概要
転倒、スポーツ、けんか、交通事故などで眼部を打撲し瞬間的に強い衝撃を受けて眼球や眼球周囲組織が鈍的に障害された状態のことです。障害を受けた部位・程度によってさまざまな眼症状を起こします。
眼球の障害としては外傷性散瞳、外傷性白内障、水晶体脱臼、網膜振盪、網膜剥離など、また、眼球周囲の障害としては視側管骨折や眼窩骨折などがあります。
今回は外傷性散瞳、水晶体脱臼、眼窩骨折について説明します。
原因
外傷性散瞳
瞳孔は瞳孔括約筋のはたらきにより、明るい場所では小さくなり(縮瞳)、暗い場所では大きくなります(散瞳)。しかし、打撲により瞳孔括約筋線維が断裂すると、縮瞳できずに瞳孔が開いたままの状態になります。
水晶体脱臼
水晶体はチン小帯という組織で眼球内に固定されています。打撲により水晶体が前後方向に押されてチン小帯が断裂してしまうと眼球内で水晶体の位置がずれ、脱臼します。部分的な断裂では亜脱臼、完全な断裂では完全脱臼といいます。
眼窩骨折
打撲によって眼窩内部(眼球とその付属器が入っているくぼみ)の圧力が急激に上昇すると眼球周囲の薄い骨が折れて眼窩骨折を起こすことがあります。
眼窩骨折と同時に眼球付属組織(眼窩内の脂肪組織や眼球を動かす筋肉)が眼窩から副鼻腔(鼻とつながっている顔面骨内の空洞)へ脱出してしまいます。
症状
外傷性散瞳
明るい場所でも瞳孔が開いたままであるため、眩しさを感じます。近方視力低下を自覚することもあります。
水晶体脱臼
視力低下を起こします。また、眼圧が高くなると眼痛も起こします。
眼窩骨折
骨折の範囲や眼球付属組織の脱出程度により、症状の程度もさまざまです。眼球を動かす筋肉が動きにくくなると眼球運動障害を起こし、複視症状(ものが二重に見える)が出ます。
頭部のCT検査で異常がなくても目を動かしたときに強く痛がる場合には眼窩骨折が隠れていることがあるため、注意が必要です。
検査・診断
外傷性散瞳
ペンライトで両眼の瞳孔の大きさや動きを観察すると、打撲を受けた眼球は反対眼より瞳孔が大きいままで縮瞳しないことが確認できます。
水晶体脱臼
視力検査、眼圧検査で症状を把握し、細隙灯顕微鏡検査で脱臼の状態を確認します。
眼窩骨折
顔面のCT検査で眼窩骨折の有無を、また、眼球運動の検査で複視症状を調べます。
治療
外傷性散瞳
数週間以内に自然に治ることもありますが、根本的な治療法はありません。眩しさ対策にサングラスや特殊なコンタクトレンズを装用することがあります。
水晶体脱臼
水晶体が完全に脱臼しているときには角膜障害を引き起こすことが多いため、水晶体摘出手術を行います。
眼窩骨折
複視の自覚症状が強い場合にはCT検査も参考にして手術を検討します。手術では骨折部分から脱出した眼球付属組織を元の位置に戻します。複視症状が少ない場合は数か月で自然に治ることもあり、手術を行わずに自然治癒を待ちます。
未成年者の場合で受傷直後から強い吐き気と複視症状を伴う場合には手術時期が遅れると複視の後遺症が強く残ることがあり、緊急的な手術治療が必要です。
眼窩骨折は病名に「骨折」という単語が含まれていますが、その治療目標は骨折を治すことではなく、眼球運動を回復させて複視症状を治すことです。そのためには適切な時期に適切な治療を受けることが大切です。
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