概要
萎縮型加齢黄斑変性は、ものを見るときに重要な役割を果たす黄斑*という網膜の中心部分が、加齢に伴って変化し、視力の低下を招く病気です。
加齢黄斑変性には大きく分けて「萎縮型」と「新生血管型」の2つのタイプがあり、萎縮型は時間をかけてゆっくりと進行する点に特徴があります。新生血管型は、以前は「滲出型」と呼ばれていました。
萎縮型加齢黄斑変性の病変は「地図状萎縮」**と呼ばれ、特に視野の中心近くもしくは中心自体が見づらくなって、日常生活に影響を及ぼすことがあります。
従来は、萎縮型加齢黄斑変性に対する有効な治療薬はなく、生活習慣改善やサプリメント摂取などを行いながらの経過観察が中心でした。しかし近年、病気の進行の仕組みに作用する薬剤が登場し、治療の選択肢が広がりつつあります。

*黄斑:網膜の中心部にあり、視力や色を識別する力に深く関わる部分。
**地図状萎縮:萎縮型加齢黄斑変性により、網膜の組織が境界明瞭な形で失われた状態。
原因
萎縮型加齢黄斑変性の発症には、「ドルーゼン」と呼ばれる物質が関わることが多いとされています。また、喫煙など日常生活上の要因も指摘されています。
ドルーゼンの形成
黄斑の奥には網膜色素上皮*と呼ばれる細胞の層があり、視細胞が日々作り出す老廃物を取り込んで処理する役割を担っています。加齢とともにこの処理機能が徐々に低下すると、老廃物が十分に消化されないまま、網膜色素上皮と外側のブルッフ膜**との間に蓄積していきます。この蓄積物はドルーゼンと呼ばれ、萎縮型加齢黄斑変性の前段階でみられる所見とされています。ただし、この病気の発症において、ドルーゼンが必ずみられるわけではありません。
*網膜色素上皮:網膜の最も外側に位置し、栄養の受け渡しなどに関わり網膜の機能維持を支える。
**ブルッフ膜:網膜色素上皮と脈絡膜の間にある膜。
地図状萎縮への進行
ドルーゼンの蓄積をきっかけに、慢性的な炎症が引き起こされます。この過程に関わっていると考えられているのが、補体系***という免疫の仕組みです。
ドルーゼンには補体と呼ばれるタンパク質が含まれています。補体は、本来は免疫の仕組みとして機能し、その仕組みの1つとして炎症が生じます。しかし、ドルーゼンの蓄積により補体系が過剰かつ持続的に活性化されると、過剰な炎症により網膜色素上皮細胞が傷つけられます。この作用により、次第に地図状萎縮へと進展していきます。
***補体系:体内に侵入した異物や異常な細胞を排除するためにはたらく、免疫の仕組みの1つ。
日常生活上の要因
萎縮型加齢黄斑変性の要因として最もよく知られているものの1つが「喫煙」です。そのほか、日光を過剰に浴びること、高脂肪食なども要因となりえます。
症状
萎縮型加齢黄斑変性は、新生血管型のように急激に視力が低下することは少なく、多くの場合、数年から十数年という長い時間をかけて進行します。ただし、半年ほどで明らかな進行がみられる場合もあります。
初期の段階では自覚症状がほとんどないか、あっても軽度の視力低下にとどまることが多いとされています。病気の進行に伴い、中心暗点(視野の中心が見えにくくなる)と呼ばれる症状がみられます。
検査・診断
萎縮型加齢黄斑変性の診断にあたっては、画像検査により地図状萎縮の存在を確認することが重要です。さらに、地図状萎縮の場所や数、大きさなどから重症度が判定されます。
画像検査
光干渉断層計(OCT)
光干渉断層計は、光を利用して網膜の断面を撮影する検査機器です。体を傷つけずに、かつ高い解像度で観察することができます。萎縮型加齢黄斑変性では、網膜色素上皮の層の薄さ、視細胞に関わる層の消失といった変化が観察されます。
眼底自発蛍光(FAF)・蛍光眼底造影(FA・ICGA)
眼底自発蛍光は、網膜色素上皮の中にある物質から生じる自然な蛍光をとらえる検査で、地図状萎縮の状態の確認に用いられます。蛍光眼底造影は、造影剤を用いて網膜や脈絡膜の血管を観察する検査です。新生血管型との鑑別が必要な場合に行いますが、萎縮型のみが疑われる場合には行われません。
診断基準
年齢50歳以上で、黄斑の中心窩*を中心とした一定の範囲内に、次の5つの所見を満たす地図状萎縮が存在する場合に、萎縮型加齢黄斑変性と診断されます。
- 大きさ……直径250μm以上であること。
- 形態……円形、卵円形、房状、または地図状の形をしていること。
- 境界……萎縮した部分と正常な部分の境目がはっきりしていること。
- 色素の変化……網膜色素上皮の色素が薄くなる、または失われる変化がみられること。
- 透見性……周囲より脈絡膜の血管がはっきりと透けて見えること。
なお、遺伝性の黄斑ジストロフィーや強度近視に伴う網脈絡膜の萎縮など、他の病気でも類似の変化が生じますが、萎縮型加齢黄斑変性の診断からは除外されます。
*中心窩:黄斑の中心にあり、視力と密接に関わる機能をもつ場所。
重症度
萎縮型加齢黄斑変性は、地図状萎縮と中心窩との位置関係、数や大きさなどから「軽症」「中等症」「重症」の3段階に分類されます。
治療
従来は、萎縮型加齢黄斑変性に対する有効な治療薬はなく、生活習慣改善やサプリメント摂取により進行を抑制しての経過観察が中心でした。近年では、新たな薬剤が登場し、条件付きで承認されています。
生活習慣改善・サプリメント摂取
萎縮型加齢黄斑変性やドルーゼンに対しては、禁煙をはじめとする生活習慣・食生活の改善と、抗酸化サプリメントの摂取が中心的な対応とされてきました。喫煙や高脂肪食などの生活上の要因を排除して、抗酸化サプリメントを摂取することで、進行の抑制を図ります。
抗酸化サプリメントとしては、ルテインやゼアキサンチン、ビタミンやミネラルを組み合わせたものが推奨されています。
薬物療法(補体阻害薬)
2026年8月現在、補体系のはたらきを阻害することで地図状萎縮の進行を抑制する、補体因子阻害薬と呼ばれる薬剤が選択肢となっています。
補体因子阻害薬
補体系のうち、C5と呼ばれるタンパク質に結合し、そのはたらきを阻害する薬剤です。補体系の過剰な活性化により網膜色素上皮が傷つけられるのを抑制します。この薬剤は、すでに失われた視力を回復させるものではなく、進行を遅らせることを目的としたものである点には留意が必要です。
なお、補体系C3を標的とする薬剤についても、加齢黄斑変性に対する研究が進められています。
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