連載「こんなこと、あるんですよ!」整形外科医が教える骨と筋肉と関節の話

足裏のタコは不調のサイン 腰痛、肩こりの原因が分かることも

公開日

2020年02月10日

更新日

2020年02月10日

更新履歴
閉じる

2020年02月10日

掲載しました。
5216b3bbf2

北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授、北里大学 大学院医療系研究科臨床医療学 整形外科学 教授

高平 尚伸 先生

足裏にいつの間にかできる硬く盛り上がった「タコ」。足裏のタコは、特に体重がかかる部位にできやすく、立ったり歩いたりしたときの姿勢と深く関わっています。実は、タコができた部位から、その方の体の不調が予想できることがあります。例えば、足の前方にタコができた方は、腰痛を起こしやすいことが考えられます。それはなぜなのでしょうか。今回は、足裏のタコができた部位から、どのような体の不調が考えられるのか、その根拠とともに解説します。

「足裏のタコが痛い」変形性膝関節症患者さんの訴え

変形性膝関節症で治療中のAさん。この病気は、膝の軟骨がすり減るために関節が変形し、痛みなどが現れる病気です(「適切なケアで変形性膝関節症の進行を防ぐ」参照)。Aさんは、変形性膝関節症が原因で、体を支えるバランスが崩れO脚が進行していました。しかし、受診時にAさんが訴えたのは、膝の痛みやO脚だけではありません。「足裏のタコが痛くて仕方がない」とおっしゃるのです。

O脚と足裏のタコの関わり

一般的に、体にできる「タコ」は、皮膚の一部が継続的に刺激を受けることで角質層が厚く硬くなり、盛り上がってくるものを呼びます。足裏以外にも体のさまざまな部位にできる可能性があります。例えば、熱心に勉強を続けた結果、指に「ペンダコ」ができた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

立ったり歩いたり、階段を上ったりなど日常生活の中で、足は日々私たちの体重を支えています。足裏のどこかにタコができた場合には、その部位に特に体重がかかっていることが予想できるのです。

私のところにいらっしゃる変形性膝関節症の患者さんの中には、Aさんのように足裏のタコの痛みを訴える方も少なくありません。実はAさんの足裏のタコは、O脚と関係していることが考えられます。O脚による歩き方の変化など、タコができるような体重のかかり方の偏りが常態化する原因として、立ったり歩いたりしたときの姿勢に問題があることも少なくありません。そうした問題と足裏のタコの出現部位の関係を具体的に説明していきましょう。

部位ごとに予想できる体の不調

図1は、主にタコができる部位を示しています。ここでは、(1)足の前方(青色の部分)、(2)足の側面(緑色の部分)、(3)爪先とかかと(赤色の部分)の3つに分類しました。

タコができる主な場所
図1  タコができる主な部位


タコができる部位は、特に体重がかかっていることを意味します。全ての方に当てはまるわけではありませんが、それぞれの部位ごとに重心の位置が影響し、立ったり歩いたりしたときの姿勢の特徴を予想することができます。

まず、(1)足の前方(青色の部分)にタコができた場合には、足のつま先付近に体重がかかっていることが考えられます。前方に重心がかかると、バランスをとるために体を起こそうとして、骨盤が前に倒れやすくなります。すると、「そり腰」という腰をそらせお尻が出るような姿勢が多くなります。そり腰を続けると、腰痛が現れやすくなります。

そり腰の様子
図2 そり腰の様子


(2)足の側面(緑色の部分)にタコができた場合には、O脚やX脚によって、足の内側か外側のどちらかに体重がかかっていることが考えられます。たとえば、足の外側にタコができるのは、O脚の方が少なくありません。この場合、膝の内側に痛みがあり、さらに足の外側に体重がかかっているケースが多いでしょう。一方、足の内側にタコができるのは、X脚の方が多いと考えられます。膝の外側に痛みがあり、さらに足の内側に体重がかかっていることが考えられます。

(3)爪先とかかと(赤色の部分)にタコができた場合には、後ろに重心がかかっていることが考えられます。倒れないよう爪先にも力が入るため、爪先にタコができることもあるでしょう。重心が後ろだと、バランスをとるために頭が前方に傾きがちになります。その結果、猫背になりやすく、肩や首のこりを訴える方が多いことが考えられます。

“壁際ストレッチ”で重心のバランスを整える

お話しした3つのパターンは、特定の部位に体重がかかっているために体の重心のバランスが崩れ、不調が現れている状態といえます。このような状態では、体のバランスを整えるために、ストレッチが有効であると思います。私がお勧めしているのは「壁際ストレッチ」です。

壁際ストレッチのやり方
図3 壁際ストレッチ


【壁際ストレッチのやり方】

  1. 壁から約1m離れた場所に立ちます
  2. 片足を出し、両手を肩の高さで壁につきます
    足裏をきちんと床につけ、爪先はまっすぐ前に向けます
  3. 壁をゆっくり押しながら前脚の膝を深く曲げ、後脚の膝をピンと伸ばし足裏を地面に押し付けます
  4. その時、両肘をピンと伸ばし上体を前に倒さず起こします
  5. 逆の足も同様に行います

このストレッチでは、背筋を伸ばすとともに、足裏をぴったりと床につけることを意識してください。(1)足の前方(青色の部分)にタコができ腰痛が生じていたような方は、股関節の前側の筋が伸ばされ、骨盤をまっすぐに戻すことで痛みを和らげる効果が期待できます。(2)足の側面(緑色の部分)にタコができて膝の痛みが現れていたような方は、太ももの前側の筋肉が鍛えられ、足をまっすぐに地面につけることで足の左右の傾きを正す効果が期待できるでしょう。また、(3)爪先とかかと(赤色の部分)にタコができて肩こりが生じていた方は、背筋を鍛えることで猫背の改善につながるでしょう。

さらに、足の指が縮こまった状態であれば、ゆっくりソフトにストレッチすることによって足裏全体に均等に圧をかけやすくなり、日常生活で歩くときにも足裏全体に重心がかかるようになる効果が期待できます。また、足腰の筋肉を鍛えることで、重心を体の中心に戻すことにもつながるでしょう。

O脚やX脚で膝の痛みを改善させるためには、靴の中敷きのような役割を果たす足底板(そくていばん)を入れることもおすすめです。たとえば、O脚であれば足の外側を少し高くするようなものを入れたり、X脚であれば内側を少し高くするようなものを入れたりすることで改善され、膝の痛みが和らぐことが期待できます。

足低板
図4 足底板

足裏のタコが体の不調改善のきっかけにも

このように、足裏のタコができた部位によって、立ったり歩いたりしたときの姿勢の特徴を予想することができます。もちろん、必ずしもご紹介したような不調が現れているとは限りません。しかし、足裏のタコが、なんらかの体の不調のサインである可能性もあります。それに気づくことが、姿勢を正し、不調を改善するきっかけになるかもしれません。足裏にタコができた、あるいは、長年タコに悩まされている、という方は、あてはまる不調がないか一度確認してください。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。