インタビュー

新生児仮死からの後遺症なき生存「インタクトサバイバル」とは

新生児仮死からの後遺症なき生存「インタクトサバイバル」とは
(故)渡部 晋一 先生

倉敷中央病院 前総合周産期母子医療センター長

(故)渡部 晋一 先生

この記事の最終更新は2015年10月26日です。

脳性麻痺とはなにか―脳性麻痺をめぐるさまざまな課題」でご説明したとおり、脳性麻痺の原因には「新生児仮死」があります。新生児科の医師たちはなんとかしてこの新生児仮死を後遺症なく生存させるための「インタクトサバイバル」に取り組んできました。近年、このインタクトサバイバルの概念が変わりつつあります。

新生児仮死からの脳性麻痺を防ぐために尽力されており、日本初の「臍帯血移植」による治療を2015年4月に行った倉敷中央病院総合周産期母子医療センター長の渡部晋一先生に、現在新生児科医師がどのようなインタクトサバイバルを目指しているのかついてお話をお聞きしました。

脳性麻痺になると障害を持ってしまった本人のハンディキャップだけでなく、支える家族や社会にとってもさまざまな課題があることを「脳性麻痺とはなにか―脳性麻痺をめぐるさまざまな課題」で説明しました。新生児科医師の目標は「支えを少しでも減らせる状態」にまで改善することです。

ここからは、近年の新生児科医師が考えるインタクトサバイバルの観点から、現在では新生児仮死についてどのレベルまでの改善を目指しているのか、お話ししていきます。

新生児医療が目標とするインタクトサバイバル、これは「後遺症なき生存」のことをいいます。以下に具体的に説明します。

かつてのインタクトサバイバルの基準は、「1歳〜1歳半ぐらいになったときに立って歩いて喋ることができる」というものでした。

しかし、その後もお子さんの人生は続いていきます。具体的には、幼稚園に行く、通常学級に行く、高校や大学に行く、就職するなど、1歳半から成長するにつれてさまざまなイベントがあります。ご本人や親御さんはこれらのイベントひとつひとつをクリアしていきたいと思いますし、そう思うのは当たり前のことです。

人生の過程で起こる出来事は、ひとりひとり異なります。そしてどの場面で「後遺症」が問題となってくるかも異なります。そのため、「後遺症なく」の概念も個々によって大きく異なります。

このように多様性があるなかで、大まかなものであっても、新生児科医師は一般的な目標を立てて治療をしていきます。それはどのような目標なのでしょうか。

これは統一された概念ではありませんが、新生児科医が考えるインタクトサバイバルとは、ハンディキャップを持つ本人が「社会人として就業し納税できるようになること」であると考えられつつあります。細かい形式や経緯はさておき、とにかく一般の人々と同じように働いて税金を納める立場になることがひとつの目標になりつつあります。

「1歳〜1歳半で立って歩いて喋る」というかつてのインタクトサバイバルは、この新しい考え方と一致しません。それは何故なのでしょうか。

立って歩いて喋れたとしても、その先にはさらに長い人生があり、自動的に社会人になれるわけではありません。逆に、たとえ立って歩いて喋れない方でも社会人として税金を払う立場になることは可能なのです。つまり、「1歳〜1歳半で立って歩いて喋る」という基準によって、社会人として就業し納税できるようになるかどうかを判断することはできないのです。

この新しい目標を達成するためには、脳性麻痺の方に対してしっかりとした治療法を確立し、さらに長い視野でフォローしていくということがより重要になってきます。

このように、「インタクトサバイバルは就労で判断する」ことが新生児科医療の一つの目標になっていくと考えられます。

さて、ここまでで新生児仮死から生じる脳性麻痺にどのような課題があるのかと、新生児科医師が現在どのような目標を立てて新生児仮死を治療しているのかについてお話ししてきました。次の記事では新生児仮死をいかにして脳性麻痺に移行させないかということについての工夫について具体的な治療をお話しします。

  • 倉敷中央病院 前総合周産期母子医療センター長

    日本小児科学会 小児科専門医

    (故)渡部 晋一 先生

    山口大学医学部を卒業後、広島大学小児科医局に入局。さまざまな施設でNICU、新生児医療の研鑽を積み、現在は倉敷中央病院総合周産期母子医療センター主任部長を務める。NICUに入った子どもを後遺症なく生存させる「インタクトサバイバル」を目指しており、その中でも特に脳性麻痺への治療の発展に尽力。2015年4月、日本初の低酸素性虚血性脳症の子どもへの臍帯血移植を実施。

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