北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授、北里大学 大学院医療系研究科臨床医療学 整形外科学 教授
スポーツにけがはつきもの。けがの中には擦り傷など見た目からわかりやすいものもあれば、わかりにくいものもあります。子どもの場合には、見た目からわかりにくいけがであっても大人が早く気づいて適切な対処をすることが必要です。対処が遅れると長く痛みが残ったり、ときに体の成長に影響が及んだりすることもあります。今回は、「成長痛」と間違えやすい、10代の膝痛の原因について一緒に考えてみましょう。
「お母さん、最近左の膝が痛い」
ある日の夕食中、主婦のSさんは14歳のK君の訴えを聞きました。彼は地元のサッカークラブのレギュラーで、毎日練習に励んでいます。K君は成長期の真っ盛り。よく食べてよく動き、身長も急激に伸びていました。
「ただの成長痛でしょう。しばらくしたら治ると思うよ」
この年頃だしただの成長痛だろうとSさんは彼の膝の痛みについてあまり気にしていませんでした。しかし、数カ月たっても膝の痛みはよくなりません。それどころか症状が強くなってサッカーの練習に支障が出てしまい、大事な試合の前に走ることもままならなくなってレギュラーから外れてしまいました。
さすがに心配になったSさんはK君を連れて整形外科を受診。膝のお皿の下の痛みとレントゲン検査の結果から「オスグッド・シュラッター病」であることがわかりました。
オスグッド・シュラッター病は膝のお皿の下の骨が少しずつ突出し、痛みや腫れが生じます。あまり聞きなれない病気ですが、実はサッカーやバスケットボール、バレーボールといった膝に負担のかかるスポーツをしているティーンエージャーに多く起こります。成長期に特徴的な痛みで、Sさんのように「成長痛」と考えて様子を見る人も多いと思われます。
なぜこのような症状が起こるのでしょうか。膝を伸ばす動作では、図のように大腿四頭筋と呼ばれる太ももの筋肉が収縮して、膝蓋腱(しつがいけん=膝蓋骨を介して大腿四頭筋と脛骨<けいこつ>をつないでいる腱)が脛骨を引っ張ります。成長期には骨の成長に対して大腿四頭筋や膝蓋腱の成長が間に合わず、骨の長さに対して筋肉や腱が短い状態が生じて筋肉や腱の付着している骨の部分に強い負荷がかかります。成長期には付着部の骨が柔らかいこともあり、その負荷によって腱が骨から剥がれてしまうことで痛みや腫れが生じるのです。
以下に該当する場合は、オスグッド・シュラッター病の可能性があります。
オスグッド・シュラッター病は、「オスグッドバンド」と呼ばれる専用のバンドを患部に巻いて、数週間から数カ月間安静にしていれば痛みは軽くなります。まだ普及している治療ではないものの、バンドの代わりに専用のテープ(オスグッド・シュラッター病痛軽減用キット)を巻いてテーピングをすることで、バンドを巻いている状態と同じ効果を得られる治療法も、私の所属する北里大学が開発しました(特許取得済)。このオスグット・シュラッター病痛軽減用キットによるテーピング治療は、従来のオスグッドバンドによる治療と比べて足の血流を阻害せず、動きやすい点がメリットです。
上記のような患部を圧迫固定する治療のほか、患部に氷を当てて冷やす、大腿四頭筋のストレッチをすることも痛みの改善に効果があります。ストレッチは、症状の改善だけでなく発症予防にも効果的です。
左)立って行うストレッチ
1.片足で立ち、上げているほうの膝を曲げて足首をつかむ(安定しない場合は壁に手をつけるなどして体を安定させる)
2.太ももの前の部分が伸びている感じがしたら、20秒キープする
3.ゆっくりと元に戻し、もう片方の足も同様に行う
右)座って行うストレッチ
1.片足を曲げ、曲げたほうの足の甲が床につく状態で床に座る
2.両手を後ろに置き、体をゆっくりと後ろに倒す
3.そのまま20秒キープする
4.曲げている足を伸ばし、もう片方の足も同様に行う
ストレッチをするときのポイント
このように、オスグッド・シュラッター病は適切な治療を受ければ改善が見込める病気です。しかし、「ただの成長痛」だと思ってきちんと治療をしないと、「遺残」といって痛みが残ってしまうこともあります。
子どもは、痛みがあっても我慢してスポーツを頑張りすぎてしまったり、部活動やクラブなどを休むことに抵抗があったりして、自分の症状をきちんと大人に伝えられない場合もあります。そのため、保護者やコーチなどの指導者、教師らがこの病気の知識を持ち、しっかりと子どもの状態を見ておくことが大切です。もし、子どもが膝を痛がる様子が見られたら、一度整形外科を受診して適切な診断と治療を受けるとともに、休養が必要な場合は子どもが心配なく休めるようサポートをしてください。無理をしてスポーツを続けるよりも、必要な時期に休養を取るほうが結果としてその後痛みに悩むことなく目一杯スポーツに取り組めます。
成長期は子どもの健やかな体を作る大切な時期。大人がきちんと子どもの様子を見てあげてくださいね。
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北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授、北里大学 大学院医療系研究科臨床医療学 整形外科学 教授
北里大学病院整形外科にて、股関節手術、ロコモティブシンドローム、姿勢など、さまざまな分野の治療に従事。著書も多数あるほか、TV出演なども行なっている。近年では、ロボットを用いたヘルスケア指導など、新しいとりくみにも尽力されている。