。
予防
脂腺母斑の多くは生まれつき発症するため確実な予防法はありません。しかし、外科的手術により母斑を完全に切除することで続発性の腫瘍の発生予防につながります。脂腺母斑と診断されている場合には、一度医療機関へ相談するとよいでしょう。
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