前章では褥瘡の予防についてご紹介しました。しかし、どんなに予防をしても褥瘡が発生してしまうこともあります。ここではできてしまった褥瘡に対して、具体的にどのような治療を行うのか、また自宅療養でも使えるケア方法について、引き続き大阪赤十字病院皮膚科部長の立花隆夫先生にお話をお伺いしました。
褥瘡ができてしまったら、まずは患部を生理食塩水かきれいな水で洗い、染み出している体液や汗・尿や便などの排泄物を取り除きます。患部をきれいに保つことで感染のリスクが減り、その上に新しい上皮が形成されるのを促すことができます。
傷口やえぐれてしまって溝ができている場合は、中にある異物や壊死組織(死んでしまった組織)を取り除き、細菌が増えないようにします。すでに感染が見られる場合、傷口を覆ってしまうとさらに感染を悪化させることになってしまうので、1日に1〜数回洗浄をし、まずは感染を抑えることが重要です。最後にドレッシング材によって創部を覆い、外からの汚染を防ぎ、外用薬(塗り薬)が患部に効くように固定します。
初期段階での褥瘡に関しては外用薬による治療が行われます。具体的には酸化亜鉛、ジメチルイソプロピルアズレン、白色ワセリンなど傷口の保護効果が高い軟膏やスルファジアジン銀を塗ります。体液が漏れ出てしまっている場合には、吸収作用があるカデキソマーヨウ素、ポビドンヨードシュガーなどを塗ります。すでに褥瘡部位に感染が見られる場合も、カデキソマーヨウ素、スルファジアジン銀、ポビドンヨードシュガーを外用薬として使用します。その後新たな組織が再生するのを促すために、アルクロキサ(アルミニウムクロロヒドロキシアラントイネート)、トラフェルミン、トレチノイントコフェリル、ポビドンヨードシュガーを使用します。
入院中は褥瘡対策チームが褥瘡ケアを行いますが、在宅療法の場合、家族や介護者の方が褥瘡ケアを行う必要があるので、褥瘡ケアを行う場合にはしっかりと方法を覚えるようにしましょう。
1.まず汚れた手で処置を行うと傷から感染するリスクがあるため、必ず手洗いをし、手袋をしましょう。手袋は使い捨ての薄手のプラスチック手袋を使用します。
2.次に傷が見えるように枕などをお腹に入れて体位を安定させ、両手でケアができるように固定します。
3.洗浄液や薬が下に流れてくるので、シーツの上に体に密着させるようにしておむつや尿取りパッドなどを敷き、下着やベッドを汚さないように準備します。
4.傷口を覆っているドレッシング材をゆっくりと丁寧にはがし、ガーゼがくっつく場合は水で洗い流しながら取り除きましょう。
5. 褥瘡のまわりを泡立てた洗浄剤でやさしく洗いしょう。その後、褥瘡の傷は洗浄剤を使わずぬるま湯で洗い、同時に手で傷のまわりについた洗浄剤もぬるま湯で優しく洗い流し不織布で拭き取ります。
6.外用薬を塗って、傷をドレッシング材で覆い、処置は終了となります。
褥瘡の患部を保護するために、医療用の材料ではない食品用ラップや穴あきポリエチレンフィルムなどを貼る方法を「ラップ療法」と言います。医療用ではないために、安価で手に入りやすいということで、自宅療養の患者さんを中心に、2000年あたりから普及していきました。しかし急速に普及した2005~2010年ぐらいの間に、一部の患者さんはラップ療法を行うことで状態が悪化したという報告もでるようになり、賛否両論唱えられるようになりました。
現在では日本褥瘡学会理事会は、褥瘡の治療にあたっては『医療用として認可された創傷被覆材の使用が望ましく、非医療用材料を用いた「ラップ療法」は医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な、在宅などの療養環境において使用することを考慮してもよい。ただしその場合は十分な知識と経験を持った医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである』という見解を示しています。
ラップ療法が本当に有効な治療なのか、また安全なのかという点に関しては今後も検討の余地はあると思いますが、自宅や在宅などの療養でも使用可能で費用もさほどかからないというメリットがあるため、医療用材料ではありませんが状況に応じて上手く利用していくべきだと考えています。私の勤めている大阪赤十字病院のような急性期治療に対応する病院では、医療用ドレッシング材もそろっているためこういった方法はとりませんが、在宅などでは選択肢の一つだと思っています。
星ヶ丘医療センター 皮膚科 部長
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