概要
角膜化学腐蝕とは、酸性やアルカリ性の化学物質が誤って目に入ることによって、目の表面の角膜に損傷を生じる病気の総称です。薬剤によって角膜の組織に炎症が引き起こされます。また、角膜が損傷を受けて細菌などが感染しやすい状態となり、目の感染症を併発することがあります。
さらに、角膜の損傷が大きい場合には、症状が改善した後に角膜の組織にひきつれ(瘢痕化)が生じ、角膜の形がいびつになることで乱視などの視力障害を引き起こすことがあります。時間が経過すると緑内障や白内障などを発症することもあるため注意が必要です。
なお、酸性の化学物質に比べてアルカリ性の化学物質のほうが、角膜組織の奥まで損傷を与えやすいため重症化しやすく、角膜に穴が開いたり失明したりすることもあります。
原因
酸性やアルカリ性の化学物質が目に入ることで角膜の組織が損傷されます。角膜化学腐蝕を引き起こす化学物質には、専門的な化学薬品だけなく、家庭で使用する化粧品や洗剤など身近なものもあります。アルカリ性のものでは生石灰、セメント、家庭用洗剤、カビ取り剤、肥料などがあります。酸性のものでは、消火剤、バッテリー液などがあります。特にアルカリ性の化学物質は、角膜表面の障害にとどまらず角膜の奥にまで浸透して損傷を与えるため、重症化しやすいとされています。
症状
化学物質が目に入ると、目の痛み、充血、涙が出るなどの症状が引き起こされます。特に痛みは非常に強く、自分で目を開けるのもつらい状態になります。強い酸性やアルカリ性の化学物質が原因の場合は、角膜が溶けて著しい視力の低下が生じることもあります。
また、症状が改善しても時間が経つと角膜の組織にひきつれを起こして乱視などの視力障害を引き起こすことがあります。そして、さらに時間が経過してから緑内障や白内障などの目の病気を発症する要因となることも知られています。
検査・診断
一般的な視力検査、眼圧検査のほか、細隙灯顕微鏡検査で目の損傷の範囲や程度を調べます。原因となる化学物質が分からない場合には、リトマス試験紙などを用いた検査を行うことがあります。
重症度を判定するには、結膜(白目の表面)の充血をみたり、角膜上皮(角膜の表面)が剥がれた部位や範囲などを観察したりします。特に、角膜と結膜の境界部(角膜輪部)がどの程度傷つけられているかを確認します。角膜輪部には、角膜上皮の細胞を生み出すもととなる細胞(幹細胞)があり、その部位が広範囲に傷つけられると角膜上皮の傷が治らなくなるため、治療方針の決定に重要な検査となります。
治療
化学物質が目に入ってしまった場合は、医療機関を受診する前にすぐに処置を開始することが重要です。目を開けたまま、ただちに大量の流水で目を洗います(洗眼)。洗面器などに水を貯めて洗顔するように洗うのではなく、水道水などの流水で10分以上洗眼します。医療機関を受診しての治療でも、生理食塩水などでの洗眼を行います。
目に付着した化学物質を十分に洗い流した後は、必要に応じて目薬による薬物療法を開始します。細菌感染予防のために抗菌薬の目薬を使用したり、炎症を抑えるためにステロイドの目薬を使用したりします。また、痛みを和らげるために瞳孔を開く目薬を使用することもあります。
軽症であれば角膜上皮が剥がれてしまっても自然に回復しますが、角膜の損傷が強く回復が難しいケースもあります。そのような場合には、もう片方の目からの角膜輪部移植、羊膜(子宮の中で胎児を包む膜)や口の中の粘膜を培養した組織の移植など、外科的な治療が行われることもあります。
予防
角膜化学腐蝕は上述したように酸性やアルカリ性の化学物質が目に入ることによって引き起こされます。そのため、何らかの化学物質を使用する際にはゴーグルを着用するなど、目を保護することが大切です。また、化学物質が目に入った場合は速やかに水道水などの流水で10分以上目を洗い、医療機関を受診しましょう。
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