インタビュー

冠動脈バイパス手術の最新法。ダヴィンチを使った手術とは

冠動脈バイパス手術の最新法。ダヴィンチを使った手術とは
渡邊 剛 先生

ニューハート・ワタナベ国際病院 総長

渡邊 剛 先生

冠動脈は、心臓自身に血液を巡らせるための脈です。この冠動脈に何らかの異常が生じてしまった方に対して、冠動脈バイパス手術が施されることがあります。ニューハート・ワタナベ国際病院の渡邊剛先生は、医療用ロボット手術機器・ダヴィンチによる冠動脈バイパス手術を行う、日本でも数少ない心臓外科医です。ダヴィンチによる冠動脈バイパス手術とはどのように行われるのでしょうか? 引き続き、渡邊先生にお話頂きました。

冠動脈バイパス手術(CABG)とは、冠動脈という心臓に栄養を与える血管が狭窄(狭くなってしまうこと)したり、詰まってしまったりする人に対して、グラフトと呼ばれる新しい別の血管を持ってきて、バイパス(血液を滞らせないために人工的に・あるいは患者さん本人の体の一部から採取して形成する迂回路)を作る手術です。この経路が作られることによって、心筋に行く血流が復活して心臓へ運ばれる酸素が一定以上になり、狭心症などの症状が改善されます。また、万が一狭窄しているほうの血管が閉塞してしまっても、バイパスが命綱として冠動脈に血液を送り続けてくれるため、心筋梗塞を予防するという効果も期待できます。

冠動脈バイパス手術は、20年前までは心臓を止めて行っていました。しかし、心臓を止めるのは患者さんにとって身体的な負担にもなりますし、手術中のリスクも高まります。そこで最近になり、私たちは日本で最初に心臓の一部分のみを止める機械「スタビライザー」を開発しました。スタビライザーを用いれば、健康な部分の心機能を停止することなく、患者さんの負担も少ない状態で手術を進められます。これが20年前のことです。その後日本に新しい心臓手術の方法は普及していって、現在では心臓を止めずに手術ができるまでに進歩しました。

ダヴィンチを用いた冠動脈バイパス手術は、「完全内視鏡下心拍動下冠動脈バイパス術(TECAB)」と呼びます。狭心症の患者さん・心筋梗塞を起こした患者さんに対して施され、内視鏡だけで正確に手術を行います。傷は小さな穴が数か所開けるだけで済み、術後約5日間で退院が可能です。
心臓手術——ダヴィンチによる心臓手術でも述べましたが、ダヴィンチを用いても用いなくても、基本的な冠動脈バイパス手術の手順は同じです。

ダヴィンチを使うとものすごくいい手術ができます。手術スピードは圧倒的に速く、尚且つ正確です。冠動脈バイパス手術ももちろんなのですが、特に弁形成におけるダヴィンチ手術は最適な方法といえるでしょう。
(詳細は弁膜症のダヴィンチ手術

これまでの心臓手術の経緯を辿ると、人工心肺を使う手術から人工心肺を使わない(Off-pump CAGB)手術へ、そしてさらに傷を小さくする内視鏡下手術、それからダヴィンチを使った手術へと進化しています。

前立腺の手術でいえば、アメリカの8割の患者さんがダヴィンチ手術によって治療を受けている時代です。ダヴィンチ手術は、本当にスタンダードな手術になってきています。ただしダヴィンチによる心臓手術を行える医師は現時点ではまだ少なく、ダヴィンチによる心臓手術が一般化するにはまだまだ時間がかかるといえるでしょう。

ニューハート・ワタナベ国際病院のHPはこちら