概要
頚椎症(頸椎症)とは、加齢によって椎間板などの頚椎構造に変性が生じ、頚椎を通る神経が圧迫されることでさまざまな症状が引き起こされる病気です。
頚椎症は、障害を受ける神経の部位によって、脊髄症と神経根症に分けられます。どちらも50歳以上の男性に多く、男性は女性の約2倍とされています。
さまざまな神経症状が引き起こされますが、軽度なものから日常生活が困難なほどのしびれや痛みが現れるものもあります。また、必ずしも症状の程度と画像上での頚椎の変性の程度が一致しないのも大きな特徴です。
頚椎症は、中高年以降の方には一般的な病気ですが、なかには他の神経疾患が隠されていることもあるため注意が必要です。
原因
私たちの首は、7つの頚椎という骨が上下に連なって構成されており、それぞれの頚椎の間には椎間板というクッションのような役割をする組織があります。7つの頚椎には神経が通っており、脊柱管という真ん中の太い管を通るものが脊髄、脊髄から椎間孔という穴を通って左右の腕に分岐するものを神経根といいます。
椎間板はコラーゲンが豊富で弾力性のある組織ですが、10代後半から水分が失われ、徐々に変性していきます。その結果、椎間板が徐々に潰れたり、膨隆したりします。椎間板が付着している頚椎の縁も一緒に押し広げられて縁の尖った骨棘が形成されます。また、脊柱管を支える靭帯は加齢によって厚くなり、脊柱管全体が狭くなります。
このような頚椎の変性によって脊髄が圧迫されるものを頚椎症性脊髄症、神経根が圧迫されるものを頚椎症性神経根症と呼びます。それぞれの原因は以下の通りです。
頚椎症性脊髄症
大きくなった骨棘が脊柱管の中に飛び出して脊髄を直接圧迫したり、靭帯が厚くなることで脊柱管が狭くなり、中を通る脊髄を圧排したりすることが原因です。
頚椎症性神経根症
椎間板の変性や骨棘の形成によって、椎間孔が狭くなり、神経根を圧迫することが原因です。
症状
頚椎症の症状は、圧迫される神経の場所によって異なります。
脊髄が圧迫される場合には、圧迫点より下位にある神経の傷害が起きるので、首から下肢の広範囲に症状が引き起こされます。また、基本的に症状は左右両方に起こり、主な症状は、しびれや痛み、脱力感などですが、重症な場合には歩行困難や膀胱直腸障害などを生じることがあります。
一方、神経根が障害される場合には、首と肩のコリや痛みの他に、その神経根が支配する部位にのみ症状が起こります。腕や指先のしびれ、痛み、脱力感などが出現し、重症な場合には麻痺がみられることもあります。
また、通常は脊髄から左右に分岐する神経根の内、片側のみが障害されるため、症状も片側のみに現れます。
検査・診断
脊髄症、神経根症ともに共通した検査が行われます。
画像検査
頚椎の変性を評価するために必須の検査です。簡便に行える画像検査はレントゲン検査では、骨棘などの椎骨の変形を観察することが可能です。
脊髄や神経根を観察するにはMRI検査が必要です。MRI検査では椎間板の変性や神経がどの程度圧迫されているかを評価することができます。
脳脊髄液検査
脊髄の圧迫により、脳脊髄液の流れが障害されている場合には、脳脊髄液中の蛋白濃度の上昇が見られます。また、他の神経疾患を除外するための精密検査として行われることがあります。
電気生理学的検査
画像上は異常がないものの痛みやしびれが長く続く場合には、手根管症候群やALSなどの他の神経障害を除外するために筋電図検査が行われることがあります。
頚椎症では障害された神経部分のみに変化がみられますが、広範囲に病変がある場合や、特定の末梢神経のみに異常がある場合には他の神経疾患が考えられます。
治療
多くは、安静にして、投薬や装具の着用などの保存的な治療が行われますが、重症な場合には手術をして神経の圧迫を解除することがあります。それぞれ以下のような治療が行われます。
薬物療法
消炎鎮痛剤や筋弛緩薬、ステロイドなどの飲み薬から開始され、症状がひどい場合には、痛み止めの注射やブロック注射が行われることもあります。また、消炎鎮痛剤が含まれた湿布や塗り薬が併用されることが多いです。
神経根症の多くは安静と投薬で症状が改善します。しかし、脊髄症では改善しないことも多々あります。
装具固定
首の痛みがひどく、動かすことによって手足のしびれなどが生じる場合には、頚椎カラーで首を固定し、頚椎の安静を保ちます。
手術
中等度以上の脊髄症や、保存的治療で改善しない神経根症では手術が行われることがあります。変形した頚椎や椎間板を除いて、神経の圧迫を解除しますが、術式は2通りあります。
症状の原因となる圧迫が比較的限局して脊髄の前方にある場合は、首の前面から圧迫を解除する前方除圧固定術が行われます。一方、広範囲にわたる脊髄の圧迫が見られる脊髄症では、首の後方から圧迫を解除する椎体形成術が行われます。
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