院長インタビュー

患者さんにとっても、職員にとっても理想的な病院になるために―姫路赤十字病院の改革

患者さんにとっても、職員にとっても理想的な病院になるために―姫路赤十字病院の改革
佐藤 四三 先生

姫路赤十字病院 名誉院長

佐藤 四三 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年06月26日です。

姫路赤十字病院は、DPC特定病院群(旧DPCII群)に指定された、兵庫県姫路市の急性期病院です。同院は、地域に必要な医療を提供し続けていくために、独自の方法で数々の改革を実施してきました。

「新しい取り組みには戦略が必要」と語る院長の佐藤四三先生に、同院の取り組みについてお話を伺いました。

姫路赤十字病院 外観
姫路赤十字病院 外観

当院は、1874年に地元の有志医師が、姫路城の廊内に会社病院として開院したのが始まりです。その後、改称や移転を経て、1908年に日本赤十字病院における兵庫支部となりました。日中戦争が始まった1879年からは、主に軍患者を収療する病院となり、1945年の太平洋戦争終戦までは、陸軍病院として機能していました。戦後は総合病院となり、その後も改築を繰り返してきました。そうして開院から140年以上、当院はさまざまな形で地域に医療を提供してきました。

先輩方が地域医療に尽くしてこられた歴史が基盤となって、今も地域の皆さんからは「日赤さん」と愛称で呼ばれて温かく支えられています。

姫路市には5つの急性期病院があり、それぞれが得意な領域を活かして医療を提供しています。当院は、がん医療、小児・周産期医療、救急医療に特化した高度急性期医療を地域に提供しています。

姫路医療センター、製鉄記念広畑病院、兵庫県立循環器病センター、姫路聖マリア病院の4つの病院と当院を合わせると、地域に必要な医療を提供する機能を兼ね備えた医療機関になると考えています。そのため、互いに安心して機能分担し、共存してきました。

他病院と連携して取り組んでいる地域医療ではありますが、中播磨医療圏・西播磨医療圏の人口を考えると、心臓血管疾患や呼吸器疾患の手術に関しては、担当する兵庫県立循環器病センターや姫路医療センターだけでは、まだ手が足りていません。そのため、患者さんからは、当院でも治療をしてほしいと、以前から数多くの声をいただいていました。そういった背景があり、2014年に脳・心臓血管センターを開設し、そして今後も高齢化の進むと予想される地域を支えるために、呼吸器系の疾患に対応する機能の拡充も図りました。

2018年には、さらに4階建ての新治療棟を稼働しました。アンギオ装置や、手術支援ロボットを導入し、ハイブリッド手術室を増設するなど、脳・心臓血管系の診断・治療機能の充実化を図りながら、救急搬送された患者さんにも迅速に対応できるよう、取り組んでいます。

ハイブリット手術室の様子
ハイブリット手術室の様子

2018年にがんゲノム外来を開設しました。がんゲノム外来では、がんの標準治療が効かなかった方や、希少がんの方などを対象に、遺伝子レベルでご自身のがんを知り、治療方針などを検討していきます。

当院では、Once Prime、P5がんゲノムレポート、P5がんゲノムレポートプラスの3種類のゲノム検査を実施しています。いずれも自由診療であり、費用はOnce Primeが900,000円+税、P5がんゲノムレポートが490,000円+税、P5がんゲノムレポートプラスは940,000円+税です。また、別途検査説明費用として、300,000円+税いただいています。(2019年5月時点)

全ての方が対象とはならず、検査を受けるためには医療機関からの紹介・予約が必要となりますので、お申込みは医療機関より地域医療連携室にご相談ください。

当院の最大の特徴として、医療の質向上と安全への取り組みがあげられます。現在は「入退院センター」を立ち上げ、ようやく軌道に乗ったところです。

入退院センターでは、入院が決まった手術患者さんを主な対象とし、医師、口腔外科医、看護師、薬剤師、栄養士、リハビリスタッフなどの専門職が、患者さんの情報を共有しています。また、可能な限り患者さんが入院したタイミングで、退院の日取りや退院後にかかる病院の決定など、退院に向けた計画を立てます。

それにより患者さんの入院前や入院直後から、より適切な治療が行えるよう計画的にサポートができ、それが当院の目指す医療の質向上と安全の形につながっていると考えています。

患者さんにも、必要な情報を提供して入院中や退院後の不安を取り除けます。患者さんの現状と、入院後の展望、退院の見込みなどをお伝えできることは、このチーム医療体制の最たる利点だと考えています。

私が院長に就任した際、新しい入院患者さんへの対応が困難なほど、病院の稼働率が高いことが深刻な問題となっていました。このままでは病院がパンクしてしまうと考え、当院の体制をひとつずつ見直しました。

医師会にはたらきかけて、初診の患者さんには、必ず紹介状を持ってきていただくようにしてもらいました。紹介状がない初診患者さんに対しては、まず看護師がトリアージを行い、当院以外でも管理が可能であると判断した場合は、積極的に地域の他医療機関に紹介していきました。

最初は、なかなか実を結びませんでしたが、丁寧に続けて、3年くらいで少しずつ浸透していきました。今では、開業医の先生方、患者さんからも深いご理解をいただいていると感じています。

この取り組みの結果、当院でしか診られない重症の患者さんの対応により力を注ぐことができるようになりました。

地域の開業医の先生方との連携も、具体的な戦略がなければ進みません。そこでFAX紹介を導入しました。具体的には、地域の医療機関から当院へ患者紹介のFAXが来たら、その場で必ず予約を入れるルールをつくりました。

FAXが来たらすぐに1週間以内の予約可能な日程を、患者さんがいる診療所にお知らせします。当院の開院時間は8時から17時までですが、開業医の先生方が診療を終えられる19時まで、土曜日も事務員が待機してFAX紹介を受けられる体制を整えました。

昨今、地域包括ケアシステム構築の必要性が叫ばれています。この地域では、外来診療、在宅医療、健康増進、予防などは地域全体で担い、入院医療は当院をはじめとした総合病院が担うという形を基本と考えています。その一方で、在宅医療については、当院も深くかかわっていきたいと思っています。

具体的には、看護師の特定行為研修指定研修機関*として活動を行っています。地域の看護師をリードできる人材を育てることで、地域の在宅医療を支援しています。

また、赤十字健康生活支援講習、赤十字救急法、幼児安全法講習など、自治体への講師派遣を実施しています。今後もこのような活動により地域包括ケアシステム構築へかかわっていきたいと考えています。

*特定行為研修指定研修機関・・・看護師が医療の補助にあたる、特定行為の研修を行う学校や病院

ナースステーションの様子
ナースステーションの様子

改革を行っていくためには、病院で働くスタッフがモチベーションを維持し続ける環境づくりが欠かせません。「自分たちが働きたい病院」、「自分たちが治療を受けたいと思う病院」をめざして取り組んでいます。

医師、看護師、栄養士、リハビリスタッフなどは全て専門職といえます。専門職の人が仕事で何を成し遂げたいかというと、「自分の興味あることを追求したい」ということだと思います。そういった考えから、それぞれの職種の業務をあらためて担うべき職種のスタッフに割り振りました。たとえば、以前は医師が行っていた病床管理も、現在は看護部が担当しています。

それぞれの立場から患者さんを診て、互いに助け合うことは簡単なことではありませんが、それが真の意味での「チーム医療」だと考えています。

専門性を尊重して役割分担しながら、働きやすい環境つくりも大切にしています。

医師であれば、患者さんに対して常によりよい医療を提供したいと思うものです。高度な医療を行うためには、その“道具”が必要ですので、常に新しい医療機器をそろえる努力をしています。

また、医師と看護師では患者さんを診る視点が違います。看護師の皆さんにも、モチベーションをあげて仕事に取り組んでもらうため、さまざまな取り組みを行っています。スタッフの専門性が最大限に活かされてはじめて、患者さんにとってのよりよい医療の提供につながります。

こうした取り組みが、職員の「自分も治療を受けたい病院」の実現につながると考えています。

病室の窓から見える風景
病室の窓から見える風景

当院の内部に向けたスローガンのひとつが「エネルギー効率のいい病院をつくる」です。

組織のなかで職員は何にエネルギーを使っているかというと、「変化しないこと」であり、周りに気をつかって「新しいことに抵抗する」方向に気持ちが向きやすいものだと思います。また、環境に変化を起こそうとすると、大抵は大きな方針に沿ってトップダウンで実施しますが、これだけ職員が多いとそれも困難です。

そこで、まずは職員に自分の居るグループに目を向けてもらい、「こうしたらグループ環境がよくなるのではないか」と考える動きが多くの場所でみられたら、病院全体としてプラスの方向へ向かえるのではと考えました。

この活動には、「クリニカルマイクロシステムメソッド」と呼ばれる手法が背景にあり、当院では「エネルギー効率のよい病院」をつくるための活動としています。

医療は現場にあります。現場で解決策を考え、一人ひとりが知恵を出し合えば、もっとよいグループができると考えています。そして、そのグループの集合体が病院なのです。

現在の課題は、とにかく当院の運営を維持することです。急性期病院は、今後さらに経営が難しくなります。

この地域の医療が崩壊することがないように、当院は病院の経営を維持していかなければなりません。今後は、地域全体で、医療についてより深く学ぶ必要があると思っています。

また、医師の確保も当院の課題のひとつです。医師の採用はほぼ全て大学にお願いしているため、大学側から見ても魅力ある病院にすることが医師の確保につながると感じています。一緒に頑張ってくれている職員はこれからも大切にしていき、職員にとっても魅力ある病院にしていきたいと考えています。

佐藤先生

私は普段から若い医師には「人として当たり前のことをしなさい」ということを言っています。これは、困っている人がいたら助けるという利他の精神を持ってほしいということです。人のために働いたら自分も報われる、自分のことしか考えていなかったらいつか困難に見舞われる、そうした基本的なことを忘れないでほしいと思います。

当院は、いつまでも地域の皆さんから温かく愛される病院をめざしています。最近は病院がいい方向に変わったと言われることも増えてきました。まだまだ至らぬところもありますが、変化を恐れずに「We must change」の精神で理想の病院を実現してまいります

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