傷を小さく、体への負担を少なく――外科医として追求し続けた

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傷を小さく、体への負担を少なく――外科医として追求し続けた

患者さんにとってより優しい手術方法を求め、チャレンジを繰り返してきた渡邊剛先生のストーリー

ニューハート・ワタナベ国際病院 総長
渡邊 剛 先生

外科医として、患者さん一人ひとりの人生に関わる責任を知った

私が外科医を志したきっかけは、中学3年生の頃に読んだ、手塚治虫の『ブラック・ジャック』でした。「圧倒的な技術を持つ医師は患者さんを助けられるのだなあ」と感動し、外科医に魅力を感じたことが原点です。
実際に外科医になってから、患者さん一人ひとりに、受診に至るまでのドラマがあることを知りました。患者さんは長い時間をかけて悩み、自分の病気についてよく勉強してから、手術を受けるために病院を訪れます。なかには、遠方から早朝の飛行機でわざわざ来たという方や、自営業に早く復帰したいという方がいらっしゃって、それぞれの思いがあるわけです。
その思いに応えるために私たち医師ができることは、いかに早く、いかに正確に治療するか、ということだと思います。「早く治療して仕事をしたい」といった患者さんの強い思いがあって、医師はそこに関わるのだという責任の重さを、年を経るにつれて感じるようになりました。
医師になったばかりの頃は、命を救えるかどうかは自分の腕次第というところにやりがいを感じていたと思います。1日に何人の患者さんの手術ができるか、何分で縫合を終えられるか、といったことばかり考えていました。しかし、外科医としての責任を感じるようになるとともに、「よい仕事をしたと言えるのかな」と振り返ってみることが増えました。今では、患者さんの人生に関わることに対して、大きな責任とともにやりがいを感じています。

常に新しい手術方法を追求しながら

私は、現在は心臓弁膜症の手術を主に行っていますが、元々の専門は不整脈でした。研究していたのは、WPW症候群や心房細動による頻拍の発作が起こる病気です。2019年現在、心房細動はカテーテルを用いて治療が可能な病気となりましたが、私が大学に入ったばかりの頃、心房細動を外科的に治すという考え方はまだ世間に広まっていませんでした。そうしたなかでも、私が入局した教室には、不整脈外科の基礎を築いた教授がいたため、私は最初の研究テーマとして不整脈を選びました。
その後、ドイツに留学して、狭心症のバイパス手術を学びました。これからはバイパス手術が私の仕事になるのだろうな、と思っていたところ、帰国する直前に、人工心肺を使わない手術方法である“オフポンプ手術”というものを知りました。ドイツの当時の上司がオフポンプ手術を実践した際、その場に居合わせた私は、「この手術は広まるはずだ。間違いなく、患者さんにとって負担が少ない手術だ」と感動し、自分もオフポンプ手術を実践したいと思ったのです。
人工心肺を使うことによって患者さんが合併症のリスクにさらされてしまうのは、つらいことです。そこで、人工心肺を使わない手術に挑戦しようと思い、私はひとつの新しい手術方法に取り組み始めました。

試行錯誤し、自らの手で機械を試作した日々

バイパス手術は、心臓の詰まっている血管に別の血管をつなげる手術ですが、手術している間は心臓を止めておかなければ、血が噴き出してきてしまいます。そのため、従来は、人工心肺を用いて心臓を止めた状態で血管を切る、という方法がとられてきました。しかし、人工心肺を使うことには、脳梗塞、肺炎、肝臓障害、腎臓障害などのリスクがあります。合併症が起こるなら人工心肺を回さないほうがよいという考えのもと、考案されたのが、オフポンプ手術です。
オフポンプを用いたバイパス手術では、心臓を止めるのではなく、一時的に血流を止めることになります。たった数分間ですが、手術が長引けば命に関わる危険があるため、早く、短く、確実に縫合できるよう技術を磨きました。また、心臓を動かしたまま手術するためには、組織の動きを止めるための機械が必要でした。私は、何度もホームセンターに通い、オフポンプ手術にはどのような機械が必要なのだろうかと考えながら、試作を重ねました。現在は、スタビライザーという商品がありますが、当時はまだ市場に販売されていなかったのです。

全てのチャレンジは「できるだけ傷を小さくしよう」という思いから始まった

オフポンプの次に導入したのは、体を切開する範囲を最小限にとどめて行う、小切開手術(MICS)でした。さらに、もっと究極的に、穴を空けるだけで手術ができないかと考え、内視鏡を用いて行う冠動脈バイパス手術を実践しました。その報告は、ロンドンとニューヨークに編集室があり、世界五大医学雑誌のひとつとして知られる『THE LANCET』に、1999年に掲載されました。また、同時期に手術支援ロボット“ダヴィンチ”が世の中に登場したことを受けて、ロボットを使えば、もっと確実に、かつ安全に、穴を空ける手術が可能だろうと考え、心臓血管外科領域における手術支援ロボットの導入に取り組みました。2005年に金沢大学と東京医科大学で開始し、国内ではもっとも早い導入となりました。
このように、私が行ってきた治療方法は、時代の流れとともにさまざまに変化しましたが、いずれも、「患者さんが早くもとの生活に戻れるように、できるだけ傷を小さくしよう」という思いから始まっています。どうしたら患者さんにとって優しい手術ができるのか、どうしたら痛みや出血が少なくて、傷の小さい手術ができるのかと悩み、試行錯誤し、ようやく新しい治療方法を編み出すことができるのです。
医師は、患者さん一人ひとりの人生に関わり、ひいては、患者さんが今後の人生をよりよく生きることができるかどうか、にも深く関わります。私は、医師として、よりよい治療を提供する責任を果たすため、これからも、安全で、優しい手術方法を求め続けてまいります。

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