2025年02月17日
2025年02月17日
更新履歴近年、企業の「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えました。
健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、その取り組みを実践する経営手法です。 単に従業員の健康診断や運動機会の提供だけでなく、メンタルヘルス対策や働き方改革など、より広範な取り組みが含まれます。
2016年から健康経営の取り組みを始めて健康経営優良法人認定上位500社の上場企業である「健康経営優良法人(ホワイト500)」に2017年から8年連続の認定、さらに上位500社以内の上場企業から1業種1社が選定される「健康経営銘柄」にも2019年、2020年、2024年と三度も認定を受けたディー・エヌ・エー(DeNA)。「健康経営銘柄」認定を受け、継続していくにはたくさんの工夫や秘訣があるようで、さまざまな施策や苦労秘話をCHO(最高健康責任者)を務められる三宅さんにお伺いしました。
インタビューに応じてくださった方:
CHO(最高健康責任者)CMO(最高医療責任者)東京科学大学 客員教授 厚生労働省技術参与 三宅邦明さん
――健康への意識が組織的に向くようになったきっかけはあったのでしょうか
当社はエンジニアが多い組織です。社員アンケートでは「長時間座りっぱなしで腰が痛い」、「眼精疲労がひどい」といったデスクワークならではの悩みを持つ社員が多い結果が出ていました。
2016年の平均年齢が33歳と比較的年齢が若い組織でしたが、健康に関する悩みを持つ社員が多かったことから、「パフォーマンスを最大限発揮するには健康も大事」という雰囲気が醸成されてきました。
会長の南場が常日頃から「人材が一番宝だ。」と言っているように、人材を大事にする組織であるべく、そのころから本格的に健康経営に着手し始めました。
――着手しはじめたころはどんなご苦労がありましたか
南場がCHO(Chief Health Officer)として就任し、CHO室を設立しました。
CHO室では社員が“知らず知らずのうちに健康になっている”という状況を目指し健康5箇条を作りました。
会社から健康施策を押し付けられることには抵抗感が強く出るだろうと、“楽しんで取り組める・生活に自然に取り入れられる”ような工夫を練り込んできました。
コロナ禍以前は出社が主でしたので、たとえばトイレにポスターを貼ったり、食堂でサラダボウルを提供したり、ほかにも階段を使用してもらえるようなポスターなどの視覚的工夫やマインドフルネス講義など、オフィス内でできる直接的な介入を凝らしてきました。
その後、今から約3年前に私が2代目として南場からCHOを引き継がせてもらったのですが、この当時はコロナ禍真っただ中でした。
当社もリモートワークに勤務形態を変更したことで、コロナ禍以前の取り組みは継続が厳しくなりました。その結果、3点の大きな課題が浮き彫りになり、「伝え方の変革」「心身の健康課題への取り組みの変革」が迫られる状況になりました。
1つ目は、リモートにより社員の健康習慣が激変し、運動不足(歩数減少と大幅な体重増加)がみられたことです。1日1,500歩未満しか歩かない社員が全体の約4割にもなり、前年よりも体重の増加した社員が6割に達する状況になりました。
全社員の体重の増加分の合計値を見た南場からは「これってつまり私たちの会社で3トンの脂肪がついたってことね」と鋭い意見をもらい、会社としてしっかり課題として捉え改善する必要がありました。
2つ目は、メンタルケアの必要性が出てきたことです。1人で黙々と作業するのが比較的得意なエンジニアでも、1人暮らしでずっとリモート業務を行うとなると少なからず孤立感を覚えます。チームとしての生産性の低下やコミュニケーション不足も起きていました。
3つ目は、会社に対するエンゲージメントの低下です。会社からの発信を“見てもらう・知ってもらう”ことが難しくなったことが影響しています。
出社時は、雑談相手は同僚ですが、リモートだと家族やご近所など社外のコミュニティに変わります。以前は業務の隙間時間にアンケートなどに協力してもらえていたのが、リモートだとその時間は家事などに当てる時間になってしまい、アンケート回答率やイベント告知の認知がとても下がるといったことが起こりました。
間接的な介入しかできない制約の中で、どのように食生活や運動習慣の改善を行うか、またメンタルケアを行うか、という点でかなり工夫と努力が求められる状況でした。
――変化した健康課題に対してそれぞれに対してどんな工夫をされましたか
運動不足への打ち手としては、“目標を持って励まし合う”環境を作ること。リモートワークでも参加できるハイブリッド形式で実施する社内運動会FFO(Fit Festa Online+)を開催しました。また、自社のスポーツチームの観戦へ歩いて行くツアーを企画するなど1か月間運動を意識する取り組みを実施しました。またグループ会社で作っている「kencom」というヘルスケアエンターテインメントアプリを使用し歩数を競うウォーキングイベントも開催しました。チーム戦でイベントを実施した結果、協調性やピアプレッシャーがかかったことにより、全体の運動量が上昇しました。約500〜700人の社員が参加し、全員の歩数を足すと“世界1周半”分という結果になりました。現在でもオンラインヨガ、理学療法士によるオンライン配信などを企画するなど、ハイブリット型を意識した健康施策を継続しています。
メンタルケアへの打ち手としては、出社した際に同僚と気軽にお茶を飲みながらコミュニケーションができるようなコンテンツを用意する取り組みをしています。
ほかにも「楽しく健康に」をテーマに、健康測定イベント「オフィスにGOGO!フライデー」を実施して参加者には健康的なお菓子を配ったり、臨床心理士に気軽に相談できるオンライン雑談「ホッとカフェ」を開催したりしました。
今年はメンタルケアをよりよくしていきたいと思っており、定量的な目標・指標を掲げてメンタル不調者改善を向上させていきたいです。
最後にエンゲージメントの改善ですが、まずは認知してもらう工夫から実施しています。お知らせ方法については、Googleカレンダーに予定化することで如実に認知効果が出ました。任意参加としてカレンダーに招待することで、実施するセミナーやイベントへの参加率が2〜3倍に向上するなど、よい効果をもたらしています。また、「人が人を呼びたくなる」ことを意識し、同僚同士が一緒に会社の施策に参加したくなるように工夫をしています。
ほかにユニークな点としては私自身が医者ということもあり、社員全体にではなく、ある特定属性(PMS、片頭痛、アレルギーなど)に対して医療観点から情報伝達するのも特徴だと思います。
また産業医との連携強化を実施し、産業医のフォローアップをすることで健康診断や特定保健指導の受診率が上がり、ここ2〜3年では健診受診率がほぼ100%になってきました。
とはいえ、プレゼンティーズム(仕事を休むほどではないが、花粉症や腰痛、頭痛などを感じ、仕事に集中できない状態)についてはずっと向き合って改善を続けるものだと思っています。
リモートワークがもたらす健康課題を少しでも減らし、「楽しく健康に」社員がパフォーマンスしていけるよう、これからも早期に多面的に健康に対して向き合っていきたいと思います。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。