DOCTOR’S
STORIES
自ら成長し続け、後進の育成にも尽力する井上 透先生のストーリー
私は、高校生の頃、リハビリテーションに携わりたいと考えたことがきっかけで、医師を志しました。体の機能回復を図り、社会復帰を目指す過程に関心を持ったからです。
高校3年生の進路相談のとき、私がそのような職業に就きたいと考えていることを高校の恩師に告げたところ、「それなら医学部に進学して医師になってはどうか」とすすめていただきました。そのときから、医学部に進んで医師になるという具体的な目標をもつこととなりました。
父を高校2年で亡くしていた私が6年も大学に通うことについて、母は頑張って現役で合格しなさいと応援してくれました。その後は、部活動を続けながら、将来の目標を達成するべく、少しずつ成績を上げるよう勉強に取り組みました。運よく翌年3月に大阪市立大学の医学部に現役合格し、医師になるべくその第一歩を歩み始めたのです。
医学部入学後も、リハビリテーションに携わりたいという思いは変わりませんでしたが、実習で診療科をまわり多くの患者さんと接するなかで、病気を治して社会復帰するということは全ての診療科に通じていることだと気づきました。そして、患者さんの全身を診る一般消化器外科へと志望を変更したのです。外科に専攻を決めたことを、進路のひとつとして考えていた内科の教授に報告したところ、「できるだけ切らないで治す外科医になりなさい」というお言葉をいただきました。この一言には大きな影響を受けました。外科医にとって、いかにうまく手術をするかはとても大切なことですが、それは外科医が患者さんを治すために持っている一つの手段に過ぎないことです。一番大切なことはもっともよい方法で患者さんを治してあげること、そのために多くの知識を身につけなければいけないと強く思いました。それが、患者さんの状態に応じた最適な治療の提供を心がける自分のスタイルにつながっています。
大学時代も高校時代と同じくハンドボール部に所属し、全日本大学選手権出場も果たしました。クラブ引退後は休まず実習に出席し、卒業式では医学部総代として卒業証書を受け取ることができました。頑張ることで、成果を得られることを知ったという意味で、学生時代にはとても貴重な経験をさせていただきました。
医学部卒業後は、大阪市立大学医学部腫瘍外科学教室に入局し、さらに大学院に進学し、難治性がんを主たる研究対象とする、癌分子病態制御学講座の
大阪市立総合医療センターで消化器外科医としての経験を積み、2019年4月に大阪市立十三市民病院に赴任しました。現在も、知識や技術を磨き続けています。なかでも優れた技術を持つ、全国の外科医の先生方の手術から学ぶことが大切だと考えています。出身大学の枠を超えて、全国どこであっても名手と言われる先生がいらっしゃれば、精力的に見学に行っています。外科医は、手術の経験を重ねるごとに成長することができると信じています。自信をもって治療に当たるには、自己の診療成功に満足して終わらせるのではなく、進歩し続ける技術に追いつくために、よりよい診療を求めて自ら学び続けなければなりません。「今日の手術は昨日の手術よりも成長していない」と感じたときがメスを置くときだ、という覚悟を持って日々の手術に臨んでいます。
医療技術が進歩した現在も、外科手術でしか治すことができない患者さんはたくさんいらっしゃいます。私は、外科で重要なことは、チームで医療を提供することだと考えています。
手術を受けられる患者さんは、さまざまな不安を抱えています。その不安を取り除くためには、医師や看護師から受付の事務に至るまで、病院の全てのスタッフが、患者さんに寄り添うことが大切です。このようにチーム一丸となって物事に取り組む重要性は、学生時代のクラブ活動を通して、また、多くの先輩や後輩、同僚、そしてほかの職種の方々と日々の仕事をしていくなかで学びました。病気になって苦しんでいる患者さんを、スタッフそれぞれの立場からの視点で支えること、それががん患者さんへのチーム医療だと考えています。
外科医の立場からは手術のときだけではなく、手術前後の患者さんの生活や思いについても考えるように心がけています。残念ながら治癒に導くことができない患者さんにも、何か自分がしてあげられることはないのか、そんな思いがとても大切だと考えています。私がこのように考えるようになったのは、ひとりの患者さんとの出会いがきっかけでした。その患者さんは、胃がんの切除手術後、残念ながら再発をきたし、いわゆる終末期状態でした。あるとき、その患者さんが「喫茶店のミックスジュースが飲みたい」とおっしゃったのです。砕けた氷が入っていて濃いバナナ味の、病院では飲めないであろうミックスジュースに思いをはせる患者さんの願いを叶えてあげたいなと思い、近くの喫茶店でお願いして病院に持ち帰りました。ほんのちっぽけな出来事ですが、患者さんが亡くなる前に、そのときのことをとても嬉しかったと話してくれました。病気の治療だけではなく、患者さんのために何かしてあげたいという思い、全てはそこから始まるのだと知りました。
これからの医療を担う若手医師たちには、医師を志したときの気持ちを持ち続けてほしいと思っています。手術指導に留まらず、患者さんの思いに寄り添うことができる医師になれるように導きたいです。立派になった彼ら彼女らの活躍を楽しみに、日々厳しく(時には優しく?)指導を続ける毎日です。素晴らしい医師になる可能性をもった後輩たちの指導をすること、それはとても大切な仕事であり、また、大きな楽しみでもあります。
外科医として、技術や知識を磨き続けるためには、高め合うことができる仲間の存在が必要不可欠であると思っています。1991年(平成3年)に外科医になった医師で構成された“平三会”の同期の医師たちの存在は、私が医師を続けていくうえでのモチベーションにつながっています。平三会には全国各地の50名以上の外科医師が所属しています。教授になって大学病院に勤め続ける先生もいれば、研究分野で成果をあげ続けている先生も、私のように地域の病院で勤める医師もいます。全国規模の外科系の学会などのときには、いつも平三会の仲間と集まっています。この折に、「私は、しっかり頑張っている」と胸を張って仲間たちに言える自分でいなければならないという思いで、日々研鑽に努めています。平三会の仲間のなかでも心から尊敬する、東海大学医学部附属病院消化器外科教授の
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