概要
S状結腸軸捻転とは、大腸の一部であるS状結腸が腸間膜を中心に何らかの原因によってねじれてしまうことをいいます。発症すると、お腹の張りや強い痛み、吐き気などの症状が現れます。
S状結腸がねじれることによって大腸の一部が塞がり、腸内を内容物がうまく通過できなくなってしまったり、さらに進行すると腸管への血流が悪くなって大腸の一部が壊死したり、大腸に穴が開いたりしてしまう(穿孔)ことがあります。
S状結腸軸捻転は、寝たきりの高齢者や精神疾患の患者に多くみられるといわれていますが、若い妊婦の方にも起こることがあります。そのほか、生まれつきS状結腸が長い場合や、体の中で腸管が十分に固定されていない場合にも起こりやすい病気です。
原因
S状結腸軸捻転の原因は、生まれつき(先天的)の原因と、それ以外(後天的)の原因に区別できます。
生まれつきの原因
生まれつき大腸や腸間膜(消化管を体壁から吊り下げている部分)の長い人、腸管回転異常*のある人はS状結腸軸捻転を生じやすいといわれています。
*腸管回転異常:胎児期に、小腸と大腸がお腹に収まる過程で発生する異常のこと。この異常によって腸がねじれやすくなる。
それ以外の原因
S状結腸軸捻転は高齢者に多くみられます。年齢とともに脂肪が減少して臓器が移動しやすくなることや、慢性的な便秘、慢性腸間膜炎、長期にわたって寝たきりの状態などが重なって生じるものと考えられています。また、向精神薬の服用によって大腸の蠕動運動の停滞が起こることや、便意や痛みを感じにくいことから精神疾患の患者にも多くみられるようです。
精神疾患以外で合併する頻度の高い病気としては、パーキンソン病などの神経疾患、巨大結腸症の原因となる病気、脳疾患、脊髄の損傷などが挙げられます。そのほか、手術治療後の臓器の癒着や妊娠が原因となって生じる場合もあります。
症状
S状結腸軸捻転が生じると突然の腹部の張りや激しい腹痛、吐き気、嘔吐などの症状が現れ、腹部の張りが明らかに盛り上がって見えることもあります。中には腸管壊死による腹膜炎症状からショック状態に陥る方もいます。
検査・診断
自覚症状などからS状結腸軸捻転が疑われる際は、まずX線検査やCT検査、注腸造影検査などを検討します。そのほか、大腸内視鏡検査や血液検査が併せて行われることもあります。
X線検査・CT検査
X線検査では、大腸内にたまった逆U字型や大きなコーヒー豆のように拡張したガスの形状がみられます。
CT検査では、大腸を固定している腸間膜のねじれや、大腸に穴が開いて腹腔内に遊離ガス*や腸液が漏れていないかを確認します。
*遊離ガス:通常は腹腔内に存在しない空気が、消化管に穴が開いて漏れ出たもの。
注腸造影検査
X線検査の1つで、肛門からチューブを挿入し、造影剤や空気を注入したうえでX線を撮影することにより、大腸の様子を観察します。S状結腸の部分で大腸が細くすぼまっている場合、S状結腸軸捻転が疑われます。
大腸内視鏡検査
肛門から内視鏡(いわゆる大腸カメラ)を挿入し、大腸の内部を観察する検査です。大腸の内側の粘膜に浮腫や出血、壊死などがないかどうか確認できるほか、大腸が狭窄しているかを確認することができます。
血液検査
白血球数、CRP値などから体の中の炎症の有無やその程度を確認します。
治療
S状結腸軸捻転と診断された場合、状況に応じて内視鏡治療か手術治療が検討されます。腸管の壊死を防ぐためにも、できる限り血流が回復できる早期の段階で治療を行うことが大切です。
内視鏡治療
腸管の中に残った内容物やガスを吸引し、X線で内部の様子を確認しながら内視鏡を挿入することで、ねじれを解消する治療方法です。“内視鏡的整復”などと呼ばれることもあります。大腸内視鏡検査中に内視鏡を通過させることができ、壊死が生じていない状態だった場合に検討されます。内視鏡が通過できない場合や内視鏡的整復がうまくいかなかった場合は、緊急手術を考慮する必要があります。
手術治療
開腹してねじれを解消したり、S状結腸の一部を切除したりする治療方法です。内視鏡検査で腸管の粘膜に壊死や潰瘍、出血などが認められた場合などや、内視鏡治療によって大腸に穴が開く恐れがある場合などに検討されます。またいったんは内視鏡での治療が可能であっても、短期間で再発を繰り返す場合には再発防止のために手術治療が検討される場合があります。
医師の方へ
「S状結腸軸捻転」を登録すると、新着の情報をお知らせします