DOCTOR’S
STORIES
自身の大腸がんの経験を活かして、患者さんに喜んでもらえる医療を貫く西口幸雄先生のストーリー
私が医師を志したきっかけのひとつは、中学校のある先生との出会いです。その先生は、教師の仕事をしながら、医学部受験のための勉強をしており、生徒たちに医師という夢について熱く語ってくださいました。その話を聞いて、医学部に魅力を感じたことが、医師を志すようになった原点です。
もうひとつは、仲良くしていた幼なじみのいとこが、中学2年生のときに突然、病気で亡くなったことです。つい昨日まで一緒に遊んだり話したりしていたのにと、人間の命について深く考えさせられました。このことは、人間の命のはかなさ、そして、病気を治す医師という仕事の尊さをあらためて感じた出来事でした。
この2つの経験から、医学部入学を目指して勉学に励むようになりました。医学部受験は狭き門で、1回目は不合格でしたが、諦めることなく翌年も試験に挑み、無事に大阪市立大学医学部への入学を果たしました。
医学部に入学後、外科医になることを決めたのは、クラブ活動の先輩の影響が大きかったと思います。先輩が外科に誘ってくださり、興味を持ったことに加えて、お世話になった先生や先輩たちが立派に外科医を務める姿に鼓舞されました。10年ほど手術の経験を積めば、自分にもきっと一人前の技術が身につくはずだと、外科医として歩む決心をしました。
その後、「大腸がんと栄養」というテーマを扱う研究室に入ったことがきっかけで、研究活動にも魅力を感じ、のめり込んでいきました。「大腸がんと栄養」の研究を通して、大腸がんの手術の成績や術後の合併症には、患者さんの栄養状態が関わることと、手術の前に行う栄養療法の重要性を知りました。留学先のオハイオ医科大学でもこの研究を継続し、現在に至るまで、数十年間にわたって取り組み続けているテーマです。
近年では、大阪市立総合医療センターにおいて、「栄養サポートチーム(NST)」を立ち上げ、大腸がんの患者さんに限らず、栄養のサポートが必要だと判断した患者さんに対して、一人ひとりに合わせた栄養療法を提供しています。また、セミナーを開催し、全国の医療機関に栄養療法の重要性を広めることにも力を注いでいます。
私が医師としての姿勢を学んだ、2人の恩師についてお話しします。
研修医時代にお世話になった大平雅一先生(現・大阪市立大学大学院医学研究科腫瘍外科学 第一外科教授)からは、医師としての技術はもちろん、とくに患者さんに対して丁寧に接する姿勢を学びました。当直をしていた大平先生が深夜に患者さんから呼び出されたとき、数時間にわたって辛抱強く患者さんの話を聞いてあげたという話に感銘を受けました。一方、研修医に対しては厳しく、手術後の患者さんの状態や反応の確認が少しでもおろそかだと、厳しい口調で注意していらっしゃったことを覚えています。手術を担当した医師は、手術における全ての責任を持つ必要があるのだと、教わりました。
研修先の上司だった曽和融生先生(現・大阪市立大学 名誉教授)からは、患者さんと顔を合わせて話す大切さを学びました。1日に3回は患者さんの様子を見に行くようにと言われ、朝・昼・晩の回診を徹底しました。曽和先生から「あの患者さんは元気か?」と聞かれたとき、きちんと答えられないと「嘘を言うんじゃない」と叱られることもあり、厳しい先生でした。しかし、曽和先生のもとで学んだことで、患者さんとしっかり話をする姿勢が身についたと思います。今でも私は、朝晩1回ずつ病棟に顔を出し、入院中の患者さんと話をするように心がけています。
私が診療するなかで嬉しく思うときは、つらそうな表情で診察室に入ってきた患者さんが、ニコッと微笑んで帰る瞬間です。患者さんは、ご自身の病気や、医師の技術などに対する、さまざまな不安を抱えて病院にいらっしゃると思います。そこで私は、患者さんの不安を少しでも和らげたいという思いから、患者さんとたくさんお話しするように心がけています。手術が難しいと判断した患者さんにも、「ご家族と十分ゆっくり過ごすことができますよ」などと話して、精神的なケアに努めています。
実は私も、50歳のときの「節目検診」で便潜血が陽性になり、大腸がんの一種である直腸がんを経験しました。ステージⅠでしたが、手術は避けられない状態でした。「なぜ、大腸がんのプロである自分が、自分を手術できないのだろう」と歯がゆく思いながらも、私が指導してきた後輩の前田清先生(現・大阪市立総合医療センター消化器センター長)に手術を託し、無事に治療を終えることができました。
大腸がんを経験して、手術後は小さな傷でも痛みを感じることや、喫煙者は全身麻酔の影響で咳や痰が増えてつらいことなどを実感しました。それ以降は、手術を受ける患者さんに対して、術後の生活への不安を解消できるように、手術後のことまで詳細にお話しするようにしています。
私が考える「よい医療」は、「患者さんに信頼され、喜んでもらえる医療」です。高度な治療を行ったとしても、それが患者さんのために行われたものでなければ意味がありません。たとえば、治療の選択肢がいくつか考えられるとき、その複数の選択肢を患者さんにご説明したうえで、医師は患者さんにとってもっとも適していると思う治療法をご提案します。そして、患者さんがほかの選択肢を希望された場合でも、応えることができなければいけません。そのために、私たちは、常に技術や知識の向上に努めるべきだと考えます。
大阪市立十三市民病院は、小さな病院ではありますが、肺がん・大腸がん・胃がん・乳がん・子宮がんを中心に、高血圧や糖尿病などの身近な病気を丁寧に診察し、一人ひとりに合わせた治療を提供しています。これからも、患者さんに信頼され、喜んでもらえるよう、技術や知識の向上に努めてまいります。
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大阪市立総合医療センター
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