連載なぜ進む? どう防ぐ? 腎臓病・高血圧

30代も要注意! 忍び寄る高血圧を予防するには

公開日

2019年01月29日

更新日

2019年01月29日

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2019年01月29日

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医療法人社団善仁会 中田駅前泉クリニック 院長、医療法人社団ときわ 理事、横浜市立大学腎臓高血圧内科 客員研究員

上條 由佳 先生

健康診断で「血圧が高め」と指摘を受けても、体に不具合を感じないからと放置している人も多いのではないでしょうか。しかし、「サイレントキラー」ともいわれる高血圧はある日突然キバをむき、その後の人生を暗転させることもあるのです。どうすればこの“見えない殺し屋”から逃れられるでしょう。

大事な商談を前に緊急搬送された男性の嘆き

「会社の健診も毎年受けていたし、悪いところなんてなかったのに……これからどうしたらいいんだ」

外資系企業に勤める男性Oさんは30代独身。大手取引先との商談が数日後に迫ったある日、通勤中に倒れて救急搬送され、途方に暮れていました。

Oさんの日常は、日付が変わるまで仕事をし、その翌朝から海外出張ということも珍しくありません。取引先との接待や打ち合わせも頻繁にあり昼食、夕食ともほぼ毎日外食です。さらに、商談に向けてこの数週間は多忙を極めていました。頭痛の頻度が増していたのですが、睡眠不足や二日酔いのせいと思い頭痛薬を飲んでごまかしていました。搬送は、そんなさなかに起こったのです。

病院到着時の血圧は220/126mmHg、脈拍90/分、体温37.1度、呼吸数20回/分、酸素飽和度(SpO2)92%。呼吸は荒く、意識はもうろうとしていました。脳のCTやMRIでは異常はみつかりませんでしたが、尿検査を行おうとしても尿が出ません。血液検査などの結果、「高血圧緊急症」「腎不全」と診断され、大切なスケジュールを前に入院することになってしまいました。

高血圧緊急症とは?

Oさんが診断された高血圧緊急症とはどんな病気なのでしょう。血圧が非常に高く(多くは180/120mmHg以上)なることによって、臓器障害が急性に進行する状態になるのが高血圧緊急症です。普段から血圧がやや高めで自覚症状のない人が、ストレスやイベントを契機に突然進行し、発症することがあります。

血圧は多少高くても普段は自覚症状がありませんが、“限界”を超えて上昇すると、臓器に血液が流れなくなったり出血したりすることで、さまざまな臓器に障害を生じます。具体的には、高血圧脳症・脳出血(意識障害、頭痛、痙攣<けいれん>、悪心嘔吐<おうと>、しびれ、麻痺<まひ>など)▽腎不全(意識障害、乏尿、悪心嘔吐、食欲不振、呼吸困難など)▽心不全(呼吸困難、胸痛など)――などに伴う症状を急激に発症。命に関わる緊急事態に陥ったり、日常生活に支障をきたす後遺症が残ったり、一生治療し続けなければならなくなったりして、病気の前後で生活が一変してしまうこともあります。

そうならないためには、日常の血圧管理が重要です。

高血圧はなぜ怖い?

高血圧は日本では有病者数(特定の疾患を持つ全患者数)が推定4300万人(注)と、もっとも患者数の多い生活習慣病です。なぜ高血圧が問題なのでしょう? 血圧が高い状態が続くと血管の壁に強い圧力がかかり、血管が傷ついたり硬くなったりして動脈硬化を早めます。糖尿病や脂質異常、慢性腎臓病(CKD)、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中などの重大な病気の原因になり、進行すると命に関わることもあります。

血圧は高齢になるほど徐々に高くなっていくものですが、近年は生活習慣やホルモン異常の影響によって30代で高血圧を発症する例も増えてきています。

定期健診などで高血圧を指摘されても、前述のように多少血圧が高い程度では自覚症状がありません。そのため若い人、仕事が忙しい人ほど「わざわざ医療機関に行って治療する時間がない」と放置してしまいがちです。ですが、軽症でも長年放置すると動脈硬化が進んで重症化するリスクが高まります。また、高血圧を放置していると、脳内に小さな血液のかたまりが増える「ラクナ梗塞」を起こし、認知症の一因にもなるといわれています。

さらに、冒頭で紹介したOさんのように突然、臓器の虚血状態を招く高血圧緊急症や、視神経にも異常をきたすなど合併症が急速に進行する「悪性高血圧」も働き盛りの若い人に多い病気です。高血圧により腎臓が障害された急性腎不全から透析開始を余儀なくされることもあります。

別の病気が隠れていることも

高血圧には生活習慣のみが原因の「一次性高血圧」(全体の90%以上)と、ホルモン異常やその他の病気が原因の「二次性高血圧」があります。このうち二次性高血圧は重症化しやすく、原因となっている疾患の検査や治療を行う必要があります。30~40代と比較的若年の高血圧は、まず二次性を疑い専門医の検査を受けましょう。

高血圧を防ぐ生活習慣は最重要

自覚症状がなく進行し、合併症で生活の質(QOL)を大きく低下させ、時には命を奪う高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれます。その原因と予防法を知って、若いうちから血圧コントロールを心がけることが大切です。高血圧にならないためには、以下のような生活習慣改善が有効です。

減塩

減塩は高血圧の予防や血圧抑制のために最も重要です。高血圧の患者さんは食塩摂取量を1日6g以下にしましょう(日本高血圧学会などの推奨値)。舌には塩分を感じる「受容体」があり、塩分と結びつくことで塩辛さを感じます。この受容体はいつも高い塩分状態にさらされると感受性が低下することがわかっています。常に味の濃いものを食べていると、塩辛さ感じにくくなるのです。それが常態化すると知らないうちに塩分過剰になり高血圧や心臓病、腎臓病、がんなどのリスクが高まります。

2〜6週程度でこの受容体は変化していきますので、塩分を抑えた食事を心がけていると、1カ月ほどで薄味でもおいしさを感じられるようになります。減塩醤油を使う、漬物やみそ汁を控えるなど工夫してみましょう。また、飲食店の料理はどうしても味付けが濃くなりがちですので、できるだけ外食を控えることも減塩に有効です。

ミネラル摂取

カリウムには、尿中に塩分を出しやすくする働きがあります。また、マグネシウムはその働きを助けます。カリウムやマグネシウムは野菜や果物、海藻類、豆類、ナッツ類などに多く含まれています。ただし、高齢や腎臓病患者さんは、カリウムを取りすぎると害になることがありますので、かかりつけの医師などに確認しましょう。

肥満解消

肥満によって引き起こされる高血圧が増えてきています。減量で血圧を改善させましょう。

適度な運動

適度な運動によって自律神経の働きが安定し、血流促進などで血管が拡張して血圧が下がります。

ストレス解消

ストレスや睡眠不足は血圧に大きな影響を与えます。自分にあったストレス解消法を見つけましょう。また、睡眠時無呼吸症候群も高血圧の大きな原因となります。いびきをかいている人、日中の眠気が気になる人などは、耳鼻咽喉科や呼吸器科を受診しましょう。

禁煙

たばこは血圧を上昇させ、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中の原因となることがわかっています。

適正飲酒

アルコールは一時的には血流をよくし、血圧を下げる効果もみられます。しかし、飲みすぎると逆に血圧を上げます。飲みすぎの状態が続くと、心疾患のリスクが急速に高くなります。

血圧測定の習慣化を

これまで説明したように、血圧が高い状況が続くと知らず知らずのうちに病を引き寄せ、取り返しのつかない事態を招くことがあります。日頃から血圧を測ることを習慣づけ、正常範囲を超えた場合には早めに専門医へ受診しましょう。

  ◇  ◇  ◇

注:循環器病の予防に関する調査(ニッポンデータ2010)などから推計

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医療法人社団善仁会 中田駅前泉クリニック 院長、医療法人社団ときわ 理事、横浜市立大学腎臓高血圧内科 客員研究員

上條 由佳 先生

全人的総合的腎不全医療(Total Renal Care:TRC)を推進・普及させるためにアウトリーチ活動を行っている。一人ひとりの腎不全患者が自己管理や行動変容を実現するための教育というミクロなアプローチから、腎不全患者自身がさまざまな治療の選択肢を持てるようにするための社会システム全体の構築というマクロなアプローチも積極的に行っている。