年を重ねるにつれて骨密度は低下する傾向にあり、骨がもろくなると脊椎圧迫骨折のリスクも高まります。脊椎圧迫骨折は、本人が気付かないうちに起こっていることもあるため、何かをきっかけに生じた腰などの痛みには注意が必要です。今回は、あいちせぼね病院 院長である伊藤 全哉先生に脊椎圧迫骨折の概要や受診の目安などに加え、低侵襲(体への負担が少ない)治療に注力する同院の治療についてもお話を伺いました。
脊椎圧迫骨折とは背骨に垂直方向の力が加わることで、背骨の椎体と呼ばれる部分が扁平に潰れるように折れてしまう骨折です。特に60~70歳代の年を重ねた女性に多いとされます。
脊椎圧迫骨折は、背骨のうち背中と腰のつなぎ目、胸椎と腰椎の移行部に生じやすい骨折です。椎体の前側が潰れてしまうことが多いとされています。椎体の後方には脊柱管と呼ばれる脊髄(太い神経の束)の通り道があり、全身に張り巡らされた末梢神経へと分岐していきます。そのため、後方部まで骨折が及ぶと強い痛みや足のしびれ、排尿への影響が出ることもあります。骨折が不完全に治癒した場合などにも、背骨の変形によって麻痺が生じる可能性があるので、注意が必要です。
脊椎圧迫骨折は、骨粗鬆症を予防し骨を強くしておけばリスクを下げることが可能な病気です。骨密度は50歳ころから低下するといわれていますので、当てはまる方は一度骨密度検査を受けてみるのがよいでしょう。
そのほか、骨を強くする生活習慣も重要です。カルシウムやビタミン類(特にビタミンDとビタミンK)、たんぱく質を多く含む食品をそれぞれバランスよく取れるようにしましょう。また、適度な日光を浴び、無理のない範囲で運動することも骨の健康には大切です。
骨粗鬆症を患っている方は、骨がもろくなっていることで簡単な力でも骨折が起こりやすくなります。たとえば、尻もちをついたときなど外力が加わったときだけでなく、車の振動や重いものを持ち上げたときなど、健康な方であれば骨折しないような日常生活の中でも骨折が起こることがあります。本人が気付かないうちに骨折しているケースもあることから、「いつの間にか骨折」と呼ばれることもあります。
痛みには個人差がありますが、発症直後は通常、背中や腰に強い痛みを伴います。特に、寝返りや寝起きなど、動きはじめに強い痛みが生じる場合には脊椎圧迫骨折が生じている可能性があります。急性期を過ぎると骨折した場所が固まってくるため、次第に痛みが治まってきます。骨が潰れていることから、背中が丸くなる「後弯変形」が起こり、バランス能力が低下し転倒しやすくなります。
何かの動作をきっかけに生じた強い痛みや、痛み止めが効かないような背部の痛みなどがある場合には骨折が生じていることもありますので、一度整形外科を受診し、検査を受けましょう。
まずは問診で先述したような症状がみられるかどうかを確認します。症状から脊椎圧迫骨折が疑われる場合には、腰背部の骨折部位を軽く叩き、痛みが生じるかどうかを確認します。このとき、叩打痛がある場合は、脊椎圧迫骨折を強く疑い、画像検査(X線やCT検査など)を実施します。
脊椎圧迫骨折の治療では、保存療法(手術以外の治療)と手術の2つの選択肢があります。
手術ができない場合などは、腰から胸までをカバーするギプスや硬いコルセットを装着し、骨折部分が治癒するのを待ちます。おおよそ2〜3か月安静にすることで、骨の癒合(くっつくこと)が得られますが、その間は体の動きが制限された状態が続くため、筋力の低下など別の問題が起こり得る点には注意が必要です。
手術を行う場合は、一般的に経皮的椎体形成術(BKP)という術式で治療が行われます。BKPは背中に2か所の小さな穴を開け、圧迫骨折によって潰れてしまった骨の中でバルーン(風船)を膨らませます。骨の形を元に戻した後、バルーンを抜いてできた空洞に骨セメントを注入することで背骨を安定させ、痛みを和らげる治療法です。
脊椎圧迫骨折の発症直後はX線検査では骨折を見つけることが難しく、MRIやCTなどのより精密な検査が必要となります。当院では院内に4台のMRIと2台のCTを導入しており(2025年5月時点)、精度の高い診断がかなえられるよう努めています。骨折の状態によっては早期に治療が必要な場合もありますので、腰痛にお困りの方は「年のせい……」と放っておかず、一度検査を受けていただきたいと思います。
当院においては、先述した経皮的椎体形成術(BKP)に対応しており、また手術後には骨粗鬆症への治療も行うことで、再び脊椎圧迫骨折が起こらないよう予防にも取り組んでいます。脊椎圧迫骨折は骨の強度が弱くなって起こるものですので、骨折部分を手術で治療しても骨が弱いままだと、今度は治療をした上下の骨に骨折が生じてしまうケースがあります。そのようなことが起こらないよう、当院では骨の健康を長期的にサポートしています。骨粗鬆症の治療薬には、飲み薬と注射薬がありますので、通院可能な頻度に合わせて処方しています。
Vessel-plasty(椎体増幅形成術)という新しい治療にも取り組んでいます。 Vessel-plastyは背中から針を刺し、メッシュ袋を挿入してその中に骨セメントを注入する方法です。自由診療*になりますが、局所麻酔で行うことが可能で、処置は30分程度で完了します。また、基本的に翌日の退院が可能です。BKPではセメントが背骨から漏れ出してしまうリスクがありましたが、Vessel-plastyではメッシュ袋を用いることによりそのリスクを軽減できます。手術後は、1か月後と3か月後に受診いただき、経過観察を行います。
* Vessel-plasty(椎体増幅形成術):費用は患部1か所の治療の場合90万円(税抜)。治療当日の診察料や施術料、入院費用、ほか材料費、術後診察費用(3か月目まで)が含まれます。手術回数は1回に限定します。基本的な入院期間:1泊2日。保険診療の術式と異なり、有効性・安全性が認められた治療ではありません。リスク:術部への菌付着による感染、神経損傷、術後血腫(術後の出血が神経を圧迫する)、血栓症など。
繰り返しになりますが、骨粗鬆症に起因する脊椎圧迫骨折は予防ができる病気です。まずは健康的な生活を心がけていただき、50歳を超えたら定期的に骨密度検査を受けていただきたいと思います。当院では、脊椎ドック*も実施していますので、ご自身の健康状態をチェックされたい方はお気軽にお問い合わせください。
*脊椎ドック:自由診療となります。頚椎(けいつい)・胸椎・腰椎コースの3コースがあり、各コース55,000円(税別)です。ほかオプション検査もあり。体内に医療用の金属がある方や妊娠中の方などは受けられる検査が限られることがあります。
あいちせぼね病院 院長
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