連載快便生活入門講座

「下剤はクセになる」は“迷信”?!

公開日

2019年04月04日

更新日

2019年04月04日

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2019年04月04日

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自治医科大学 医学部 外科学講座 消化器一般移植外科学部門 教授

味村 俊樹 先生

慢性便秘症の治療で生活の質を改善【1】

「下剤を飲むとクセになる」「下剤を毎日飲んでいると次第に効かなくなる」との言葉を聞きます。これを真に受けて下剤を飲む日をなるべく少なくする方も。でも、その考えが間違いだとしたら、読者の皆さんは驚かれるでしょうか。あるいは「これまでの我慢は何だったのか」とお怒りになる方もいるのでは? 下剤を正しく使えば、“お通じの悩みと苦しみ”から解放されるかもしれません。

平日は下剤を控え週末に大量排便

30歳代女性のAさんは、高校生の頃から便秘症で、下剤を飲まないと1週間以上排便がありません。ですが、知人の「下剤を飲むとクセになるので、できるだけ飲まないようにした方が良い」との言葉を信じ、平日は下剤を内服しないで便をためこみ土曜の夜に多量の刺激性下剤を内服。日曜に大量の排便をしていました。

下剤

下剤が効き過ぎ、日曜は1日に5~10回の頻回便となってしまいます。最初は硬い便のために排便困難や肛門痛、まれに肛門出血を生じて排便に苦労し、最後の方は下痢便のためにトイレにぎりぎり間に合うという状態。1度は外出中に間に合わず、便失禁をしたこともありました。

そもそも「便秘」とは?

便秘とはそもそもどんな状態でしょうか。日本消化器病学会の「慢性便秘症診療ガイドライン」(2017年10月発行)では「本来体外に排出すべき糞便(ふんべん)を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。そして便秘症とは、「便秘による症状が表れ、検査や治療を必要とする場合であり、その症状として排便回数減少によるもの(腹痛、腹部膨満感など)、硬便によるもの(排便困難、過度の怒責=いわゆる『いきみ』=など)と便排出障害によるもの(軟便でも排便困難、過度の怒責、残便感とそのための頻回便など)がある」とされ、それが慢性的な状態となっているのが「慢性便秘症」です。 

さらに便秘症は、大腸の蠕動(ぜんどう)運動能力の低下のために排便回数が減少している「大腸通過遅延型便秘症」▽経口摂取量(特に食物繊維摂取量)低下に伴って本来排出すべき糞便量が少ないために排便回数が減少している「大腸通過正常型便秘症」▽直腸・肛門の機能・構造の異常のために直腸にある糞便をたとえ軟便でもスムーズに排出できない「便排出障害」――の3病型に大別されます。

今回は、治療に下剤が必要かつ有効な大腸通過遅延型便秘症についてのお話です。

大腸通過遅延型の治療には非刺激性下剤を毎日服用

大腸通過遅延型便秘症の治療では、酸化マグネシウムなどの非刺激性下剤を基本的に毎日内服し、センナや大黄などが配合された刺激性下剤はレスキューとしての頓服(症状があるときだけ服用)にとどめるのが下剤の適切な使用方法です。そして、下剤調整の最終目標は、レスキューを必要としないように非刺激性下剤の種類や量を調整することです。

「非刺激性下剤」とは、大腸の壁から水分を引き寄せ便の水分量を増やして軟らかくしたり、水と結びついて便を膨らませたりすることで、便を出しやすくするお薬です。一方の「刺激性下剤」とは、文字通り大腸を刺激し動きを活発にして排便を促します。

正常な排便のメカニズムは

排便は、交感神経や副交感神経といった自律神経によって支配されています。「本来排出すべき糞便」はS状結腸にたまっています。目覚めの刺激や、食事をしたことで起こる「胃結腸反射」などによって自律神経に支配される大蠕動(便の塊を大きく移動させる腸の動き)が生じ、S状結腸の糞便が直腸に移動。それによって便意が生じます。トイレに行き、怒責動作に伴って直腸内圧を高め、直腸に存在する糞便を自分の意思で肛門から排出する――それが正常な排便です。

朝起きた時は通常、自宅にいますし、食事をする場所にも大抵トイレがあります。したがって、正常な自律神経に支配されている限り、大蠕動が発生し、便意が生じるのは「排便をしてもよい状況にある時だけ」なのです。非刺激性下剤は適量を内服している限り、この大蠕動が発生しやすい状況・環境を作るだけで無理やり発生させる作用はありません。

自宅のトイレ

それに対して刺激性下剤は、内服した時間に応じて直接的に大蠕動を発生させるため、不都合な状況でも便意を生じさせ、トイレを探さなければいけないために生活の質が障害されるのです。

これが、私が「大腸通過遅延型便秘症の治療では、非刺激性下剤の毎日の内服を基本とし、刺激性下剤はレスキューとしての頓服にとどめるのが下剤の適切な使用方法である」と唱える理由です。

「クセになる」「効かなくなる」は本当か

さてここで、下剤の連用をためらう人が抱いている不安について考えてみましょう。

冒頭のAさんは「下剤はクセになる」から平日は服用しないと言っていました。医学的に言い換えると「下剤には嗜癖(しへき=addiction)の薬理作用がある」ということになります。「addiction」は、薬物などへの「依存」を意味することもあります。しかし、麻薬や覚醒剤とは異なり、下剤が精神的、肉体的な嗜癖や依存性を引き起こすことを証明した研究は皆無なのです。

また、「下剤を毎日飲んでいると次第に効かなくなる」ともよく言われます。医学的に言い換えれば、「下剤に耐性(tolerance)の薬理作用がある」ことになります。ところが、下剤に耐性の薬理作用があることを証明した研究も皆無なのです。確かに、ある一定量の下剤を内服して良好なコントロールを得ている患者さんが、5年くらいしてコントロール不良となり、下剤を増量したり他の下剤を追加したりする必要性が生じる場合があります。しかし、それは便秘の状態が加齢に伴って悪化した可能性が高く、必ずしも下剤に耐性を生じたとは言えません。

エビデンスなき“迷信”

少し古い文献になりますが、学術的に信頼性の高い医学雑誌であるAm J Gastroenterology(2005;100:232-242)に「慢性便秘症に関する迷信と誤解(Myth and Misconceptions about chronic constipation)」との題名の論文が掲載され、その中では、「刺激性下剤に耐性が生じることはまれである(Tolerance to stimulant laxatives is uncommon.)」「下剤が濫用(らんよう)されることはあるが、嗜癖(クセ)になる可能性はない(While laxatives may be misused、 there is no potential for addiction)」と記載されています。「クセ」「耐性」は、エビデンスもないまま誰からともなく語られるようになった“迷信”と言ってもいいでしょう。

適切な下剤使用で快食・快便に

さて、冒頭で紹介したAさんは、下剤についての認識を改め、酸化マグネシウム1.8gを朝夕に分けて内服することにしました。その結果、毎日1回朝食後に食べ頃のバナナ程度の硬さの便が出るようになり、排便困難感も残便感もないそうです。適量の非刺激性下剤内服のお陰で、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出」できるようになったために、快食・快便で快適な生活が送れるようになったのです。

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自治医科大学 医学部 外科学講座 消化器一般移植外科学部門 教授

味村 俊樹 先生

便秘・便失禁など排便機能障害の研究・診療における第一人者。各メディアを通じた排便障害の啓発活動も精力的に行っている。